第40話 イルミネーションで差をつけろ
ご立派な大樹の足元に現れた、縦横二メートルほどの穴。
穴の中には階段が覗いており、その先は暗くてよく見えない。
まるで『どうぞいらっしゃいませ』と言わんばかりに、俺達を誘っているような気がした。
「ダンジョン……ってワケじゃなさそうだよなぁ」
眼前の大木こそ遠くからでも目立つだろうが、あとはごくごく普通の田舎道でしかない。そんな場所に突然開いた謎の穴————というより地下への入口か。そう、これはどう見たって自然現象ではない。勝手に穴が開いたというわけではなく、条件が満たされたことによって開いた入口だ。その条件というのは恐らく、ぷぅちゃんが手を触れたこと。あれだけ俺が触っていたというのに、それまでは何も起きなかったのだ。であれば間違いなく彼女が原因だろう。
遥か昔に作られた幼女兵器こと、ぷぅちゃん。
それに反応して開いた地下への扉。直前に聞こえた機械音声。怪しいにも程があるだろう。
「これも兄貴の部屋みたいな……いわゆる古代遺跡ってことなのか?」
古代遺跡と一口に言っても、その分類は多岐に渡る。
現在この世界で発見されている古代遺跡は、その年代も数百年前~数千年前とバラバラ。兄貴が居た時代のものかもしれないし、もっと昔の遺跡かもしれない。あるいは割と最近のものという可能性だってある。専門家でもない俺には、この穴が一体どの時代のモノなのかなど分からなかった。
ともあれ、今決めるべきことはひとつ。
すなわち入るか、入らないかだ。
「うーん……個人的にはスルーしたいんだよなぁ。さっきも言ったけど食料の残りが怪しいし、穴の先がどうなってるのかも分からない。もしダンジョンみたいに入り組んでいたら、進むのはもちろん戻るのも大変だ。もちろん、ぷぅちゃんに反応したってトコが気がかりではあるんだけど…………総じて『今は』スルーが正解な気がする。別にあとからでも来られるしなぁ」
現在俺達が抱えている目的を鑑みれば当然、この穴は調査する必要があるだろう。だがそれはあくまでも『いずれ』の話であって、何も今すぐ乗り込む必要はないのだ。そもそも今回の旅には、アムの師匠に会いに行くという大事な目的がある。もし師匠さんの協力を取り付けることができれば、あるいはこの穴の調査にも同行してもらえるかも知れない。何の知識もないオッサンと記憶喪失の幼女ふたりで調査するよりは、余程有意義なものになるだろう。
そうして考えを纏め、先程から静かにしているぷぅちゃんの方を振り返る。
「とまぁ俺はそんな感じなんだけど、ぷぅちゃんはどう————ん?」
しかし、そこにぷぅちゃんの姿は無かった。
「あ、あれ? ぷぅちゃんどこ行った!?」
慌てて周囲を見渡すも、目に映るのは人っ子一人いない街道だけ。
そういえば、今と似たような事がいつぞやもあった。森から脱出する際にも居なくなった彼女は、こっそりタヌキを捕まえて戻ってきた。そう、ぷぅちゃんは幼女らしく動きが遅いくせに、気配を消すのだけは何故か異様に上手いのだ。まぁあの子ロボだからね、仕方ないね。
「ぷぅちゃーん! おーい、どこいったー?」
あの時と同じように、大きな声で呼びかける。
アレで意外と、ぷぅちゃんはそう遠くまで行ったりはしないのだ。そんな俺の読みは当たっていたらしく、たった一度の呼びかけで返事は返ってきた。
「ここ」
俺はむっつり声のした方————背後へと顔を向ける。
そこにはモグラよろしく、穴の中からぷぅちゃんがひょこりと顔を出していた。頭の上にはジークも乗っている。
「もう入ってて草」
俺があれやこれやと考えを巡らせている隙に、どうやら好奇心旺盛な幼女はさっさと穴へと突撃していたらしい。普段からずっと眠そうな癖して、たまに謎の行動力を発揮するよねキミ。
「せっかくなので。にゃーもくる」
