迎えに来た二人
『おい。聞こえるか』
「ふぇ? ヴォルデマールさん? やっと来たのかな。でも声の響き方が変だけど。はーい!聞こえてまーす」
声は校内放送のように、音が降ってくる感じがする。
『聞こえていれるのであれば屋敷の正面へ行け。中ではなく屋敷の外だ。扉の近くに魔石があるはずだ、探せ。魔石は大きく色は青だ。見つけたら魔力を流せ』
どうやら外からの交信のようだ。交信は一方通行でこちらの声は聞こえてないっぽい。
「そんな機能もあるんだ。欲しいなジオルレイド。これさえあれば寝る場所に困ることもなさそうだし、物置としても優秀よね。使い道がいっぱいありそう! いくらくらいするんだろう」
言われた通り移動する。
「えっと、玄関前の魔術具ね。あ、あれかな」
玄関前に五段ほどの低い階段があり、一メートルほどの高さのポールに乗った大きな魔石があった。最初に見た嘘発見器魔術具に次ぐ大きさだ。直径十センチくらいの青い魔石だった。
「なんか郵便ポストみたい。えっと手を置けばいいのかな? わ、光った」
『ライラティーヌ様!』
「ほえ? アンヌの声がします」
アンヌが珍しく焦った声をしている。何かあったのかな、と思っているとそれ以上にひっ迫したフォルクハルトの声が続いた。
『ライラティーヌ様! 聞こえますか?』
「今度はフォルクハルトだ。こっちの声聞こえてるのかな」
『聞こえています。無事ですか?』
「あ、聞こえてるんだ。何してるんですか。早く来てくださいよ。すごいですよ。本当に家があります。芝生も木も本物ですよ!」
―――ついでに変な女神もいます、とは流石に言えないな。ヴォルデマールさん達を屋敷に入れないようにしなきゃな。
『ヴォルデマールだ。聞き終わるまで勝手に動くなよ。今其方の触れている魔石の下に、小さな魔石が並んでいるのが分かるか』
「えーっと。……はいこれですね」
手を伸ばしかけると、ヴォルデマールに止められた。
『まだ触るな。今触っている青い魔石が転移石だ。下の小さな石は赤と黄色の筈だが間違いないか』
「あ、はいそうですね」
『いったん転移石から手を離し、赤の魔石に魔力を通すと転移石が赤に変わる。色が変わったことを確認してからまた転移石に魔力を注げ』
「分かりました。もうやっていいですか?」
『少し待て』
慌ただしい指示を残して通信がパタッと途切れた。
しばらく待つが反応はない。え、これいつまで待てばいいの。
暇なので、足元の芝生を鑑定してみた。
魔術で具現化されたもの、などではなく本当にただの芝生だった。どんな原理?
『待たせたな。先程の指示を覚えているか』
「はい、赤の魔石を触ってから、改めて転移石に魔力を注ぐんですね」
『やれ』
「はーい」
ヴォルデマールは気持ちいいくらい上から目線だな、と思いながら言われた通りにする。
同じ上から目線でもヘルマンは殴りたくなるけど、ヴォルデマールに対しては全然嫌な気がしない。コミュ障っぽい感じがシンパシーを感じるくらいだ。
しばらく待っていると、階段下の芝生の上にヴォルデマールが姿を現した。間髪入れずフォルクハルトも現れる。
「わぁ、転移だ! 初めて見ました! 本当にいきなり現れるんですね」
―――なんか今日の私、ものすごく異世界を堪能してない? 頑張って魔術具屋に来て良かったー。
スキップしながら近づこうとしたのだが、気が付けばフォルクハルトのコートの中にすっぽりと収まっていた。
「フォ、フォルクハルト?!」
「どこも、何ともありませんか?」
「? はい。健康そのものです」
フォルクハルトが安堵の息を漏らし、少し身体を離した。まじまじと検分してくる。
「……生きた心地がしませんでした」
「? どうしてそんなに悲壮感たっぷりなんですか」
ライラティーヌの両肩に手を置いたまま、フォルクハルトがガックリと項垂れた。
「あのですね。……もう良いですから、二度と不用意に魔術具に魔力を注ぐなどなさらないで下さい」
―――なんか分からないけど、今何かを諦めましたね。すごく駄目な子を見る目つきなんですけど。
むーっと不満げな気持ちでいると、側に来たヴォルデマールが咳ばらいをした。
「其方が不用意にジオルレイドに入ったため、私はフォルクハルトに首を斬られるところだったのだが」
「え? どういう状況?!」
フォルクハルトはへなへなと芝生に腰を下ろしていた。もう心底疲れたという顔をしている。
「まだ未熟ではあるが、良い護衛騎士だ。労いの言葉の一つもかけてやると良い」
「えっと……フォルクハルトお疲れさまでした。またわたくし貴方に迷惑をかけてしまったみたいですね」
「……慣れたと思っていたのですが、試練というものは過酷度を上げ続けるものなのですね」
恨みがましく睨まれた。
「……フォルクハルト、その恰好暑くありませんか?」
「そんなことはどうでもいいです!」
「すみません」
「貴方に何かあれば多くの者が処罰の対象になるのですよ。私やアンヌは仕方ないにしろ、一方的に巻き込まれたヴォルデマールは憐れです」
「ううう。すみません」
―――なんか分からないけど、怒りが収まるのを待とう。そうだ、それが良い。
芝生に座るフォルクハルトの横に、ちょこんと腰を下ろす。突き抜けるような青空を見上げ、そのまま後ろにころんと倒れた。仰向けになって空を眺める。風が頬を撫でて気持ちが良い。
―――鳥はいないのね。ここで小鳥の囀りなんか聞こえてきたら最高なんだけどな。
「なかなかに自由奔放に育てられたようだな、淑女の振舞とは思えん」
ヴォルデマールが呆れかえったように見降ろしてきた。すでに上着を脱いで涼しそうな格好になっている。
「フォルクハルト。今から魔術具を少し調べるが構わないか」
「戻る機能が作動していないこともあり得るか」
「おそらく問題なかろう。このような機会は二度とないかもしれぬからな。使われている術式を研究しておきたいだけだ」
「……それはつまり、わざわざ迎えに来ずともライラティーヌ様お一人で脱出できたということではないか」
「さっきも言ったが、このような機会を見逃す学者などいない」
フォルクハルトは顎を落としていたが、苦笑しながら肩を竦めた。
「手短に頼む。アンヌが可哀そうだ」
「であるな。酷い目にあっていないと良いが」
「騎士は無法者ではない」
―――なんか不穏な会話なんですけど。
すみません。
全然話が前に進みませんでしたね……




