第50話 亡国の王子、情報交換をする。
「――で、俺の方で仕入れた情報はそんな感じ」
数日後。
例のごとくローラントの部屋で、俺は手に入れた話を一通り並べ終えた。
ちなみに今日の話のお供は、ケーキである。
エレオノーレ殿下とリズへのお土産を買ったついでに、自分の分とローラントの分も買ったのだ。
今回は話の前に買うことで忘れないようにする戦術!
「なるほど」
ローラントは真面目な顔でケーキを食べながら頷いた。
……似合わねぇ。
「第三皇子が護衛も付けずに一人で出歩いているのは事実。皇帝の不調も事実。そして、複数の勢力に関する不穏な噂が流れている、と」
「そういうこと」
「……怪しすぎますね」
「怪しすぎるな」
二人してケーキを一口食べる。
うん、甘いのに軽くて美味い。
話は重たくて不味いけど。
「ちなみに、これどこで仕入れたんです?」
「第二皇女宮の交流会と、酒場」
「……酒場」
「酒場は馬鹿にできないぞ」
実際、麦穂亭の情報網は割と侮れない。
なにせ、皇子が変装して常連やってるくらいだからな!
「帝都という都市の性質上、不穏分子や亡国の関係者が集まること自体は不自然ではありません」
「だろうな」
「ですが、偶然にしては時期が揃いすぎている」
「わかる」
あまりにも怪しすぎて、逆に「全部ただの偶然です」と言われた方が怖い。
しかも、どれも「噂」の形で流れてくる。
誰かが「今が好機ですよ」と耳元で囁いて回っているようなものだ。
「そっちは?」
「申し訳ありませんが、大きな変化はありません。ですが、一つお聞きしたいことが」
「ん?」
「王都陥落時の話なのですが、『俺は帝国第三皇子グスタフ!一番強い者が出てこい!俺を倒せれば軍を引いてやるぞ!』と言っていた者がいた、というのは本当ですか?」
ローラントが「本当に?」みたいな顔してるけど、あったんだよ本当に。
いや、当時はまさかそんなアホな事言う皇族がいるとは俺の想像にもなかった。
今ならわかる。
グスタフ殿下なら、言う。
たぶん、周囲の胃はとても痛かったと思う。
「ああ、俺も見た。遠目でも分かるくらい派手に突っ込んできてた」
「ほう、誰が戦ったのですか?」
「いや、どう考えても罠だろう、って兄上が」
「第一王子殿下らしいご判断ですね」
「そのまま魔術師団に命令して、遠距離から集中砲撃入れてた」
「ふむ?」
「それを捌ききった上で、『つまらん奴らめぇぇぇぇ!!』って怒りながら突撃してきたところまでは見た」
「なるほど」
ローラントがなぜか嬉しそうに顎に手を当てる。
「なかなかやりますね」
「評価そこ!?」
王都を攻めてきた敵将の話だよ!?
いや、たぶんローラントも同じことできるんだろうけどね!
「でも、なんで急にあの時の話が?」
「いえ、その話と共に襲撃対象候補として、名前が挙がっておりまして」
「……あー」
そりゃそうだ。
王都の門を破った張本人が、街を一人で歩いてるって話になれば、そりゃそうなるか。
「ちなみに他の候補は?」
「魔導局または皇城への襲撃。個人で狙うなら、やはり第三皇子か皇帝を、という意見が多いです」
「……なるほど」
想像以上に駄目だった。
どれに手を出しても、全員まとめて終わる。
「魔導局はなんで対象に?」
「帝国の軍事力を支える魔導技術の中枢だから、だそうです」
「……」
マーリン。
お前、知らないところで襲撃対象の職場にいるぞ。
まあ、あいつなら大丈夫そうな気もするけど。
「皇城は?」
「帝国の象徴だから、と」
「雑!」
「私もそう思います」
「皇帝は?」
「シャーウッドを滅ぼした張本人だから、と」
「それはまあ……分からなくはない」
でも世界最大の帝国の皇帝だぞ。
しかも、昔は本人も戦場に出ていたような人だ。
病気で臥せっている、という話だけでどうにかなる相手なのか?
