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一番

 A組の右から二番目の生徒が、整列を出た。演武場の中央へ進み出ていく。歩く音が、床に響いた。


 中央の白い線で囲まれた円。その中央に、その生徒は立った。


 標的は十歩ほど先に並んでいた。三つ。木製、人の上半身ほどの大きさだった。


 その生徒が振り向き、評価席を一瞥した。中央の外部評価者が短く頷く。


「アレク」


 中央評価者が呼ぶ。アレクが頷いた。本人確認の合図だった。試験の正規手順だ。


 アレクが構える。両足の幅は肩より少し広い。右手を腰のあたりで止めた。指は軽く開いていた。詠唱の前に、息を一つだけ整える。


 俺は整列の中で、視線を前に置いたまま、その動作を観た。





「ウインド」


 アレクが短く詠唱した。


 風が起きる。指先の前で、空気が一度刈られる音がした。次の瞬間、刈られた空気の塊が、十歩先の標的へ飛んだ。


 刃の輪郭は見えない。だが、木が割れる音が三つ、ほぼ同時に鳴った。


 標的の上半分が落ちる。木屑が床に散った。中央の標的は二つに割れて、左右に倒れた。両端の標的は、上半分が前へ飛んで床にぶつかる。


 風刃の射出から命中までの時間は、息一つ分もなかった。


 俺は指先の感覚を止めて、その距離だけを頭の中で数えた。十歩。


 アレクは構えを解いた。一度息を吐いて、構えていた右手を下ろす。動作の終わりは、構えの始まりと同じ角度の腕に戻る。


 中央評価者が短く頷く。


 両側の評価者の一人が、手元の用紙にペンを走らせた。もう一人が、視線を木屑の方へ動かす。


 教師席の何人かも、手元の用紙にペンを走らせている。


 グレイの記録盤は動かなかった。記録盤を持つ手の角度は、開始前と同じだった。





 観客席の三方から、声が上がった。


「おおっ」


「やっぱアレクは違うな」


「一発か」


 声は重ならず、別の場所から別の高さで来た。三方の観客席のそれぞれの場所から、別々のタイミングで上がった。


 歓声の中に、保護者らしい影の方からの声も混じった。低い声、年配の声、それから少し離れた場所で女性の声。


 A組の整列は声を出さなかった。顔は前を向いたまま、動かない。エルナも視線を動かさない。


 F組の整列も声を出さなかった。隣の生徒の肩が、わずかに後ろに引いた。前列の生徒の足が、整列の線から半歩外れて、すぐに戻った。


 俺は視線を前に置いたままにした。歓声は、耳の上を通って頭の後ろへ抜ける。


 耳の中で、声と声のあいだの隙間が、声そのものよりはっきり聞こえた。





 評価席は静かだった。


 中央の外部評価者は前を向いたまま、姿勢を変えない。両側の二人のうち、一人がペンを置いた。もう一人がまだ書いている。


 教師席の何人かが、ペンを走らせ続けている。手の動きの速さに差があった。早い手と、遅い手と、止まっている手があった。


 グレイの記録盤は、まだ動かない。


 歓声と沈黙が、同じ瞬間に同じ場所で鳴っている。俺の耳の中で、両方が別の高さで残った。


 歓声の方が大きい。沈黙の方が、長い。


 アレクが演武場の中央から、自分の整列の位置へ戻った。歩く音は来た時と同じ。整列の右から二番目の位置に戻ると、姿勢を整えて視線を前に置いた。


 A組の整列は、アレクが戻っても声を出さなかった。





 中央の外部評価者が、手元の用紙に何か短く書いた。それから顔を上げて、整列の方へ声をかける。


「次、F組の一番。ガド」


 歓声がふっと止んだ。


 F組の整列の中で、俺の斜め後ろのあたりから、足の動きが起きた。視野の隅で、ガドの背中が整列の線から外れる動きが見える。


 俺は、ガドの方を直接見なかった。視線を前に置いたままにした。


 ガドが整列を出る。中央への歩みが始まった。


 A組のアレクが立っていた円の中央には、まだ木屑が散っている。係の人間がそれを掃く動作はなかった。


 ガドはその木屑の上を歩いて、円の中央へ進み出ようとしている。


 歩く音が、アレクの時と違う重さで床に響き始めた。


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