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 音が来る前に光が来た。


 火球が走って、的の中心に当たって、散った。焦げ跡が重なった。昨日の跡の上に、今日の跡が乗っている。ほぼ同じ場所だ。中心から二センチも外れていない。


 フィアは腕を下ろした。振り返らずに次の構えに入った。


 二発目が走った。中心、やや上。昨日と同じくらいの位置だ。三発目が来て、また中心。三発とも、昨日の焦げ跡の上に重なっている。


 修正が持続している。


 俺はそれだけを見た。ただ壁を見て、焦げ跡を見た。昨日と今日が同じ場所に重なっている。


 フィアは一言も言わなかった。構えを解いて、的を見て、もう一度構える。四発目が走った。中心の少し右。五発目が走る。中心に戻った。六発目。また中心だ。


 俺は壁から目を離さなかった。焦げ跡が増えるたびに、同じ場所が深くなっていく。積み重なっていく。昨日の俺が書いたものが、今日も効いている。





 フィアが一度訓練場を出た隙に、ノートを開いた。


 日付を書こうとして、止まった。


 この数日間、何度もフィアの名前を書いてきた。着弾座標、修正前後の偏差、接続時間、ターミナル上の術式の状態。並べると表になる。どのページも同じ構造だ。日付と、数字と、条件。どのページも、同じように見える。


 ペンを持ったまま、ノートの白いページを見た。


 書いた。


「三日前。お前の顔、と言った。耳が赤かった」


 数字ではなかった。でも手が止まらなかった。


「一昨日。壁の話を聞いた」


 書いていると、あの日のことが順番に浮かんでくる。フィアが訓練場の壁に寄りかかって、三年前のことを話した。俺は聞いていた。横顔しか見えなかった。


「昨日。手を出した。温度が先に来た」


 ペンが紙の上を動く。書いている間に温度が戻ってくる。皮膚じゃなくて指先の感覚が先に来て、熱があって、それからターミナルが開いた。その順番を書いた。測れない。でも確かにその順番で来た。もう一行追う。


「今日。修正が持続した。焦げ跡が重なっている」


 書いてから、その一行だけが他と違うと気づいた。数字に近い。でも「重なっている」は数字に換えられない。


 ページを見た。


 四行ある。どれにも顔がある。


 これまで何十ページも書いてきた。着弾位置、偏差、接続時間。フィアの名前は何度も出てくる。あのどのページにも、顔がなかった。今は、このページがある。


 ペンをノートの上に置いた。





「何書いてるの」


 声がして、俺は顔を上げた。


 フィアがすぐ横に立っていた。二メートル半が消えている。いつの間に近づいたのか分からなかった。ノートを覗きこんでいる。少し前かがみで、視線が俺の手元に来ている。


 ノートを閉じた。


「記録」


「嘘」


 フィアは即座に言った。上体を戻して、俺を見た。


「あんたの記録はもっと数字が多い」


 俺は答えなかった。


 フィアはしばらく俺を見ていた。何かを読もうとしているような目だった。俺も何も言わなかった。


 沈黙が数秒あった。


 それから視線が外れた。正面を向いた。的に向いた。


 そこで気づいた。


 フィアの横顔を見ていた。口の端が、ほんのわずかに上がっている。


 数字には換えられない。ターミナルにも書き方がない。でも俺には見えていた。四行より先に。


 何と名づけるつもりもなかった。ただそこにあった。


 書かなくても、見えている。


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