影
三日目も、修正は残っていた。
フィアが的に向かって構える。腕が上がり、肘が固まり、魔力が集まる。昨日と同じ角度だ。一発目が走る。中心から少し右。二発目。中心に戻った。三発目。また中心だ。
昨日の焦げ跡の上に、今日の焦げ跡が重なっていく。三センチも外れていない。
俺は的から目を離さなかった。焦げ跡を見ていた。積み重なっている。同じ場所に集まっている。そこに残るのは修正の痕だ。
四発目が走った。中心にやや上。五発目。中心だった。
フィアが腕を下ろす。振り返りもせず、そのまま的を見ている。沈黙がある。
それから、振り返った。
的を見ない。俺を見た。
「当たった?」
俺はうなずいた。
「当たってる」
フィアはそのまま俺を見ている。短い間がある。それから視線が的に戻った。
◇
帰り道は並木道を使った。フィアが先に歩き出したので、俺も隣に並んだ。二人並ぶには少し狭い道だ。自然に距離が詰まった。袖が触れそうだった。
日が傾いて、木の影が道に横に伸びている。影を踏みながら歩く。フィアは黙っている。俺も黙っている。話すことを探していない。
しばらくして、フィアが口を開いた。
「あの……」
俺は横を向く。フィアは前を向いたまま、少し口を閉じる。また開こうとして、そのまま閉じた。
何も言わなかった。
俺は前に向き直す。並木の影が道の上で揺れている。風が動くたびに葉の形が変わる。フィアの袖が、また俺の袖に近づいた。触れるか触れないかの距離だった。
言いかけたのに言わない。俺はそれを聞かなかった。
フィアはすぐには言わない。でも消えもしない。
並木の影の中を、二人で歩いた。
◇
並木の外れで、足が止まった。
視線があった。木の陰から来る視線だ。体より先に気づく種類の感覚だった。
目を向けた。
銀色が見えた。
木の幹の陰に、人が立っている。背が高い。髪が銀で、日の光を拾って白く光る。顔は見えなかった。影に半分隠れていた。
エルナだ。
動かなかった。こちらを見ていた。見ているのか、確かめているのか、区別がつかない。ただそこに立っていた。俺と目が合った。それだけ確かだった。
次の瞬間、もうそこにいない。
消えた、ではない。歩いて行ったのだと思う。ただ影に紛れて見えなくなった。木の幹の向こうに消えた。一瞬のことで、追う間もなかった。
フィアは気づいていない。前を向いたまま歩いている。袖が俺の袖から離れた。
俺は一度だけ木の陰を見る。もう誰もいない。向こうから来て、見て、去った。それだけだった。
足を動かしてフィアに並んだ。
◇
寮に戻って、ノートを開いた。
今日の日付を書いた。それだけ書いて、ペンが止まった。
フィアが俺を見た。的を見ずに、俺を見て「当たった?」と聞く。その順番を思い出す。腕を下ろして、振り返って、俺を見る。
書く。「フィアが俺を見た」
ペンが次の行に移る。
「エルナ」
書いてから、その二行を並べて見る。同じページに書いてある。フィアの視線と、銀色の影が、同じページに並んでいる。
ただそういうページになった。
ノートを閉じた。
窓の外は暗い。木の影もなく、銀色もなく、ただ静かな夜になっていた。




