点
指先と花弁の縁のあいだの二本分の幅は、同じ位置のまま、置かれていた。
指先は震えない。肘の角度も変わらない。肩の高さも、同じ位置のまま。腕の縦のラインは、太腿の脇から、わずかに離れたところで止まっている。指の腹の向きは、棚の奥の薄い明かりの側へ、同じ向きのまま、開いている。
胸の中ほどに下りた息の位置も、同じまま。喉の下にも、舌の位置にも、歯の裏の冷たさにも、変化はない。足の裏の重さは、左右でほとんど同じ。右足の親指の付け根に、床の硬さが、いつもと同じ強さで乗っている。踵の下の板の冷たさは、踏み台の影の中で、薄く、置かれたまま、変わらない。靴底の下の薄い埃の重さも、同じ位置のまま。
エルナの肩のラインは、いつもの位置のまま。背中の縦の線も、袖の手首の縁も、花弁を挟んだ指の角度も、同じ位置にある。花弁は、てのひらの中で、同じ位置に置かれていた。
二本分の幅の中の別の温度は、薄い明かりの中で、両端の温度のあいだに、立っている。両端の温度との濃さの差は、いつもの位置のまま、変わらない。縁の外側の細い揺れの保留も、肘の内側の薄い熱の家族の保留も、いつもの位置のまま、残っていた。
視線の焦点は、花弁の表面の薄い筋の中ほどの薄い膜の上に、置かれたままだった。
視線の角度を、ほんの少しでも下へ動かせば、薄い膜の上の薄い点は、もう、そこにはないかもしれない。視線の角度を、ほんの少しでも上へ動かしても、同じことだ。視線の焦点は、いまの角度のまま、薄い膜の中ほどの位置で、止まっている。視線の焦点の縁の周りの空気も、いつもの薄い明かりの中で、同じ向きのまま、降りていた。
一拍。
二拍。
三拍。
視線は動かない。
視線の焦点の周りで、書架の他の場所の明かりの粒は、いつものまま、下へ降りていた。棚の脇の通路の薄い明かりの中の粒も、いつもの歩幅で、下へ降りている。書架の奥の冷たい空気の中の粒も、同じ向きのまま。視線の焦点の中ほどの薄い膜の周りだけ、明かりの粒の歩幅が、ほんの少し、止まって見える。
拍の数は、いつもの呼吸の中ほどの間隔で、胸の中に置かれていく。四拍、五拍、六拍。視線の角度は、変わらない。
光の、点は、消えなかった。
薄い膜の中ほどの、ほぼ同じ位置に、薄い点は、置かれたまま、残っている。明かりの粒の歩幅で数えても、いつもの拍の間隔で数えても、点は、薄い膜の中ほどから、動かない。
点の大きさは、書架の中の明かりの粒の、二つ分ほど。それより大きくもないし、小さくもない。
点の色は、棚の中の色の家族の中にはない。棚の脇の通路の薄い明かりの中の色の家族の中にもない。エルナの上着の白の家族の中にも、紺の家族の中にも、袖の白の家族の中にも、近い位置にはない。書架の奥の冷たい空気の中の色の家族の外でもあった。
花弁の縁の薄い色、紙の上の文字の薄い色、棚の側面の擦れの薄い色。その三つの色の家族の中の、近い位置の、別の場所に、薄く並んでいる、ように見えた。三つの色の家族のどれとも、ほぼ同じ薄さで、けれど、どれとも同じ場所には重ならない位置に、置かれている。
点の縁は、明かりの中で薄く、両端の縁は、もう一段、薄く沈んでいる。点の中ほどは、いちばん濃い。両端へ向かって、ゆっくりと、薄くなっていた。濃さの差は、書架の中の明かりの粒の濃さの差よりも、ほんの少し、細かい。点の中ほどから両端までの長さは、明かりの粒の歩幅の、半分にも届かない短さで、薄い膜の上に置かれている。
光の点の位置は、花弁の表面の薄い筋の中ほどの、薄い膜の上。指先と花弁の縁のあいだの二本分の幅の、いつもの中ほどの位置に、薄く置かれている。
別の温度の濃い場所は、その二本分の幅の中ほど。両端の温度のあいだに、いちばん濃く立っている場所。視線の角度の中で、光の点と別の温度の濃い場所は、ほぼ同じ高さに、並んでいた。
明かりの粒の歩幅で計っても、同じ位置。薄い膜の縁から数えても、同じ位置になる。両端の幅の中ほどから計っても、同じ位置。三つの計り方の中で、光と温度は、二本分の幅の中ほどの、同じ高さに、揃っている。視線の角度の中で、光の点の中ほどのいちばん濃い場所と、別の温度の中ほどのいちばん濃い場所は、ほぼ同じ縦の線の上に、薄く、置かれていた。
指先と花弁の縁のあいだの二本分の幅の中ほどに、光と温度の二つが、置かれていた。指は震えない、肘の角度も変わらない、肩の高さも同じ位置のまま、もう一段先へ行く長さは、指先・肘・肩のどこにもない。
エルナの肩のラインも、背中の縦の線も、袖の手首の縁も、花弁を挟んだ指の角度も、いつもの位置のまま。花弁の位置も、変わらない。
指先の、向こうで、光と温度が、同じ場所に、立っていた。




