合同
通常訓練。フィアの番が来た。
俺は列の後ろにいる。五メートル離れている。手首は掴んでいない。目も閉じていない。昨日の深い修正が残っていれば、接続なしでも当たる。残っていなければ、壁に穴が開く。
フィアが的の前に立った。袖を直している。こちらを見ない。
「フレア!」
掌サイズの高温球が一直線に飛んで、的の中心を焼き抜いた。
煙が上がる。焦げた匂いが広がった。壁に穴は開いていない。的の真ん中に、丸い焦げ跡が一つ。
残っていた。
フィアの目が見開かれている。自分の手のひらを見て、的を見て、もう一度手のひらを見た。俺の方は見なかった。
グレイが記録盤に何か書いて、消して、もう一度書いた。
◇
同日の午後。大訓練場に移動した。
F組訓練場の三倍はある。的も新しい。壁に穴は一つもない。A組が先に並んでいた。制服に皺がない。靴が光っている。
F組が入ってきた時、A組の何人かが顔を見合わせた。声は聞こえなかったが、口の動きで「あいつら」と読めた。ガドが舌打ちした。ミアが顔を伏せている。フィアは壁に寄りかかって腕を組んでいた。こちらを見ていない。
A組の射撃が始まった。
火が飛び、氷が刺さり、風が的を叩く。中心付近に集中する。ブレが少ない。安定した魔法だ。的を外す者がいない。当たり前のように当たっている。
銀髪の女が前に出た。背が高い。目が冷たい。制服の襟を正して、片手を前に伸ばした。構えに無駄がない。
「アイスランス」
氷の槍が的を貫いた。音がしなかった。煙も上がらない。的の中心に穴が開いて、周囲に霜が広がっていく。穴の断面が凍っている。一切のブレなし。狙った場所に、狙った形で、刺さった。
拍手が起きた。A組の生徒が当然のように頷いている。
目を閉じた。ターミナルに断片が走る。距離があるからノイズだらけで中身は読めない。だが何かが違った。フィアの断片はいつもばらついていた。ガドの断片も毎回散らばっていた。この銀髪の断片は——同じに見える。ノイズ越しだから確信は持てない。だが流れ方が一定だった。
F組の番が来た。
ガドが「ブレイズ!」と叫んで前髪を焦がした。A組から笑い声がした。ミアのヒールは光っただけで的に届かない。
フィアの番。
A組の端から声が聞こえた。「あの暴走女だ」「F組の壁壊し」。
フィアが片手を前に伸ばした。袖をめくっていない。手首が見えない。俺は五メートル離れた列の後ろにいる。触っていない。
「フレア!」
掌サイズの高温球が的の中心を焼き抜いた。
大訓練場が静まった。A組の笑い声が消えている。焦げ跡から煙が一筋、まっすぐ上に昇っている。壁に穴は開いていない。的の真ん中に、朝と同じ丸い焦げ跡ができている。
A組の誰も声を出さない。さっき「暴走女」と言った声の主が口を閉じている。
フィアが肩をすくめて列に戻った。いつもの仕草だ。だが歩き方が違う。少しだけ背が伸びている。
◇
実技が終わった後。的の並びを見て回っている生徒がいた。
銀髪の女だ。自分の氷の的ではなく、フィアの焦げ跡を見ている。しゃがんで、焦げの深さを指で確認している。霜の付いた自分の的と、焦げた的を交互に見比べていた。
俺の横を通り過ぎる時、視線がこちらに来た。一瞬だけ。冷たい目だ。何かを測っているような。感情が読めない。
「F組の火、おかしくない?」
独り言のように言った。誰に向けたのかわからない。歩いていった。銀髪が揺れて、大訓練場の出口に消えた。
◇
帰り道。フィアが少し離れて歩いている。昨日より近い。
「当たった」
フィアが小さく言った。前を向いたまま。
「ああ」
「あんたが触らなくても、当たった」
三年間、的に当たらなかった女の声だ。震えていない。静かだ。拳を握っていない。並木の影が二人の上に落ちている。風が吹いて、フィアの前髪が揺れた。
「......ねえ」
「何だ」
「あの銀髪の女。A組の。あいつの氷、見た?」
「見た」
「あたしより上?」
正直に答えた。
「わからない。あいつの方が安定してた。だがお前の方が威力はある」
フィアが黙った。数歩分の足音だけが聞こえた。
「......そう」
それだけ言って、寮の方に歩いていった。
あの銀髪の声が頭に残っている。「F組の火、おかしくない?」。あいつの断片は何かが違った。ノイズ越しだからはっきりとは言えない。だがフィアの断片とは流れ方が違う気がする。確かめるには、触るしかない。
あの中身を見たい。




