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お前は少しやり過ぎた

 フルスロットルで走った。


 いきなりの疾走でも、魔獣は群れをなしてついてくる。


 ドドドドッという地響きと、土煙を巻き上げながら駆ける。広場を駆け抜け、木漏れ日の小道を抜ける。曲がり方に差し掛かった時、フォルクハルトが叫んだ。


「ライラティーヌ様!」

「行きますよ! 解除!」


 押し入れが消えた途端、横から魔獣が飛び出してきた。身体強化で飛んで避ける。着地したその先に、さらに二頭。


 やばいっと思う前に、フォルクハルトが薙ぎ払った。僅かに空いたスペースを駆け抜ける。


―――見えた!


 ライラティーヌを先頭に、魔獣の群れが城壁に向かって押し寄せる。


 城門には騎士が揃っていた。ライラティーヌ達を視認し、何人かが弓を違えた。


「ライラティーヌ様に当てるなよ!」

「援護せよ!」


 城門まであと百メートルほどになったとき、ゲルルフの姿を見つけ、大声で叫ぶ。


「団長! 森に魔獣が!」

「見りゃ分かる!」


 ライラティーヌの報告が一蹴される。むむ。

 騎士の放った矢が、次々に魔獣を捉えていく。


「ドラパァーラもいます!」

「第一隊行け! ライラティーヌ様をお護りしろ!」


―――良かった。もう大丈夫。このまま城門まで突き抜ければ……あれ? あわわわ!


 ドドドドッ


「止まりません! どうしましょう!?」


 マックスまでスピードを上げてしまっては、自力で急には止まれない。やばいやばいやばい!


 このままでは壁に激突してしまう。

 騎士の皆さんを轢いちゃう。


 ライラティーヌは、何とかしてくれそうな人物。つまりゲルルフ目掛けて突進した。


「団長ー! 止めてくださーい!」

「なっ!? 貴方は馬鹿ですか!」


 ゲルルフは剣を投げ捨てると、両手を広げた。

 その大きな胸板にタックルをかます。


「ぐうっ」


 ゲルルフは、ライラティーヌを受け止めたまま、後方へ数メートル飛んで転がった。


 ボキッ


―――ボキッ?


「ゲルルフ団長……。生きてますか?」


 恐る恐る見上げると、思いの外優しい目をしたゲルルフが笑った。


「……よく頑張りましたな。後は我々の仕事です。フェーベ!」


 起き上がったゲルルフに、ひょいっと抱えられると、そのままフェーベに投げ渡された。


「連れてけ。傷の手当てだ」



――――――――――



 土嚢のようにフェーベに抱えられて城壁の上に登った。


 そこでは弓隊が、一列に並んで攻撃をしていた。

 その中にタンストンの姿もあった。


「タンストン隊長! ダノ爺を知りませんか?」

「ご無事で何よりです。ダノ爺でしたら既にあそこに」


 城壁を挟んで、森の反対側。城内の広場にダノ爺の姿があった。


「良かった。無事だったのですね。フォルクハルトも無事ですか?」

「無事です。もう戦闘に参加していますよ」

「元気そうですね。あフェーベ」


 と、鞄から回復薬を取り出す。


「ゲルルフ団長、骨が折れています」

「え、いつの間に……大丈夫そうですよ?」


 フェーベは眼下で元気いっぱいに指示を飛ばすゲルルフを指さした。


「痩せ我慢です。わたくしが折ったので間違いないです。悪化しない内に、早く飲ませて来て下さい」

「ライラティーヌ様が?! ふふふ。それは我慢なさりますね。行ってきますので、タンストン隊長、少しライラティーヌ様を頼みます。決して目を離してはいけません。何なら首根っこを捕まえていて下さい!」


