最後の戦い
シロは、通路の縁で気を失っていた。
リンプーがシロを揺する。
「シロ、大丈夫かい?
生きてるかい?」
シロが目を開ける。
クロもリンプーも無事なことを知って、ニッコリ笑う。
「シロ、クレイトスも境界の怪物もいなくなったよ。
もう少しで、地下水路の外へ出られるよ」
クロが明るく話しかける。
シロはゆっくり起き上がり、クロの割れた額を愛おしむ様に舐めた。
もう、シロよりもクロの方が歩く速度が遅い。
「ゴメンよ。
あたいがレジスタンスなんかに連れて行かなきゃ、クレイトス達に追いつかれやしなかったのに」
「ハハ、いつまで言っているんだよ、リンプー。
アサガオの転移魔法が無かったら、モビーには勝てなかったよ」
地上が近いからだろう。
通路脇に、花が咲いている。
天井の上にマンホールがあり、わずかに穴が開いている。
その穴を通して、わずかな明かりも入ってくる。
「外って、ものすごく明るいんだろうな」
所々漏れてくる光が眩しくて、クロは目を細めた。
「やっと追いついたぞ、クロ!」
声の方を見ると、アシュラが立っている。
前の戦いの後、治療も休みもせずに歩き続けたせいだろう。
左前脚が壊死している。
脚の先が無くなっている。
「お、俺は、貴様との闘いを完結させるためだけに、ここまで来た。
さあ、俺と勝負しろ!」
「あんたの相手は、あたいだよ」
アシュラの顔に石つぶてが決まる。
「このクソねこ!
俺とクロの闘いを邪魔すんじゃねー!」
アシュラは、石つぶてをものともせず前進する。
そして、渾身のねこパンチをリンプーに見舞う。
リンプーは吹っ飛ぶ。
クロが前に出る。
「リンプー、ゴメン。
アシュラは、僕と決着を付けたいみたいだ」
「でも、でも……
あんた、ここで戦ったら……」
リンプーは泪声だ。
「いや、いいんだ。
小さな頃からずっと、何をするにもアシュラと一緒だったんだ。
でも、今僕らは違う道を歩もうとしている。
決着を付けなきゃいけないんだ」
クロは、ナイフを咥えてアシュラと正対する。
「さすがだぜ、クロ。
それでこそ、俺の生涯の好敵手だ」
2匹は暫し睨みあった後、同時に前に飛び出した。
クロの咥えたナイフが、アシュラの顔を切り裂く。
それをものともせず、アシュラはクロの喉笛に噛みつく。
クロは動けない。
「グッ、パ、黒ヒョウ形態」
クロの体が、黒い霧を纏う。
「あ、あ、あ……」
リンプーは手出しできずに、ただ泪を流す。
クロの言葉が、リンプーの頭の中で繰り返される。
『もし、僕が次の戦いで一度でも黒ヒョウ形態を使ったら、その時は、振り返らずに2匹で外の世界へ出て欲しい』
「タルナーダ!」
クロは体を思い切り捻った後、渾身のねこパンチをかます。
アシュラは吹っ飛ぶが、クロも首の肉を持って行かれた。
「ヴィールヒ!」
クロが黒い霧を纏って突進する。
体当たりを食らって、アシュラは再度吹っ飛ぶ。
コンクリートの床に2回バウンドして、簡単には立ち上がれない。
「アシュラ、ゴメン。
もう、僕の意識は……」
言葉の途中で、クロの表情は野生動物のものに変わる。
アシュラの上に乗っかって、滅多打ちに、ねこパンチをかます。
クロの意識がフッと戻ったようで、手を止めた。
アシュラから降りて言う。
「アシュラ、もう止めよう。
決着は付いたよね」
「いや、まだだ。
俺は、まだ生きている」
「どうしても、君を殺さないといけないの?」
「クロ、空を目指すのに俺を誘ってくれて、実は少しだけ嬉しかったぜ。
もしかしたら、全てを捨てられるお前の方が、勇気があったのかもな。
だが、俺にはこの生き方しかできないんだ。
決着をつけるぞ!」
「でも、アシュラ……
君は、その傷ではもう戦えないよ……」
「クロ。
分かってるぜ。
お前も命を削って、俺と戦ってくれている。
だから、俺も今の全力でお前と殺し合うんだ。
それが、俺たちの友情だ」
「アシュラ、もう止めよう。
今からでも、一緒に空を見ようよ」
「馬鹿野郎!
俺は、戦いの中でしか生きられない漢、アシュラだ。
敗北したまま生きるくらいなら、死ぬまで戦う。
戦って死ぬ。
この先に進みたいなら、俺を殺して、踏み越えて行け!」
「じゃあ、せめて一撃で終わらせるよ。
ゴメン、アシュラ。
最後は敵になっちゃったけど、一番の友達だったよ。
化け物になっちゃった僕とも向き合ってくれた。
…………
ウラガーン」
黒い霧を纏った、強力なねこパンチがアシュラに炸裂する。
大型の肉食獣の一撃だ。
「俺……は……
強さでしか、語れなかった。
手加減無しで……
それでこそ、友、だ。
ありがとよ、クロ……」
アシュラは、その場に倒れた。
2度と目を開けることは、無かった。
「アシュラ、さよなら……」
クロの目に、光るものがあった。
シロが一輪の花を、アシュラの横にそっと置いた。




