表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/49

 三日目も、修正は残っていた。


 フィアが的に向かって構える。腕が上がり、肘が固まり、魔力が集まる。昨日と同じ角度だ。一発目が走る。中心から少し右。二発目。中心に戻った。三発目。また中心だ。


 昨日の焦げ跡の上に、今日の焦げ跡が重なっていく。三センチも外れていない。


 俺は的から目を離さなかった。焦げ跡を見ていた。積み重なっている。同じ場所に集まっている。そこに残るのは修正の痕だ。


 四発目が走った。中心にやや上。五発目。中心だった。


 フィアが腕を下ろす。振り返りもせず、そのまま的を見ている。沈黙がある。


 それから、振り返った。


 的を見ない。俺を見た。


「当たった?」


 俺はうなずいた。


「当たってる」


 フィアはそのまま俺を見ている。短い間がある。それから視線が的に戻った。





 帰り道は並木道を使った。フィアが先に歩き出したので、俺も隣に並んだ。二人並ぶには少し狭い道だ。自然に距離が詰まった。袖が触れそうだった。


 日が傾いて、木の影が道に横に伸びている。影を踏みながら歩く。フィアは黙っている。俺も黙っている。話すことを探していない。


 しばらくして、フィアが口を開いた。


「あの……」


 俺は横を向く。フィアは前を向いたまま、少し口を閉じる。また開こうとして、そのまま閉じた。


 何も言わなかった。


 俺は前に向き直す。並木の影が道の上で揺れている。風が動くたびに葉の形が変わる。フィアの袖が、また俺の袖に近づいた。触れるか触れないかの距離だった。


 言いかけたのに言わない。俺はそれを聞かなかった。


 フィアはすぐには言わない。でも消えもしない。


 並木の影の中を、二人で歩いた。





 並木の外れで、足が止まった。


 視線があった。木の陰から来る視線だ。体より先に気づく種類の感覚だった。


 目を向けた。


 銀色が見えた。


 木の幹の陰に、人が立っている。背が高い。髪が銀で、日の光を拾って白く光る。顔は見えなかった。影に半分隠れていた。


 エルナだ。


 動かなかった。こちらを見ていた。見ているのか、確かめているのか、区別がつかない。ただそこに立っていた。俺と目が合った。それだけ確かだった。


 次の瞬間、もうそこにいない。


 消えた、ではない。歩いて行ったのだと思う。ただ影に紛れて見えなくなった。木の幹の向こうに消えた。一瞬のことで、追う間もなかった。


 フィアは気づいていない。前を向いたまま歩いている。袖が俺の袖から離れた。


 俺は一度だけ木の陰を見る。もう誰もいない。向こうから来て、見て、去った。それだけだった。


 足を動かしてフィアに並んだ。





 寮に戻って、ノートを開いた。


 今日の日付を書いた。それだけ書いて、ペンが止まった。


 フィアが俺を見た。的を見ずに、俺を見て「当たった?」と聞く。その順番を思い出す。腕を下ろして、振り返って、俺を見る。


 書く。「フィアが俺を見た」


 ペンが次の行に移る。


 「エルナ」


 書いてから、その二行を並べて見る。同じページに書いてある。フィアの視線と、銀色の影が、同じページに並んでいる。


 ただそういうページになった。


 ノートを閉じた。


 窓の外は暗い。木の影もなく、銀色もなく、ただ静かな夜になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