夢に見た空
最後は、50段ほどの階段だ。
その先に青い空が見えている。
クロは、階段の手前でシロとリンプーに言う。
「ハハハ。
ちょっと、真剣に戦いすぎちゃったみたいだ。
こんなに疲れてちゃ、こんな階段上れないよ。
一晩位休んだら出発するから、先に行っててよ。
僕も後から、元気になったシロを探しに行くよ」
「シロ、ほら直ぐそこに青空があるよ。
さっさと登って、外の空気を吸うんだよ。
その首の病気を治してもらって、クロに会いに来ようぜ」
リンプーは必死で作った笑顔で、語りかける。
シロは、空を見ようと一生懸命に、階段を登っていく。
地方都市の道の脇に出た。
緑があふれて、空は突き抜けるほど青い。
鳥たちのさえずりが、聞こえる。
シロの前にバッタが跳ぶ。
シロは、バッタを追いかけて、走っていく。
リンプーは、下水の出口で立ち止まった。
我慢できずに泣き出してしまった。
地面にポタポタと泪が落ちる。
シロは、ふと気づく。
リンプーが立ち止まっている。
嫌な予感がしたシロは、駆け戻ろうとする。
その道をリンプーがふさぐ。
「行くんだ、シロ。
あんたが病気を治して、元気になること。
それが、クロの願いなんだよ」
シロは、のどの腫瘍で声が出せない。
だが、力を振り絞って、命を振り絞って叫んだ。
「クロー」
(絶対に帰って来るから)
下水の出口の階段の下、クロは力尽きていた。
彼は、夢を見ていた。
「本当の戦士と、命をかけての闘い。
そして、勝利。我は満足したぞ。
小さきものよ、これからもその勇気を忘れるなよ」
クロの体から、何かが抜けていった。
数時間後、クロは目を覚ました。
「僕は、僕の意志で生きているのか?」
クロは立ち上がった。
階段を1段1段登って行った。
さっきは、出口に青空が見えていたが、すっかり夜だ。
出口から少し進んだ所に、段ボール箱が落ちていた。
下水の通路でもよく見た、その箱の中に入った。
「この寒さだ。
箱の中で風を凌がないと、凍死してしまう」
ハッと気づくと、箱が揺れている。
明るい。朝になったようだ。
自転車の前かごに載せられていた。
人間のツインテールの女の子が、一生懸命に自転車をこいでいる。
クロは、寝子見みずきという女の子に、拾われた。
寝子見みずきは、家に帰ると親に説明を始めた。
「酷いんだよ。
今時、この寒空に段ボール箱で、捨てねこをするんだから。
信じられないよ。
しかも、この子喧嘩したのか、顔から首から傷だらけなんだよ。
獣医さんに連れて行くから、お金頂戴!」
えっ、獣医さん?
「僕じゃなくて、シロを、シロを連れて行ってあげて!」
寝子見みずきは、以前ウサギを飼っていた。
それで、丁度いい大きさのキャリーがあった。
体が弱っていたので、抵抗も出来ずキャリーに放り込まれた。
その日のうちに、獣医というか動物病院に連れていかれた。
寝子見みずきは、獣医さんの話を聞いていた。
「体は、かなり衰弱していますね。
点滴をしておきましたが、明日も来てください。
もう2,3日は点滴が必要です。
怪我の方は、結構重症のはずなんですが、傷口が塞がっています。
一応消毒は、しておきました。
体力が戻れば、傷も治っていくでしょう。
でも、傷口に爬虫類のウロコが刺さっていたんです。
ワニや大トカゲと戦うようなことは無いと、思いますからね。
ドラゴンとでも戦ったんですかね?」
「ワニや大トカゲより、ドラゴンと戦う可能性の方が少ないでしょう。
もしかして、先生もゲーマーですか?」
みずきと獣医の先生は、ドラゴンを倒すゲームの話で盛上った。
家に帰ったら、ペット用のウエットティッシュで体中を拭かれた。
夜は、みずきのベッドで抱っこされて寝た。
ベッドの上は、フワフワと柔らかい。
みずきの体温も合わせて、ぬくぬくだ。
彼女からは、敵意を全く感じない。
ねこみみを触って、
「モフモフ、モフモフ、にゃふー」
とか言うのが、ちょっと変なくらいだ。
「きみは、傷口に爬虫類のウロコが刺さっていたんだって。
本当に、ドラゴンと戦ったのかい?
だとしたら、本物の勇者だね。
きみの名前は、『リュウ』だよ」
寝込みずきは、リュウを膝の上で撫でながら話しかける。
次回、最終回になります。




