クロがリュウなら、私はニーナ
『クロ』改め『リュウ』は、考えていた。
このみずきさんは、本当に良い人だ。
こんな人に拾ってもらえて、僕は本当に幸せ者なんだ。
でも、シロはどうなったんだろう?
キャリーに入って獣医さんに行く途中は、途轍もなく寒い。
今僕は、朝から晩まで暑くもなく寒くもない所で、暮らしている。
ご飯も、今まで食べたことがないような美味しいものばかり、朝と晩にもらっている。
お昼の間にも色々なものを、おやつと称してもらっている。
この寒い中、リンプーとシロが寒さに震えて、お腹を空かせているかもと思うと、心がキュッと締まる思いがする。
お願いだ!
シロもこんな、みずきさんみたいな人に、拾われていて!
シロを探しに行くためにも、早く元気にならなくちゃ。
リュウの体力も随分回復した。
そろそろ点滴も終わって良いかも、という所まで来た。
その日も、リュウは自転車の前かごの上でキャリーに入っていた。
公園の前を通った時、リュウはシロとリンプーを発見した。
キャリーに開いたスリットから、はっきり2匹が見えた。
「みずきさん、気付いて!」
リュウは必死で、スリットの部分を叩いた。
より大きな音を立てるために、キャリーの中で転げまわった。
みずきが自転車を止めた。
「リュウ、ダメだよ。
大人しくキャリーには入ったのに、点滴が嫌なんだね。
きみが、元気になるためなんだから。
今日の検査で異常が無ければ、もう点滴はいいからね。
もう少しの辛抱だよ」
「違うんだ、みずきさん。
あそこ、あそこにいる白ねことトラねこ。
あの2匹を、助けてあげて欲しいんだ」
リュウの言葉は、人間のみずきには通じない。
「仕方ないねー。
多分今日1日だけだから、我慢してね」
みずきは、自転車をまた走らせた。
「あ、ああー。
シロ、リンプー、こっちに気付いてー!」
獣医で、リュウはしっかり回復していることが分かった。
容態の急変が無ければ、点滴はもう必要ない。
「リュウ、良かったね。
行きも嫌がってたけど、もう痛い目をしなくていいよ」
帰り道、リュウは目を皿のようにして外を見た。
公園の所に来た。
2匹とも、まだいる。
リュウは必死で、スリットの部分を叩いた。
また、キャリーの中で転げまわった。
「みずきさん、お願い!
あの2匹を助けて! お願い!」
みずきが自転車を止めた。
「リュウ、行きもここで騒いだよね。
点滴が嫌な訳じゃなかったの?」
リュウが叩いている側の延長線上を見る。
白いものが見える。
自転車を押して、公園の中に入った。
近くで見ると、白いねこだった。
リュウの時のように、ぐったりしている。
首にも変な腫瘍が出来ている。
「リュウ、この子を助けたかったんだね。
さすが、私の飼いねこ。
優しいんだね」
「リンプー、リンプーは何処?」
リュウは周りを探した。
自転車の反対側にいた。
「リンプー、おーい僕だよー」
「ああ、クロかい」
「うん、今は『リュウ』になったけどね」
「そうかい、シロを頼むよ、リュウ」
「えっ、リンプーは?」
「あたいかい?
あたいには、飼いねこは似合わないよ。
好きな所で、気ままに生きていくのが、性に合っているんだ。
短い間だったけど、世話になったね。
幸せになりなよ」
みずきは、片手でシロを抱っこして、もう片手で自転車を押した。
リュウを見てもらった獣医に引き返して、急患で見てもらった。
自転車を漕いで行くのに比べて、倍くらい時間がかかった。
翌日、シロは首の腫瘍を取る手術になった。
体へのダメージは、リュウの怪我の半分くらいで、すぐ直るそうだ。
「一匹目のオスねこが、ドラゴンと戦う勇者リュウだからね。
君は、その相手でニーナだよ。
リュウとも、私とも仲良くしてね」
そう言いながら、みずきはニーナをモフモフした。
「あ、それから、きみたちの治療費が沢山かかちゃったから。
私のお小遣いが、3ヵ月間半額にされちゃったからね。
責任を取って、2匹ともしっかり私を癒してよ」
それから1週間ほどして、ニーナも話せるようになった。
ニーナもみずきのベッドで一緒に寝たことで、回復した気がする。
ニーナも、あんなに柔らかい寝具で寝たことは、無かった。
そして、全く敵意の無いみずきの体温で温められる。
人間の体温は、ねこよりも低いはずだが。
『死にそうで心細かった時に、心が温もった』
これが、リュウとニーナの命が助かった最大の要因だろう。
お散歩が出来るようになった。
散歩先の公園で、リュウはニーナに聞いた。
「シロは、ニーナになっちゃったけど、良かったのかな?」
「私は、クロに会うまで辛いことしかなかった。
でも、クロに会ってからは、空を見ようとワクワクしてた。
一緒に空を見れたら、命なんていらないと思ってた。
でも、でもね。
今は、リュウと一緒に本当に幸せな日々を送っている。
私の幸せは、あなたとじゃなきゃ意味がないの。
クロがクロなら、私はシロ。
クロがリュウなら、私はニーナ」
「今まで、話せなかった分、随分雄弁だね」
リンプーがいる。
「リンプー!
リンプーも元気?
リンプーが居なかったら、僕たちの今もなかったんだ。
本当にありがとう」
「クロ、シロ、いや今はリュウとニーナか。
あたいは、大丈夫だからね。
いい人に拾われたみたいで、良かったね。
幸せになるんだよ」
リンプーは、振り返らずに走り去った。
ねこ達の頭上に、青い空が広がる。
リュウとニーナが、本当に見たかった空。