前述の理由から非常に気は進まないが、ぷネキがそう言うのなら是非もなし。
「マジかぁ…………仕方ない、ちょっとだけな」
「わかった。ではれっつごー」
世のパパさんママさんは、一体どうやって子どもの要求を翻意させているのだろうか。そんな益体もないことを考えながら、俺は渋々ぷぅちゃんの後を追った。
* * *
そうして階段を下り始め、いよいよ外の光が届かなくなってきた頃。
俺達の背後からゴリゴリと喧しく、扉が閉まる音が聞こえた。自動ドアのようなアーティファクトが使用されているのだろう、どうやら一定時間で勝手に閉まる仕組みだったらしい。扉が閉まったことにより陽の光が全て遮断され、一寸先すらも見えない闇の世界が俺達を包み込んだ。
「うおお……ヤバい、コレはちょっと怖いかも」
俺が特別怖がりだとか、別にそういうわけじゃない。
こんなクソ長い階段の途中で視界が奪われれば、誰だって恐怖を覚えるものだろう。
すると前を進んでいたぷぅちゃんが、突如七色の光を放ち始めた。どうやら俺のビビリ声が聞こえていたらしい。
これは『ゲーミング幼女モード』、あるいは『パリピ幼女』と呼ばれる状態だ。古代遺跡シャレムからの脱出直後にも見せてくれた、例のド派手なヤツだ。もちろん俺が勝手にそう呼んでいるだけで、実際何のために実装されているモードなのかは一切不明である。七色のケバい光と圧倒的な光量から、時には『イカ釣り幼女モード』とも。いやまぁ、呼び方は何でもいいんだけど。当時は森の中だったこともあり、魔物を誘引するおそれがあったために使用を断念した。しかし現在その心配はなく、むしろ足元が見えない方が問題となっている。つまりは今こそが『パリピ幼女モード』の本領発揮というわけだ。
「おぉ……やたらとやかましい色味はさておき、助かったよぷぅちゃん。てかそれ、本人は光ってる時どんな気分なの?」
「けっこうたのしい」
「そりゃよかった」
そうしてナイトクラブよろしく、狭い階段を七色に照らしながら下りること暫く。時間にすれば一、二分といったところだが、足を踏み外さぬよう慎重に歩いていたことを考えれば、恐らくは地下三階といった程度の深度だろうか。大きな扉(の残骸)を抜け、俺とぷぅちゃんが辿り着いたそこは、とにかく広々とした大空間だった。
「これ、は……」
恐らくはホールであろうか。
洞窟やダンジョンとは異なる、明らかに人工の床と壁、そして天井。当然ながら凹凸などはなく、表面は全て綺麗に均されている。広間だというのに柱などは不思議と見当たらず、高い建築技術が使用されていることが見て取れた。そして何より、この空間はそれなりに明るかった。部屋の各所にいくつも設置された小さな柱が、淡い白光を放っているせいだろう。
「これも古代遺物、なのか? 電気で動いてるってワケじゃなさそうだけど…………それにしては蓄光ってレベルの光量じゃないし、それ以前にそもそも地下だしな…………どう思う、ぷぅちゃん?」
「まりょくをおびてるから、あれはまどうぐ」
なるほど、魔導具か。
魔法の力を宿した照明だからこそ、恐らくは数百、数千年経った今でも光を放っていられるというわけか。当然ながら、電気を利用した地球のライトではこうはいかない。魔法のこういった部分は、科学と比べて明確に優れている部分といえるだろう。まぁ俺は魔法のことなんてからっきしなわけで、原理や仕組みについては想像すら出来ないのだが。
ゲーミング幼女モードを解除したぷぅちゃんを伴い、ゆっくりと周囲に目を配ってゆく。
真っ白な壁には、何やら名刺サイズの小さな紙がいくつも貼られていた。そうして歩き続け、辿り着いたホールの最奥で俺達が見つけたもの。
「にゃー、あれ」
「成程、つまりここは————美術館なのか」
それは無機質な壁にかけられた、大きな大きな一枚の『絵画』だった。




