軍師と紅茶と午後のひととき
「これは……」
軍師は、スマホを手に絶句していた。
「どうしたの?」
女王が軍師のスマホを覗き込むと、SNSには軍師に対する賛辞が書き込まれていた。
ただし——、
「執事さんの活躍、期待してます!」
「執事さんイケメンですね!」
「女王と執事さんのコンビ好きです」
『軍師』ではなく、『執事』として。
「あら、よかったじゃない」
「女王、そうは仰いますが……」
軍師は胸に手を当てて、きっぱりと言い放つ。
「私は軍人なのです」
そう。
彼の生前の肩書きは『王国軍首席参謀』。
かつては軍の作戦立案を担い、戦場では幾度となく味方を勝利へ導いた。
その冷静沈着な采配から、『氷の鷲』と呼ばれ、畏れられた存在でもあった。
「そうなの?」
「そうなんですよ……」
もちろん、当時生まれてすらいなかった女王は、そんなことを知る由もない。
「そうだわ軍師」
「はい」
「喉が渇いたの、紅茶が飲みたいわ」
「……お茶でしたら、侍女たちに頼んではいかがでしょう」
「でも、あなたの淹れてくれる紅茶は、とても美味しいわ」
「では、新たに誰かを執事にでもご命じになりますか?」
「うーん……そういうことじゃないのよ」
「私も執事ではないのですが……」
そう言いながらも、軍師は鮮やかな手つきでティープレスを用意し、紅茶を淹れはじめた。
琥珀色の液体の中で、茶葉が踊るように上下する。
女王はその様子を満足げに眺めると、大きく一つ、紅茶の香りを吸い込んだ。
「じゃあ、あなたもそこに座って。一緒に紅茶を飲みましょう?」
「私は飲食物は口にできませんので、お気持ちだけ」
女王はふふっと笑った。
「そうだったわね。そこに座って、次の注目銘柄を教えて」
「承知いたしました」
ゆっくりと流れる、午後の時間と紅茶の香り。
かつては『氷の鷲』として、自らの判断に国の命運が懸かる日々を生きていたこともある。
だが、女王の側でこんな時間を過ごす。
それも悪くないものだと、軍師は思った。




