指
放課後。F組訓練場。フィアが手のひらを差し出している。三日目になると迷いがない。指が開いている。視線は横だが、手は真っ直ぐ前に出ている。
指先をフィアの手のひらに置いた。掌の温度が来る。目を閉じた。
ターミナルにコードが広がった。今日は両方やる。修正を書きながら、花びら模様を観察する。
方向を書き直した。前方。
花びら模様が反応した。
修正の文字を書いた瞬間に、空白の縁の花びらの形が変わった。先端が伸びて、縁に沿って揺れている。修正を書く前は止まっていた。書いた瞬間に動き始めた。
着弾点を書いた。中心。
花びら模様がまた揺れた。今度は色が濃くなった。修正の文字は黒い。模様は色がある。書くたびに、模様の色が鮮やかになっていく。
修正と模様は別のものだ。だが干渉している。修正を書くたびに模様が反応する。俺が書いた黒い文字が空白に入ると、花びらの色が濃くなって揺れる。まるで修正が刺激になっているかのようだ。昨日、読むだけの時は模様はゆっくり動いていた。書くと加速する。
フィアの呼吸が深くなっている。修正の快楽と接触の快楽が同時に来ている。吐息が漏れる。低く、長い呼気だ。肩の力が抜けて、壁にもたれる体重が増えている。
手を離さないまま、深い場所の修正も書き直した。空白の奥の文字の影が見える。手のひら接触だと、手首の時より深い場所まで手が届く。書き込むたびに花びら模様が揺れて、フィアの呼吸が深くなる。
◇
「撃て」
フィアが目を開けた。前を向く。
「フレア!」
的の中心を焼き抜いた。煙が上がる。花びらは混じっていなかった。だが一瞬、火の色が違った。赤い火の中に、ほんのわずかに別の色が差した。淡い色だ。花びらのようなものは出なかった。形ではなく、色だけが変わった。
手首の時は花びらが混じった。形のあるもの。手のひらの時は花びらが消えて、代わりに色が変わった。形から色へ。接触が深くなるほど、揺らぎの出方が変わっていく。花びらが消えたのではない。見え方が変わったのかもしれない。
◇
手を離そうとした。
フィアの指が動いた。
俺の中指と薬指の間に、フィアの指が入った。手のひら同士が合わさった。フィアの指が俺の指を握っている。差し出すのではなく、掴んでいる。
心臓が跳ねた。俺のだ。フィアの脈ではない。俺の胸の中で、一回だけ大きく跳ねた。
フィアがすぐに手を引いた。顔を横に向ける。耳が赤い。首まで赤い。袖を引っ張る仕草。手のひらを隠しかけて、やめた。
「......別に」
声がほとんど聞こえなかった。
「別に何だ」
フィアが答えなかった。壁に背中をつけたまま、的の焦げ跡を見ている。煙がまだ上がっている。
数秒の沈黙があった。訓練場に焦げた匂いだけが残っている。
「......もうちょっとだけ、触ってて」
声が喉の奥から出ていた。こちらを見ていない。だが手のひらが、また少しだけ前に出ていた。
触れた。フィアの手のひらに、今度は手のひら同士を合わせた。指は絡めなかった。ただ合わせた。フィアの体温が手のひら全体に広がった。五本の指の付け根から掌の中心まで、全部が温かい。
フィアの呼吸がゆっくりになっていく。目を閉じている。壁にもたれている。何も言わない。並木の外から風が吹き込んで、訓練場の焦げた匂いを薄めていった。二人の手のひらだけが、まだ熱い。
◇
部屋でノートを開いた。
「修正を書くと花びら模様が反応する。書く→模様が揺れる→色が濃くなる。修正と模様は別レイヤーだが干渉する」
「手のひら接触で修正しても花びら混入なし。だが火の色がわずかに変わった。接触深度で揺らぎの出方が変わる」
ペンが止まった。
フィアの指の感触がまだ残っている。中指と薬指の間。差し出されたのではない。掴まれた。フィアの方から。
「もうちょっとだけ触ってて」と言った声が、まだ耳にある。




