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異世界転生したらハズレスキル【ターミナル】だったが、俺だけ使い方を知っていたので最強になった  作者: どみさん


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三重

 エルナの言葉の余韻が、廊下の中ほどに、まだ薄く残っている。


 廊下の奥の方で、もう一枚、紙が壁に当たる音がした。


 教師が一人、暫定評価表の隣に、新しい紙の四隅をピンで止めている。紙の上の名前の並びは、暫定評価表と同じだ。


 だが、フィアの名前の隣の文字が、別の文字に変わっている。


「保留」


 俺の名前の隣の文字は、変わらないままだった。「最低評価のまま」。


 紙の上で、二つの文字が、また別の重さで沈んで見えた。


 F組の組ごとの順位の一行が、紙の下の方で見えた。順位の数字は、最下位の位置にあった。





 廊下の中ほどから、観客の何人かが、演武場の方向の入り口へ動き始めた。


 足音が、廊下の床の薄い反響で、近づく方向と離れる方向の両方に分かれる。


 俺は廊下の壁から、半歩、演武場の方向へ動いた。フィアも、俺の一歩前の位置から、半歩、こちらへ寄ったように見えた。


 距離が、廊下の幅の半分から、握り拳二つ分へ縮む。半歩よりは、まだ広い。だが、あの控えの幕の北側で立った時の距離に近づいた。


 俺は鞄を肩にかけたまま動く。フィアも肘から先の腕の輪郭を視野の隅に置いたまま動く。


 廊下と演武場の境界——演武場の方向の入り口の手前で、足が止まった。


 入り口の向こう側、円の中央の北側が、視野に入る。


 廊下の壁の向こうからは、声の縁が、もう漏れていない。


 エルナは廊下の入り口の手前、壁から半歩離れた位置で、まだ家のものの方を見ている。家のものの背の高い影が、エルナの隣で、動かないままだった。





 演武場の方向の入り口の手前から、円の中央の北側が見える。


 観客の何人かが、円の中央の北側へ、戻ってきていた。


 標的の通り過ぎた軌道の上、赤い線の上の花弁の輪郭の前に、五人ほどが、立ち尽くしている。


 花弁の輪郭は、まだ消えない。赤い線の上で、染み込まずに残っていた。輪郭の高さは、肩の上まで届いたままだった。


 観客の何人かは、花弁の輪郭から、半歩離れた位置で、止まったまま動かない。一人は、指を空気の中の輪郭の方へ伸ばしかけて、止めた。


 ——演武場の右の方で、椅子の音がした。


 グレイの独立記録席で、記録盤を持つ手が動いた。


 もう一人の手が、グレイの手の中の記録盤を、受け取る動きで、上へ動いた。


 記録盤が、もう一人の手の中に納まる。


 もう一人の手が、記録盤を持って、評価席の中央の方へ歩き始めた。歩幅は、外部評価者のものとも、教師のものとも、違うように見えた。


 俺はその動きを、廊下と演武場の境界の位置から、視野の隅で追う。


 花弁の輪郭の前に立ち尽くす観客の影と、記録盤を運ぶもう一人の手の動きが、廊下の薄い明かりの中で、同じ瞬間に並んだ。





 花弁の輪郭の前に立ち尽くす観客の中で、一人の口が、短く動いた。


「花弁」


 声は、廊下の中ほどまで届いた。


 別の観客が、声の方を見た。


 声の質は、何かの確認のような、ざわめきの一部のような、判らない。


 観客の中の別の一人が、隣の人の口の方へ、視線を向けた。視線が一拍止まったように見えた。


 俺は花弁の輪郭の方を、廊下と演武場の境界の位置から、まだ見ている。フィアも、俺の一歩横の位置で、同じ方向を見ているようだった。


 廊下の壁の向こうから、声の縁は、もう漏れていない。エルナの言葉の余韻も、もう薄い。


 代わりに、観客の「花弁」の声と、円の中央の北側で立ち尽くす観客の影と、グレイの手の中からもう一人の手の中へ動いた記録盤が、廊下の薄い明かりの中で並んでいた。


 廊下の奥の壁の、紙の上の二つの文字も、まだ別の重さで並んでいた。


 三つが、同じ瞬間に、視野の中で並んだ。





 俺は鞄を肩から下ろさない。


 右手が、肩にかけたままの鞄の口の縁の上に置かれた。指先が、鞄の口の縁に触れる。


 鞄の中には、書いた一行が、いつもの位置で、閉じられている。ノートも、書いた一行のすぐ隣で、閉じられたままだった。


 何が動いて、何が動かなかったか。あの控えの幕の北側で、紙の縁が動いたかどうかは、まだ判らない。


 決まっていなかったことのうち、一つだけ、決められる。


 俺は鞄の中に、何も加えない。何も取り出さない。


 肩の上で、書いた一行と、ノートが、いつもの位置に並んだまま、動かない。


 俺は鞄の口を、最後に一度、閉じた。


 廊下の薄い明かりの中で、何かが、まだ閉じられたまま、肩の上にあった。


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