「魔導局なんて、帝国技術の秘奥みたいなところだし、襲った瞬間にたぶん消し炭だぞ」
「でしょうな」
「皇城と皇帝は言うまでもなく論外」
「当たり前です」
「となると、誰かがわざと、勝てない相手の名前ばかり挙げさせてる?」
「私もそう思います」
厄介だなぁ。
「ちなみに、ローラントはその候補を聞いてどう思った?」
「知らない、とは恐ろしいものだと思いました」
「だよなぁ」
怖いもの知らずって言葉があるけど、本当に怖いものを知らないとこうなるらしい。
「一応、止めてはいるのですが」
「聞いてくれてる?」
「今のところは」
「今のところ」
怖い言い方だなぁ。
「特に第三皇子に関しては、『本人が一人で街を歩くなら好機ではないか』と言う者が多く」
「好機じゃないだろ。災害が一人で歩いてるだけだろ」
「今、当時の話を聞いて私は理解しましたが、皆にはその認識がないのでしょう」
「そっかぁ……」
グスタフ殿下を狙う?
口で言うのは簡単だが、たぶん作戦開始三秒で襲撃側が吹っ飛ばされる。
なんなら楽しそうに「ガハハ!素人とはいえ、この人数なら少しは運動になるかもな!」とか言って手加減するくらいはしてきそう。
「他に何か共有することは?」
「そうですね……武器を融通できるという話の出所を調べたいのですが、いかんせん私も大っぴらには動けないものでして」
「やっぱりそこが怪しいよな」
「はい。善意で武器を配る者など、善意で死地を用意する者と同じです」
「言い方重いなぁ」
「事実です」
まあ、事実なんだけど。
ああ、折角のケーキなのに味がしない!
「とりあえず、現時点では襲撃は無し」
「はい」
「こんな、誰のための復讐なのかもわからないままの復讐なんて絶対いい結果にならないから」
「……それは、そうですね」
「よし!」
ケーキの最後の一口を放り込む。
さて、今日はケーキの箱にかけてもらった保冷魔術が切れる前に第七皇女宮に真っ直ぐ帰ろ。
「今日はこんなところかな?」
「あ、でしたら直接は関係ないお話を一つお耳に入れても?」
「もちろん。なんかあった?」
なんだろう、ローラントの表情がちょっと嬉しそう。
「私と共に王都を離れていた近衛の一人に、オリヴィエという者がおりましたが、覚えておいでですか?」
「オリヴィエ?」
えーと、オリヴィエ……オリヴィエ……あ!
「ローラントから逃げる時、たまに匿ってくれたやつだ!」
「その説明で思い出されるのは少々複雑ですが、その者です」
思い出した。
俺が修練から逃げようとして隠れていると、見なかったことにしてくれた近衛騎士だ。
まあ、三回に一回くらいはローラントに密告してたことを俺は知っている。
許さない。
「オリヴィエがどうかしたの?」
「先日、子どもが生まれました」
「おお、おめでとう!」
それは普通にめでたい。
「ありがとうございます。本人も完全に親馬鹿になっております」
「そっかそっか……生きてたのか。よかった」
「はい。今は夫婦ともに、帝国の南部で大工をしております」
「近衛騎士が大工」
「意外と器用でした」
「人生ってわからないなぁ」
本当にわからない。
でも、亡国の王子が帝国で秘書官をしているくらいだから、近衛騎士が大工をしていても不思議ではないのかもしれない。
「今度何か祝い送っといてよ。俺からとは言えないから代わりに」
「承知しました」
「お金は出す」
「そこは私が」
「いや、俺も出すよ」
「では、折半にしましょう」
「うん」
ローラントも穏やかに頷く。
こういう話は良い。
王国民が皇族襲撃を企んでいるとか、そういう話よりずっと、良い。
うん、こういう未来がもっと増えればいい。
復讐で死ぬ人間より。
子どもが生まれたって笑う人間が増えた方が、きっと――
「ところで」
「ん?」
「ロビン殿にお子が生まれるご予定は?」
「よし」
立ち上がる。
「次は三日後な。俺は帰る」
「お待ちください」
「帰る」
「私は真剣に」
「真剣なのが一番嫌なんだよ!」
「恋人は?」
「いない!」
「職場に出会いは?」
「帰るっつってんだろ!」
なんで陰謀について真面目に話し合ってたはずなのに、最後に俺の婚活相談になってるんだよ!




