同じ
朝の訓練場。フィアの番。
「フレア!」
壁に当たった。的の左。石の破片が散る。三日前に手のひらで書いた方向も着弾点も、火の飛び方にもう残っていないように見える。暴発ではない。壁に穴は開いていない。だが的には当たらなかった。
隣の男が呟いた。「あれ、先週当ててなかったか」
フィアが列に戻る。俺の方を見なかった。袖は下りたままだ。腕を組んで、壁に背中をつけた。同じ壁だ。放課後に手のひらを差し出していた場所と。
◇
放課後のF組訓練場に来た。
誰もいなかった。
壁に寄りかかる場所を見た。フィアがいつも立っていた場所だ。壁の表面に背中の跡はない。でも毎日同じ場所に立っていたのは知っている。ここで袖をめくって手首を見せ始めた。ここで手のひらを差し出した。指が俺の指に絡んだのも、ここだ。
壁に背中をつけた。フィアと同じ場所に。壁が冷たい。背中全体に石の温度が伝わってくる。フィアはいつもこの冷たさの中で立っていたのか。
並木の影が訓練場の半分を覆っている。風が吹いて、的の焦げ跡に砂が被った。朝のフィアの火がつけた焦げだ。中心から左にずれている。先週まで中心に重なっていた焦げ跡が、今日は壁に散っている。
十分待った。二十分待った。影が壁を登っていく。
来なかった。
◇
壁から背中を離した。このまま帰ってもいい。だが足は的の方に向いた。
一人の訓練場で的に向かった。目を閉じる。黒い画面にカーソルが点滅している。
fire。
小さな火球が的の表面を焦がす。豆鉄砲だ。入学の時と変わらない。虫が止まったような焦げ跡が的の中心に残った。フィアの焦げ跡の隣に、俺の焦げ跡。出力が違いすぎて並べるのも滑稽だ。
火の中に、花びらが混じっていた。
薄い色の破片が一瞬だけ揺れて消える。
足が止まった。目を開けたまま、的の焦げ跡を見ている。
もう一発撃った。今度は花びらではなく、透明な粒が混じった。水滴のような何か。焦げもせずに火の中で一瞬だけ光って消えた。三発目。何も混じらない。普通の火だった。四発目。花びらが戻った。色が違う。一発目より濃い。
入学初日の夜。寮の部屋でfireを繰り返した時と同じだ。
俺のfireにも、最初からある。
五発目を撃った。花びらが混じった。色が濃い。手を開いて、指先を見た。この手でフィアの手のひらに触れていた。この手で修正を書いた。この手で撃ったfireに、フィアのフレアと同じものが混じっている。
似ている。だが同じかどうかはわからない。接触して確かめる方法がない。フィアの手のひらに触れている時に見えた花びら模様と、今俺のfireに混じった花びらが、同じものなのか。
六発目は花びらが混じった。七発目は水滴。八発目には何も混じらない。毎回違う。規則がない。
ガドに触れた時、花びらはなかった。エルナの断片にもなかった。俺とフィアにはある。接続する前から。
訓練場に風が吹き込んだ。的の焦げ跡に被った砂が飛ぶ。フィアの焦げと俺の焦げが並んでいる。大きさが違う。位置が違う。だが中に混じるものは同じだ。
◇
部屋でノートを開いた。
「俺のfireに花びら。フィアのフレアにも花びら。ガドのブレイズになし。エルナのアイスランスになし」
「フィアだけの問題だと思っていた。ガドになかった時、フィアが特別なのだと。違った」
「接続が原因ではない。接続する前から俺のfireにあった。フィアの方は確証がない。だが手のひらで読んだ花びら模様は、俺が書いたものではなかった。最初からフィアの中にあったものだ」
その下に一行。
「俺とフィアの共通点は何だ」
ペンが止まった。
訓練場にフィアはいない。壁に背中の跡は残っていない。手のひらの温度は、もうどこにもない。答えを聞きたい相手が、今日は来なかった。




