↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/92

魔獣の襲撃

「それで、どうして急に弓なんですか」


 久しぶりのフォルクハルトとのお散歩だ。

 フォルクハルトは背負っていた弓道具一式を、柔らかい草の上に下ろしてから訊いた。

 どうして、と訊きながらも、小ぶりの弓を持って来ている辺り、良く分かってくれていると思う。


「離れた場所から攻撃するとなれば、やっぱり弓ですからね」

「一体何と戦っているんですか」

「まあ、イロイロですよ」


 これは主に、旅で盗賊なんかに絡まれた時の対策だ。

 絶対防御で安全は確保できても、攻撃が出来なければいつまでも睨み合いが続いてしまう。

 相手の攻撃は届かない訳だから、大して距離をとる必要もない。安全圏からピシピシ攻撃出来れば最強なのだ!


 胡散臭げな視線を浴びながら、てへっと笑って見せる。


「……身体強化はもうよろしいのですか」

「あー、それは追々ですね」


 フォルクハルトは何故かとても嬉しそうに微笑むと、いったん下ろした弓を、もう一度担いだ。


「もう少し奥に行きましょう。流れ矢が心配ですからね」

「はぁい」



――――――――――



「言っておきますが、私は弓は不得手ですよ」


 フォルクハルトが的を木の幹に設置して戻ってきた。

 的まで持ってきているのは流石だ。良い感じに『ライラティーヌ慣れ』してきているようで何よりだ。


―――でも……


「的、遠すぎます!」


 設置した的は三十メートルほどの距離がある。

 たかだか三十メートルだが、弓を構えるととんでも無い遠方に感じる。山一つ隔てたくらいの距離に思える!


「もっと近くていいのです」


 ととととっと距離を詰めて


「このくらいです!」と、叫ぶ。

 的から十メートルくらいの場所だ。


「そんなに近づけば、弓の利点がなくなりますよ。矢を番えている間に、距離を詰められて終わりです」

「いいのです! そんな事態は起こり得ませんから」

「駄目です。跳ね返った矢が自分に飛んできます。せめて……」


 すすすっと離れていって、足元に線を引き


「ここです。これ以下ならばお手伝いしません」


 的から二十メートルくらいの位置で仁王立ちだ。

 くっそう。


 ライラティーヌは渋々折れて、所定の位置まで移動した。


「的に対して垂直に構えて下さい。両足のつま先の延長線上に的がある感じです」


 簡潔で分かりやすい説明に従って、矢を番えて弓を引き絞る。


「う、硬いです」

「手で引こうとしないで。この辺りの力で」

 と、後ろから肩甲骨辺りに触れて


「肩から腕全体を使えば楽に引けます」


 ベタに背後から包むように両手を取って導いでくれる。

 本当に、天然の女たらしだと思う。


「一人でやってみます」


 フォルクハルトの手を振り解き、何度かやってみるが、なかなか難しい。

 的に当たるかどうかを心配していたが、その前の弓を引き絞るところから難しい。


「意外と筋力が必要なんですね」

「慣れればそれほどでもありませんが、筋力がある方が安定します」


 でも、いくらなんでも筋トレをする貴族令嬢ってアウトだと思う。



――――――――――



 ひとしきり矢を放ち、散らかった矢を拾い集めている時、茂みのところに黒い影を見つけた。


―――動物だ。初めて会ったな。動物? いや、でかくない? あれは……


「下がってください!」


 突然身体を強く引かれた、と思った時には目の前に獣が迫っていた。


 フォルクハルトの剣が一閃で獣の頭部を斬り飛ばす。


 だが、それでは終わらなかった。

 獣にはもう一つ頭があった。


 血飛沫とともに宙を飛ぶ頭部のすぐ脇で、もう一つの牙がフォルクハルトに剥いた。


 大きく開いた口に、剣が突き刺さる。


「おおおお!」


 フォルクハルトはそのまま体重をかけ、身の丈ほどはある獣を口から地面に縫いつけた。


 ドオオオン……!


「……お怪我はありませんか」


 絶命した獣から剣を抜き取り、露を払う。

 青い髪に、少し返り血を浴びているが、息一つ乱れていない。


―――やばい。フォルクハルト、マジかっこいい。


「魔獣、ですか?」

「はい。ドラバァーラです。本来この辺りに出るような魔獣ではないのですが」


 こんな城の近くには、せいぜい小型の魔獣くらいしかおらず、このような大型がいるのは異常だと、首を捻った。


「今日は切り上げましょう。騎士団に報告しなくてはいけません」

「これ放置していいのですか? 素材とか採れそうですが」

「時間がありません。一頭いたと言うことは、他にもいる可能性があります。複数で襲われては、お護りできません」

「急ぎましょう!」


 こんなケルベロスもどきに襲われるなんて、二度とごめんだ。ケルベロスっていっだら、普通もっとゲーム後半で出てくるやつじゃない?


 取るものもとりあえず、急いで広場を後にしようとした時、急にフォルクハルトの足が止まった。


「ぶふぉ!」


 勢い余って、背中に顔をぶつける。


「急に立ち止まってどうしたのですか?」

「……申し訳ありません」


 フォルクハルトが剣を抜きながら謝った。


「囲まれました」

「え?」


 気がつけば、二人を遠巻きに取り囲むように、魔獣が集まっていた。

 多くは小型だが、先程のドラバァーラも少なからず混ざっている。


「ど、どうにかできますか?!」

「騎獣を出す余裕さえあれば!」


 飛びかかってきた一頭を斬り伏せながら、フォルクハルトが叫んだ。


「あの大木まで走ってください! 背を護るんです!」

「はい! きゃああ!」


 走り出そうとした瞬間、横から魔獣が突っ込んできた。

 牙が届く直前で、フォルクハルトの剣に脚を切られて転がる。


 その足元に転がってきた横腹を、ライラティーヌは思いっきり蹴り付けた。もちろん身体強化でた。

 蹴り飛ばした魔獣はサッカーボールのように、回転しながら宙を飛び、遥か先にある大木にぶつかった。


 ドガッ! バキイッ


「……」


―――こわっ! 身体強化こわっ!


「き、木まで行けそうにありません!」


 剣を振るい続ける背中に叫ぶ。


「……騎獣を出します! 飛び乗れますか?」

「どんな騎獣ですか?」

「背の高い四足獣です」


 一言、口を開くたびに、剣が閃く。


 フォルクハルトの剣技がやばい。

 これだけの猛攻を受けながらも、ライラティーヌを無傷で護り切っている。今のところは。


「じ、自信ありませんが! やります!」

「良い子です」


 フォルクハルトが何か唱え手をかざすと、目の前にペガサスっぽい騎獣が現れた。


 その時、騎獣を出すために生まれた一瞬の隙をついて、魔獣が飛びかかってきた。


「ぐっ!」


 短いうめき声とともに、フォルクハルトの利き手が深く抉られた。

 アンダーアーマーのおかげで腕は無傷だが、手首から先がザックリ斬れている。


「フォルクハルト! 騎獣なんて出すから!」

「いいから、さっさと乗ってください! くっ!」


 動きが鈍ったフォルクハルトの目の前に、ドラバァーラが躍り出てきた。


 鋭い爪が、脳天目掛けて振り上げられた!


―――危ない!


 ライラティーヌは叫んだ。


 こんな時のために編み出した、あの絶対防御の魔術を!


「護れ! 押し入れ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。