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異世界転生したらハズレスキル【ターミナル】だったが、俺だけ使い方を知っていたので最強になった  作者: どみさん


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花弁

 視線を、隙間の縁の擦れの位置から、エルナの位置の方へ、ゆっくり、動かす。


 棚の脇の通路の薄い明かりの中、視線の道筋が、エルナの肩のラインまで、続いていく。


 エルナの位置は、棚の奥の壁の方。壁の縦の継ぎ目の手前、棚の奥の通路の奥側に、立っている。


 色の起源が隙間の向こうの側にあること、エルナの立つ位置が棚の奥の壁の方にあること。その二つを重ねたまま、エルナの位置と、隙間の向こうの方向の関係を、もう一度、視線の中で、確かめる。


 エルナの位置と、隙間の縁の位置は、棚の脇の通路の薄い明かりの中で、近い方の側に並んでいる。書架の入り口の側よりも、隙間の側に、もう一段、寄っている。


 エルナの足元の床と、隙間の前の床のあいだに、棚の脇の通路の幅の中で、視線の道筋が、薄く、通っている。隙間の中の暗さの向こう側と、エルナの立つ壁際のあいだは、棚の数枚ぶんの距離。視線の角度の中で、二つの位置は、同じ書架の奥の側に、薄く、並んでいた。


 視線を、エルナの右手の位置に、移す。


 右手は、肩のラインの脇に、下ろされたまま。腕の縦のラインは、棚の側面の縦の線と、ほぼ平行。袖の手首の縁は、肩のラインから、いつもの位置まで、下りている。


 指先は、緩く、曲がっている。指と指のあいだには、薄い、隙間がある。指の腹は、てのひらの方へ、わずかに、寄っている。完全に閉じた拳ではない。指の縁が、薄く、開いている。


 指の隙間の角度を、視線の中で、もう一度、確かめる。


 指のあいだから、何かが、見えている。


 薄い、平らな物体が、見えている。楕円形に近い形をしていて、縁にわずかな曲線が、残されている。表面には、薄い筋が、縦に、一本、走っている。


 物体の色を、視線の角度の中で、確かめる。擦れの色と、同じ家族の中にある。書架の中の色の家族の外にあって、紙の上の文字の色とも、同じ家族の中で、近い位置に並んでいた。


 エルナの、右手の、中に、花弁が、あった。


 一枚。指のあいだから、半分だけ、見えている。残りの半分は、てのひらの中に、隠れている。


 縁は薄く、わずかに、波打っている。縁の曲線は、ゆるやかな円弧の一部に近い形をしている。


 縁の波の山と谷は、視線の角度の中で、ほぼ揃った間隔で続いている。山の側と谷の側の色の濃さも、ほぼ同じくらい。縁の外側は、てのひらの薄い影の中で、もう一段、暗く沈んでいる。


 表面にも、薄い筋が、縦に、一本、走っている。筋の左右の色は、ほぼ同じ。薄い膜の上に、色が、揃ったまま、乗っている。


 色を、もう一度、確かめる。擦れの色と、同じ家族の中にある。書架の中の家族の外にあり、エルナの上着の白とも、紺とも、袖の白とも、別の家族。紙の上の文字の色と、同じ家族の中で、近い位置に並んでいた。


 花弁は、最初から、エルナの右手の中に、あった。手が開いたのではない。指のあいだの隙間が、視線の角度の中で、見え方を、もう一段、変えただけ。


 視線が、擦れの位置に止まっていたあいだ、エルナの右手の指のあいだの隙間も、いつもの位置のまま、開かれていた。見えていなかったのは、視線の角度が、隙間の縁の方向だけに、寄っていたから。視線をエルナの位置に動かしたとき、指のあいだの薄い隙間の角度が、薄い明かりの中で、はじめて、てのひらの内側まで届いた。


 エルナの肩のラインは、いつもの位置のまま。エルナは、まだ振り返らない。エルナの肩の上下の動きも、視線の角度の中で、変わらない。


 花弁は、ずっと、そこにあった。


 擦れの色、紙の上の文字の色、今、エルナの右手の中にある花弁の色。その三つが、視線と内的記憶の中で、同じ家族の近い位置に、並んでいる。


 机の中央の白い紙の上の、縦書きの七文字を、内的記憶の中で、もう一度、見る。


 最初の「花」、二つ目の「弁」、三つ目の「ハ」、四つ目の「其」、五つ目の「ノ」、六つ目の「証」、七つ目の「也」。七文字の色は、書架の中の家族の外、学園の通路の家族の外、寮の廊下の家族の外にある。同じ家族の中で、擦れの色と、近い位置に並んでいる。今、エルナの右手の中の花弁の色とも、同じ家族の中の、近い位置に並んでいた。


 紙の上の最初の二文字「花」と「弁」が、内的記憶の中で、エルナの右手の中の薄い物体の輪郭と、重なってくる。書かれた文字としての「花弁」と、てのひらの中の一枚の花弁が、同じ家族の色の中で、繋がっていた。


 紙の上の七文字が、内的記憶の中で、別の重さを、持ち始める。


 花弁が、書架の中の側には無い場所のものであり、エルナの手の中にあって、その色が、紙の上の文字の色と、同じ家族の中にある。


 花弁が、其ノ証也だった。


 花弁ハ其ノ証也。


 薄い明かりの中で、そう読めた。


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