↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/92

海開き

長いお休みをいただきました。

のんびり再会します。出来るだけ平日は毎日アップする予定です。

今後も読んでいただけると嬉しいです。

 その日、ライラティーヌは野暮用を済ませると、フォルクハルトと共に昼前にガゼルジャンの屋敷に戻ってきた。


 鼻歌混じりで跳ねるように廊下を歩いていると、生垣の向こうからハムが顔を出した。


「あ! 発見したぞ! この放浪主(あるじ)め!」


 大きな腹を揺らしながら、物凄い形相で駆け寄ってくる。


「……かなり怒ってますねぇ」

「今回は私も同罪ですね」

「一緒に叱られてくれますか?」

「私が嫌だと言っても、あの様子じゃ無理でしょう」


 ちらりと上目遣いでおねだりした先で、フォルクハルトが肩を竦めた。そうしている間に、ハムは肩で息をしながら窓枠を乗り越えて入ってきた。

 髪の毛に生垣の葉っぱが絡んでいる。

 一体どこを探していたのだろう。そんなワイルドな場所に隠れていると思われたのは、少し心外だ。


「何処に行っていたんですか!」

「えっと……お散歩です」

「陽も登らぬ内からですか!」

「目が冴えてしまって」

「ええい、そんな言い訳をするのはこの口ですか!」


 ほっぺをぎゅむーっと掴まれる。


「いひゃいれふ! しゅみまひぇんれしたー」

「何を言ってるか分かりません!」


―――じゃあ離せよ!


「おいハムドルト、いくら何でもやり過ぎではないか。仮にも主人だぞ」

「お前もお前だ! 書き置き一つで居なくなる奴があるか!」

「う……。すまん」

「それで? 本当は何処に行っていたのですか」

「えっと……」


 悪態をついて満足したのか、ハムは頬から手を離した。

 なんて説明しようかと、少し考えていると、今度は廊下の反対側から、けたたましい叫び声がした。


「あ――! 見つけたぞ、こんにゃろう!」


 フェーベだ。

 ライラティーヌは頬を摩ると、もう一度つねられてもいいように、心の準備をするのだった。



――――――――――



 フェーベ達が怒っていたのは、急に姿を消したからだけではなかった。今日は当初の目的だった漁師の行事がある日なのだ。


 楽しみにしていた筈なのに、姿が見えない事から、トラブルに巻き込まれた可能性を考えていたのだと言う。


 数日前に聞いてはいたが、すっかり頭から抜け落ちていた。


 海岸に降りると、すでに賑わっていた。

 大漁旗(たいりょうばた)のようなカラフルな旗を立てたたくさんの漁船が、海を彩っている。


「海開きですか?」

「まだ泳げませんよ。冬の間は遠くまで漁に出るのですが、暖かい間は近海を釣り場にするんです。それに伴って使用する漁船も小さな物になります。海藻が多いと船の往来に邪魔なのです。なので近海の漁が始まるこの時期に、みんなで一斉に目立つ海藻を取り除くのが恒例行事です」

「ではあの大きな船は、遠洋漁業用なのですね」


 沢山の船の中で取り分け目立つ、大きな船が数隻あった。


「十人くらいが寝泊まり出来るんですよ。使われない夏の間は、子供達の良い飛び込み台になります。もちもん見つかったら怒られますけどね」

「フェーベが話しやすい理由がよく分かります。こうやって育ったから、良い意味で貴族っぽくないのですね」

「う」


 フェーベが痛いところを突かれた、という風にわざとらしく胸を押さえた。


「だからこそフェーベは癒しが得意なのだろう。擦り傷が絶えない子供時代だったのではないか? 騎士として、良い経験だったのだろう」

「はっ、そうです! フォルクハルトは良い事を言いますね」

「ふふ。人の長所を探すのはフォルクハルトの特技ですね」


 続々と船が網を引きながら戻ってくる。

 浜で待っていた子供を含む住民達が、海に入って掛け声をあげながら網を引き出す。


「オーエス! オーエス!」


―――掛け声が馴染み深いんだけど……。これ共通言語なの!?


 網を引く隣では、既に浜まで引き上げられた網を開いて、子供達が楽しげに中身を漁っている。


「あれは何をしているのですか?」

「海藻に混ざって引き上げられた、魚とか貝なんかを選り出しているんです。中には流れ着いた食器なんかも見つかるんです。まあ、ちょっとした宝探しですね」

「残った海藻はどうするのですか?」

「捨てます」

「!」


―――それは、もしかして!


 思わずフォルクハルトを振り仰ぐ。


 以前言っていた事を覚えていてくれたのだろうか。

 期待を込めて見つめた先で、フォルクハルトが柔らかく笑った。


「欲しいのですよね、海藻」

「覚えていてくれたのですね!」

「勿論です」


 嬉しくてウズウズしてしまう。

 じっとなんてしていられない。


「フェーベ。わたくしも宝探しに参加します」

「ええ?! 全身ベトベトになりますよ。その様な格好でする事ではないです」


 今日のライラティーヌの服装は、たっぷりと生地を使った水色のワンピースだ。ウエストを大きなリボンでしめてあり、ふんわりとスカートが広がっている。


 ライラティーヌはリボンを外すと、スカートを捲し上げて横に纏め、邪魔にならない様にリボンできゅっと止めた。


 短くなったスカートから、剥き出しの足がにゅっと出ている。


「ラ、ライラティーヌ様。あんまりです!」

「じゃあ動きやすい服を持ってきて頂戴」


 靴下をペッと捨てながらウインクする。

 そのまま波打ち際に走り出した。


「オーエス! オーエス!」


 叫びながら網を引く人々に加わると、一緒になって網を引く。


「オーエス! オーエス!」


 海水に浸かっている足元が気持ちいい。

 足の裏を砂が動くのがくすぐったい。


 久しぶりの感覚を満喫しながら、網を引く。


―――重たいな。ん? これ身体強化で引けばいいんじゃない?


 真面目に網を引くのを早々に諦める。

 身体強化で力を込めて、思いっきり引っ張ってみた。

 網はまるで芋が引っこ抜けた時みたいに、いきなり抵抗感が無くなった。


「わー!」

「きゃー」


 急に抵抗がなくなって、全力で網を引いていた人達が雪崩を打って尻餅をつく。大きな蕪みたいだ。

 勢いよく尻から海にバッシャーンと倒れ込んでしまった。村人たちも全員びしょ濡れだ。


「あれ? あはは……」


―――やり過ぎた。いや、私のせいだなんて誰も気付いてない! ここは知らぬふりで乗り切ろう!


 頬をかいて視線を上に逸らすと、引き上げられた網が宙を舞っていた。


「きゃああ」


 網は放物線を描いて、丁度網を引いていた人々(ライラティーヌを含む)の上に落っこちてきた。


 そこからは、地獄絵図だった。

 護衛騎士に助け出されるまで、網や海藻に絡まってもがき続けたのである。


 鬼の形相のフォルクハルト達に睨まれながら、住民にペコペコ頭を下げる。


―――ううう。こんな情けない領主一族、他にいないと思うの。


 でも、これで念願の海藻を大量ゲットだぜ!

 シャンプーにまた一歩近づいた。


 やふー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。