第1話 亡国の王子、就活する。
――亡国の王子。
そう聞けば浪漫の香りがするかもしれない。
欲しい人がいたら、この立場を譲ってあげよう。
何故なら、見方を変えると――「無職」なのである。
無職はまずい。腹が減る。
なので俺は今、自分の国を滅ぼした帝国で「ロビン」という名の一般人として下級官吏試験の面接を受けている。
「はい、書類仕事は得意です。剣術と魔術も最低限はこなせます」
事実だ。元王族舐めんな。
なお、前職の退職理由は勤務先の消滅です。
「随分と多才ですね。なぜこちらの下級官吏試験を?」
のんびり普通の生活がしたくて。
「はい、親が教育熱心だったもので。ですが、親が亡くなると同時に家も財産も失いまして。平穏な生活を送りたく、こちらで就活を」
嘘ではない。
そして、荒れた世の中では疑われるほどに珍しい話でもない。
救ってくれた教会から、戦火で焼け出された身元不明者としての証明ももらっている。
「なるほど、わかりました。では、明日から出勤してください。えーと……『ロビン』さん」
わーい、受かったぜ!
まあ、筆記も技能試験もいい点とった自信あったしな。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。ご希望の配属先等はありますか?」
給料が良くて、余計なしがらみがなくて、定時で帰れるところがいいです!!
「特に希望はありません。一任します」
そんなこと素直に言えるわけがなかった。
「わかりました。我が国は実力主義ですから、ロビンさんほどの方なら出世の機会もあると思いますので、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます、がんばります」
ははは、出世はほどほどでいいです。
「では、あちらの部屋で書類にサインし、写真撮影を受けてから今日はお帰りください」
すげえな、末端組織にも写真機あんのか。
写真なんて、王族時代にも数えるくらいしか撮ったことないぞ。
さすが栄えてる国は違うなー。
「わかりました。写真機があるなんて凄いですね」
「ははは、そうでしょう?技術先進国と言えば、やはり我が国ですよ」
まあ、他国滅ぼしまくって、技術も人材も集めまくってるもんねー。
◇
そんなわけで、書類に「ロビン」と書いて、それっぽい経歴を書いて写真を撮って無事宿に戻った。
「ふう、これで明日からは無職じゃなくなるな」
お金貯めたらどっかにお部屋借りよーっと。
そんなことを考えながら、窓からぼんやりと通りを眺めてみる。
笑う子ども。
賑やかな主婦。
流れていく馬車に、通りを照らす魔導灯。
「……うん、豊かだなぁ」
自分の国を滅ぼした帝国に恨みがないとは言わない。
だが、恨みで腹は膨れない。
それに元々、国とか王とかめんどくさいなー、と思っていたし。
王宮での生活なんて、思い出したい部類の記憶でもない。
大体が、何かを詰め込まれているか、嫌がらせを警戒しているかだったし。
「……許嫁の話も、うちの国を油断させるための策略だったらしいしな」
一回しか会ったことないが、可愛い子だったんだけどね。
そんなことばかり考えていると、国を滅ぼされた時の光景と血の匂いが脳内に――。
あー、やめやめ!
死んだ国のことを考えても、晩飯代は出てこない。
「よし!まずは働いて!普通の生活して!彼女作ろう!」
のんびりと穏やかな生活を送りたい!
あ、あのクレープおいしそうだなー。
晩御飯何にしようかなー。
◇
「おはようございます。本日からお世話になるロビンです」
あいさつはほぼコストゼロで繰り出せるコスパ最強技の一つである。
元気にやって悪いことは基本的にない。
「ああ、君か。よろしく、と言いたいんだが……」
昨日も会った人事担当者さんの雰囲気がおかしい。
なんだ?
あ、もしかして何かの理由で正体バレた!?
……それはないか、公式には死んだって発表されてるし。
「何かあったのですか?」
「うん、君の配属先なんだがね。急遽変更があってね」
あ、それくらいなら全然。
たぶんどの部署でも仕事はどうにかなる。
「あ、そんなことですか。どちらに行けばいいです?」
どこだろう。
言い辛そうにしているところを見ると不人気部署とかなんだろうか?
「えっと、一応聞くけど、うちの国来たばっかりだったよね?」
「はい」
あ、観光系の部署とかかな?
だったら、あまり案内とか上手にできないかも。
「うちの皇族わかる?」
「一般的な知識レベルなら」
これは嘘だけど。
「良かった。そのうちの第七皇女殿下の秘書官に配属になったんだよ」
……は?
「え?」
「だよね!よかったぁ、そういうリアクションだよね!!」
そりゃそうだ。
「だって、第七皇女殿下って……」
「うん、噂くらいは聞いてるかな?」
都の噂曰く、『美人だけど存在感薄い』『昼行燈』『式典で見たことない』『いたっけ?』とか、そんな感じ。
いや、そうじゃなくてさ。
「実はさ、最近その皇女殿下の秘書官たちが揃って辞めちゃって」
「はあ」
「大きな声では言えないけど、政争の一部なんじゃないかって話で……」
「ソウデスカ」
ありゃ、『第七皇女は政治に興味がない』とか聞いた気もするけど、まあ所詮噂だしな。
「うん、それで第七皇女殿下が『とりあえず今回の官吏採用者の首席を』と御所望されたらしいんだ」
人事担当者さんが気の毒そうな顔でこっちを見ている。
うん、わかるよ。
俺も無関係なら「運が悪かったんだねぇ」って思ってそういう顔をする。
でもさ。
「私、首席だったんですか?」
「うん、それとこういう言い方もなんだけど、君は身寄りがないだろう?」
人事担当者さんが申し訳なさそうな顔で言うが……。
うん、まあ、わかるよ。
派閥の匂いが無くて都合良いって話だよね。
「断ることは?」
「その、わかると思うけど、この配属は基本的に優先順位最大だし、表向きは栄転だから、その、行ってくれるかい?」
「デスヨネー」
でも、あの……その第七皇女、元・許嫁なんですが、それは。




