触れた
朝の訓練場。F組が的に向かって順番に撃っている。
フィアの番が来た。
「フレア!」
的の中心に当たった。煙が上がる。昨日の放課後に書いた修正がまだ残っている。周囲は何も言わない。F組の暴発女が的に当てた。それだけのことだ。
だが火の中に、一瞬だけ色が見えた。赤ではない何か。昨日の放課後、手のひら接触で修正を書いた時に差した色と同じだ。接続していない。触れてもいない。なのに出ている。
フィアだけなのか。
列の前方でガドが肩を回している。大柄な背中。次の番を待っている。
足が動いた。列を離れて、ガドの方に歩いた。
◇
ガドの隣を通り過ぎる時、肩をぶつけた。わざとだ。すれ違いに見えるように、腕が触れた。ガドの二の腕。布越しではない。袖がめくれていて、肌に直接当たった。
目を閉じた。
ターミナルにガドの術式が流れた。一瞬だけだ。荒い。大きな文字が不揃いに並んでいる。フィアのコードとは違う。整理されていない力がそのまま並んでいる。空白の縁に目を向けた。
何もない。
花びら模様はない。色のあるものはない。黒い文字だけが散らばっている。少なくとも、フィアの空白の縁にあった色の混じりはない。乱雑だが、余計なものがない。
「何だよ」
ガドが振り返った。目を開けた。
「悪い、よろけた」
ガドが鼻を鳴らして前を向いた。それだけだった。
列に戻った。右腕にガドの体温が残っている。フィアとは違う、乾いた熱だった。
◇
フィアの二発目の番が来た。
フィアが前を向いた。構えた。だがその直前、視線がこちらに来た。一瞬だけ。俺の右腕を見た。さっきガドに触れた腕だ。すぐに前を向いた。
「フレア!」
的の右上に当たった。中心を外した。
修正は残っている。方向も着弾点も昨日書いたばかりだ。残り四日ある。なのにずれた。
火の中の色が、一発目より強かった。赤の中に差す色が濃い。揺れ方も大きい。
フィアが列に戻ってきた。俺の横を通り過ぎた。目を合わせなかった。
袖が下りていた。
昨日まで出していた手首が、布の下に隠れている。
◇
訓練が終わった。並木道。フィアが先を歩いている。歩く速度がいつもより速い。追いついた。
「さっきの二発目——」
「うるさい」
声が硬い。昨日の「もうちょっとだけ触ってて」と同じ口から出ている声だとは思えなかった。袖を引き下ろしたまま、前だけ見ている。
「フィア」
「......あんたが誰に触ろうと、あたしには関係ない」
歩く速度が上がった。並木の影の中に、フィアの背中が小さくなっていく。追いかけなかった。手首の出ていない腕が、袖の下で揺れていた。
◇
部屋でノートを開いた。
「ガドに接触。花びら模様なし。術式の構造は見えた。黒い文字だけ。余計なものがない」
「フィアだけにある」
その下に書いた。「ガドに触れた直後、フィアの二発目がずれた。修正は残っている。方向も着弾点も書いてある。だがずれた」
ペンが止まった。
二つの問いがある。フィアだけに模様がある理由。そして、俺がガドに触れたことと、フィアの射撃がずれたことは、関係があるのか。
右手を見た。さっきガドの腕に触れた手だ。昨日、フィアの指が絡んできた手だ。同じ手で二人に触れた。フィアの手首が、袖の下に消えた。




