詰まる
通常訓練。深い修正を書いてから五日目の朝だった。
フィアの番が来た。俺は列の後ろにいる。触っていない。
「フレア!」
熱塊が的を通り越して壁に穴を開けた。石の破片が散って、グレイが片手で防御を張った。
戻った。
入学初日の暴発と同じだ。合同実技で的の中心を貫いた女が、今日は壁に穴を開けている。深い修正は消えた。五日で全部消えた。
フィアが列に戻ってくる。肩をすくめて、いつもの仕草で歩いている。だが顔が白い。唇の色が薄い。歩き方が硬い。
目を閉じた。ターミナルでフィアの記録を確認する。方向指定も着弾点指定も、跡形もなかった。空白が剥き出しに戻っている。俺が書いたものは何一つ残っていない。
◇
放課後。F組訓練場にフィアがいた。
壁に寄りかかっている。腕を組んでいる。だが昨日と様子が違う。体が硬い。肩が上がっている。顎を引いている。
「書き直すか」
フィアが黙った。長い沈黙だった。腕を組んだまま、的を見ている。朝の暴発で壁に開いた穴から、外の光が差し込んでいた。
「......っ」
声が漏れた。深い修正の時に漏れた声とは違う。あの時は体を通り抜ける何かに堪えきれなかった声だ。今日のは、別の何かだ。
「なんか、詰まってんの」
フィアの視線が落ちた。自分の手のひらを見ている。開いて、閉じて、また開いた。
「前はこんなじゃなかった」
「前?」
「あんたが触る前。暴発してた時の方がまだ、こんなに詰まってなかった」
声が小さくなっていく。最後の方はほとんど聞こえなかった。
方向が書いてあった場所に何もない。通る前は気にならなかったものが、今は詰まっている。
「書き直す。手を出せ」
フィアの金色の目がこちらを見た。何か言いかけて、止まった。唇を噛んでいる。腕が組まれたままだ。袖の下で、指が制服の生地を掴んでいるのが見えた。
出さない。出せないのか。出したくないのか。合同実技で自分の力で当てた。あの時の歩き方を覚えている。少しだけ背が伸びていた。それを手放すことになるのかもしれない。
足音が聞こえた。訓練場の入口の方から。
◇
銀髪が見えた。制服に皺がない。
エルナだ。F組訓練場に立っている。
「見学に来た。F組の訓練、見てもいい?」
平坦な声だった。グレイに聞いているのではない。訓練場にいる俺たちに向けている。冷たい目がフィアを見て、俺を見て、訓練場の壁の穴を見た。
フィアが壁から背中を起こした。腕を組んだまま、エルナを睨んでいる。金色の目が細くなった。
「好きにすれば」
フィアの声が低い。合同実技の時より低い。
エルナが壁際に立った。腕を組まず、背筋を伸ばしたまま、訓練場の中を見渡している。
「撃ってみて」
エルナがフィアに言った。
フィアの顔がこちらを一瞬だけ見た。手首は出さなかった。前を向いた。
「フレア!」
壁に穴が開いた。二つ目。石の破片が散って、エルナの銀髪が揺れた。エルナは動かなかった。目だけがフィアの手元から壁の穴へ移動した。
エルナが訓練場を見回している。壁の穴を見て、的の焦げ跡を見て——合同実技で焼き抜いた的がまだ残っている——それからレンの方をもう一度見た。
「ありがとう。また来る」
それだけ言って、エルナが訓練場を出ていった。銀髪が出口の光に消えた。
フィアが壁に背中を戻した。腕を組んでいる。顔が白いままだ。
「......何あいつ」
声がかすれていた。
◇
部屋でノートを開いた。
「深い修正 → 五日で完全消失。フィアは暴発に戻った」
その下に書く。「詰まる感覚。修正前より辛い。触る前の方がマシだった——フィアの言葉」
ペンが止まった。
フィアの顔が浮かんだ。白い顔と硬い体。触る前の方がまだマシだったと言ったあの声が、まだ耳に残っている。
触らなければ、あの顔にはならなかった。壁に穴を開けるだけの三年間は、少なくとも詰まってはいなかった。
エルナが来た。暴発するフィアを見ていた。合同実技で焼き抜いた的の焦げ跡も見ていた。それから俺の方を見た。何を確認したのかはわからない。
ペンを握り直した。指先にフィアの手首の温度が残っている気がした。もう何日も触っていないのに。
ノートにもう一行書いた。「触ったから壊れたのか?」




