海藻と何でもポケット
浜辺の近くの倉庫。
ここ数日、潮の匂いのキツいこの場所に、ライラティーヌは入り浸っていた。
中には大量の海藻が、あちこちで小山になって積み上げられている。
何でもポケットは、リスト化していないと上手く取り出せない。
その為、引き上げられた海藻達を、種類別に分類する作業が発生したのだ。
リストはポップアップ式で、ステータスボードのような半透明のボードで宙に出てくる。そこにツェツィで書き込んでリスト化する。
何でもポケットは育てて行く魔術具で、一度でも記載した物は記憶する。
例えば既にリストに『トマト三個』という記載があれば、追加で二つ入れた時、勝手に『トマト五個』とリストが修正される。
けれども、一度もポケットに記憶させていない物は、リストに記載せずに投げ込めば『unknown』となる。
取り出すには名前ではなく、時間などを指定して取り出す事になるのだ。『昨日入れたunknown』みたいな感じだ。
手間はかかるが、その分愛着が湧く魔術具だった。
だがその手間が、今は恨めしい。
リスト化するために仕分けが必要なのだが、兎に角、海藻の量が鬼なのだ。
潮の匂いと海水特有のベトベト感で、全身丸汚れだ。
正直、やってられない作業だ。
だが、海辺の街なんて今後いつ来れるか分からない。他の植物なら、数株入れておけば別の土地で増やせるが、海藻は違う。淡水でも育つ物があればいいが、基本的に増やせないと考えておいた方が良い。
どんなに大量だろうが、捨てるなんてとんでもない。根こそぎポケットにぶち込むまで、汚れなんて気にしていられないのだ!
―――これはワール藻、こっちはコール藻、おっ新種発見。鑑定鑑定っと。
「うー。全然終わりが見えないです! 腹減りました!」
ハムが弱音を上げた。
気持ちは分かるが、同情なんてしてあげない。
だって、カロリングに戻る日はもうすぐなのだ。それまでに何としても終わらせる必要がある。
ライラティーヌは焦っていた。
「さっきトルティを食べたばかりではないですか」
「ライラティーヌ様はよく平気ですね。この匂い、堪りません」
「心頭滅却すれば、ですよ。何種類の海藻があるのか分からないのですから、全部に目を通してチェックするしかないでしょう。口より手を動かしてください」
ハムに喝を入れていると、フォルクハルトが何かを思い付いた顔で近寄ってきた。
「ライラティーヌ様。何でもポケットには記憶機能があるのですよね」
「そうですよ。でも海藻は初めて入れる物ですから、無暗に突っ込めばunknownだらけになってしまいます」
「であれば、今判明している海藻を一種類に付き一つずつ、先に入れて記憶させれば良いのでは? その後一旦全部をポケットに収納すれば、ポケットが同じ物は仕分けてくれます。その後、unknownだけ再度取り出して仕分ければ」
「あ!」
それなら確かに、わざわざ全部に目を通さなくても良い。名称が分かっている海藻だけがポケットに残り、未鑑定分だけが出てくる。
「おほほ。やっとそれに気づきましたか。貴方達を試していたのですが、合格ですわ」
勿論、今気づいたのだが。
護衛騎士達の白けた視線が痛い。
「こほん。やってみますね」
今判明している五種類をリストに記載して、収納。それから一旦全部をぶち込んだ。
「さっき入れたunknown出ておいで」
目の前に現れたのは、小さな山一つ分。量にして先ほどのニ十分の一くらいだ。
「おお!」
「やった!」
「これでメシが食える!」
いきなりゴールに近づいて、騎士達が快哉をあげた。
そこから新種を探して、同じ手順を二度繰り返せば、残りはゴミだけになった。
「呆気なく終わりましたね。フォルクハルトお手柄です!」
「おや、ライラティーヌ様はとうにお気づきだったんでしょう?」
「意地悪ですね。全然思いつきませんでした!」
「頭が良いのに、変な所で抜けてますよね」
「そこがライラティーヌ様の良いところですね。……あれ?」
雑談しながら、ゴミを片付けていたフェーベの手が止まった。ゴミの中から何かを拾い出している。
「これ、何でしょう?」
フェーベから受け取った物は、白い石で出来た右手だった。手首から上の部分だ。
「石像の欠片?」
「みたいですね。壊れて捨てられたのでしょうね」
「残念ながら、お宝では無さそうですね」
捨てるのも忍びない気がして、ついでに何でもポケットに放り込んだ。
「何だか無駄な数日を過ごしたような気がしないでもないですが、目的を達成出来て良かったです。さて、最後に後片付けですね。いきますよ。クーシュリング!」
大範囲のクーシュリングをかける。倉庫は来た時よりも美しくなり、身体のベトベトもスッキリした。
「では、時間も余ったし、もう一つの目的を達成しに行きましょう」