 とても失礼な言葉を置いて、フェーベの騎獣が勢いよく視界から消えていった。


「さて」


 下に降りるには何処からだろう。

 ダノ爺の様子が気になる、とキョロキョロしていると、本当に首根っこをを捕まえられた。


「……懲りない方ですね」

「おほほ。じっとしていますよ、ちゃんと」

「全く……。貴方の護衛騎士は気苦労が絶えませんね」


 タンストンは心底呆れたように言いつつも、何故か眩しげに目を細めた。


「ですが、貴方の護衛騎士は幸せ者だ」

「? 滅多に出歩かないお兄様たちの護衛騎士の方が、ずっと幸せだと思いますが」


 うちのは三人とも、何かあれば首が飛ぶ、と日々神経を張り詰めながらのお役目だと思う。


「貴方はこの様な時に、第一声で他人の心配をなさる。仕え甲斐のある主(あるじ)です。騎士たらんとする者には魅力的に映るでしょう。現に……」


 と、タンストンは一旦言葉を詰まらせた。

 

「現に、何ですか?」

「……私の部下が、貴方の言葉に感銘を受けまして、実践してしまいました」

「? わたくしが面識のある騎士ですか?」

「先日の魔術具店に同行していた者です」


―――もう一人いたね、確かに。茶色の髪をした若い男性の騎士だったな。


 その人とは、パーリィの待合室で少し言葉を交わしたくらいだった筈だ。


「わたくし、その方に何か言ったかしら?」

「その者はヘルマン様の護衛騎士になったのです。貴方の言葉通り、ヘルマン様に苦言を呈してしまい……」

「まあ!」


 なんてことでしょう!

 相手を見なさい、と言いたい!

 あいつは今更手遅れだよ、と叫びたい!


「ど、どうなりましたか? 酷い目にあったりは?」

「僻地に飛ばされました」

「なんてことでしょう」


 申し訳ないと思う気持ち半分、馬鹿ですかと頭を抱えたくなる気持ち半分だ。


「貴方が責任を感じる必要はございません」

「それはそうですが」

「勝手に夢を見た、あいつが悪いのです」


 言葉は優しいが、そうは思っていなさそうな顔をしていた。


―――知ったことか、と言いたいけど。自分の言葉の責任は取らなきゃダメなのかな。


 その騎士への処分が決まった背景には、ヘルマンがライラティーヌに対して抱く反感も、何割か入っている事だろう。

 その騎士はとばっちりを受けたと言えなくもない。


「タンストン隊長。魔獣を人為的に誘導する方法はありますか?」


 急に変わった話題に、タンストンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに眼下の戦闘へと目を転じた。


「あります。魔獣寄せの薬を使えば可能です」

「そうですか」


 これもヘルマンの仕業かもしれない。


 関係ない人を巻き込んで、森にまで手を出して。


 ちょっとお前はやり過ぎた。


「諸々、落とし前つけさせてやる」



――――――――――



 その日、騎士団は朝から忙しかった。

 昨日森に出た魔獣が、城門まで押し寄せるという異常事態が起こったからだ。


 その為、朝一番に調査隊が森へと入り、いつもの倍の人数が門の警備に当たっている。


 門を護る騎士の間には、常にはない緊張感が漂っていた。


 そのような厳戒態勢の中、ライラティーヌが現れたのは、まだ朝も早い時間だった。


 驚く騎士達を横目に、ライラティーヌは厳しい表情で城門を抜けた。


 騎士達は焦った。

 今日ばかりは、森に領主一族を入れる訳にはいかない。

 ライラティーヌの護衛騎士の中で、唯一城門に詰めていたフェーベが説得に当たる。


 ライラティーヌは、門の目と鼻の先にある、森の入り口で止まった。


 そして、歌う。


 森へ向けて、澄み切った声で。

 まるで懇願するかのような真摯な響きを乗せて。


 歌声は、朝の澄んだ空気を揺らし、その場にいた騎士達の心にも染み入った。


 やがて歌い終えると、ライラティーヌはしばし森を見つめ、森に向かって深く礼をとった。


 そのまま踵を返すと、来た時と同じような厳しい表情のまま、城へと戻って行った。

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