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異世界ヤニおじさんと物騒な幼女~異世界で幼女(嘘)拾ったので禁煙の旅に出ます(大嘘)~  作者: しけもく


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第37話 現代科学に感謝

 それはスィーリアにやってきてから、二週間と少しが経った頃。

 俺達はここ数日、アムの手伝いを行う為に魔導開発局へと通っていた。手伝いと言っても俺はずっと部屋の隅でヤニを吸っているだけで、主に活躍していたのはぷぅちゃんなのだが。


「うーん、リサさんの淹れてくれるお茶は最高だぜ」


「ふふふ。実は結構こだわりのお茶なんですよ」

 

 必然的にリサさんとも度々顔を合わせており、今ではすっかり顔なじみだ。彼女は非常に常識的で、かつ物腰も柔らかい。こんな怪しいオジサンが相手でも嫌な顔ひとつせずに話し相手となってくれる、よく出来たお嬢さんである。実は彼女、アムの目付役だとかいう以前に魔導開発局の副局長だったりする。つまりは国内における魔導技術のナンバーツーで、アムに次ぐ立場である。見たところまだ十代か二十代前半といったところであろうに、アム然り、アッシュ然り、異世界人のスペックの高さには驚かされてばかりだ。いや、アムは結構いい歳なのだったか。


「お茶が好きなんだ?」


「ええ。こういう仕事ですから、隙間時間に楽しめる趣味って限られるんですよ」


 成程確かに、研究職の人間といえば缶詰状態で仕事をしているイメージがある。上京前の兄貴も、ほとんど家には帰ってこなかったっけな。そういった人種からすれば、僅かな時間で楽しめる『お茶』というのは中々理にかなった趣味と言えるだろう。そしてリサさんが『お茶』に対してかなりのこだわりを持っていることが、今飲んでいるこのお茶からよく分かる。斯くいう俺も、この手の趣味には少々覚えがあるからだ。


「なるほどねぇ。ならリサさん、コーヒーって飲み物は知ってる?」


「コーヒー、ですか……? うーん、聞いたことがないですね。お茶の一種なのでしょうか」


 そう、ヤニカスのお友達ことコーヒー君だ。

 ヤニとコーヒーは切っても切れない仲にある。その例に漏れず、俺もコーヒーが好きだった。専門店に直接出向いて、豆を選んで買う程度には好きだった。ミルやドリッパー等の道具もそこそここだわっていたし、数少ない趣味のひとつだったと言えるだろう。だが正直なところ、実はヤニカスにとってはコーヒーなら何でも良かったりする。コンビニのコーヒーだって好きだし、なんならそこらの自販機で買ったうっすい缶コーヒーも好きだ。というかぶっちゃけ、最も煙草と合うのは缶コーヒーであろう。香りもへったくれもないし、空いた缶を灰皿にできるしね。

 

 とまぁ色々言ったところで、だ。

 残念ながら、この世界では未だコーヒーを見たことがなかった。しかし俺が今まで辿ってきた道など、辺境の小さな村々でしかない。大都市にやってきたのもこのスィーリアが初めてであり、俺がこれまでに見聞きしてきたモノなど、この世界のごくごく一部に過ぎない。俺が見たことないからといって、この世界にコーヒーが存在しないと決めつけるのは早計というものだろう。


 だからこそリサ嬢に『コーヒーを知っているか』と尋ねたのだ。

 お茶を趣味にしている彼女であればもしかして、と考えただけのこと。別にコーヒーマウントを取ろうとしたワケじゃない。まぁいずれにせよ、結果は空振りに終わったわけなのだが。

 

「紅茶とは違うんだけど、まぁでも似たようなモノかな。葉じゃなくて豆から抽出する、真っ黒な飲み物でね。味は苦かったり酸っぱかったりするんだけど」

 

「そ、それは美味しいものなのですか……? 黒い飲み物というだけでかなり怪しく聞こえるのに、そのうえ苦い……ですか」


「ハハ、確かに好き嫌いは分かれるかも。でもこれが案外、慣れるとクセになるのよ。何より香りが良くて、飲めば頭もスッキリする。それにお茶と同じで、苦けりゃ砂糖やミルクを入れれば良いからね」


「成程……少し興味が湧いてきましたね。ちょっと探してみようと思います」


 そう言って手帳を取り出し、カリカリとペンを走らせるリサさん。俺が言った特徴を書留め、コーヒー探しに使うつもりなのだろう。なおこれは余談だが、厳密に言うとコーヒー豆は『豆』ではなく『種』だったりする。いやホント、マジでどうでもいい話だが。


「多分だけど、あるとしたら南の方かな。あ、もし見つかったら俺の分もお願いしていい?」


「もちろん構いませんよ。先日はうちの筆頭がご迷惑をおかけしましたし、何より貴重なドラゴンの素材をごっそり融通していただきましたから。とはいえ私も聞いたことがない飲み物なので、あまり期待されても困りますけど」


 にこりと、やや悪戯っぽく笑うリサ嬢。

 実は先日、ドラゴン素材の引き渡しを済ませておいたのだ。

 ドラゴン素材は魔導技師にとって垂涎の品。否、魔導技師でなくともそうだ。貴族だろうと冒険者だろうと誰もが手に入れたい、しかし手に入れることが出来ない幻の魔物素材。それがドラゴンの素材である。爪の一欠から毛の一本、血の一滴に至るまで、無駄な部位などひとつもない。強力な武具はもちろんのこと、魔導具制作に於いては代えの利かない最上級触媒でもある。当然ながら市場には出回らず、そもそもドラゴンを狩ること自体が通常は不可能。仮にどこかで売りに出されたとしても、まず間違いなくオークション形式での取引となる。必然値段は馬鹿みたいに高く、個人での購入などはたとえ貴族であっても難しい。


 そんな超高級かつ超激レアの素材が、幼女の鞄からず(・)る(・)ん(・)とまろび出たわけだ。しかも首から下が丸ごと。最も価値の高い頭部がなかったとしても、その希少さは計り知れない。それが競りにかけられること無く、また外部に知られること無く、比較的安価——十分過ぎるほどに高いが——で手に入ったのだ。如何にクールな眼鏡美女であっても、どうやら自然と頬が緩んでしまうらしい。


「ボクらがせっせとアーティファクトの研究をしている間に、何をイチャついてるんだいキミ達は」


「おなかすいた」


 と、そこでアムとぷぅちゃんがやってくる。

 どうやら作業が一段落したらしい。ぷぅちゃんの口に茶菓子を突っ込みつつ、俺はアムに問いかけた。


「そういえば例の……なんだったか、師匠とやらからの返事はまだな感じ?」


 俺達がこの街に滞在しているのは、他にやることがないからだ。

 ぷネキの記憶を戻すにしろ、兄貴の手帳を解読するにしろ。現状指針となるものは考古学の専門家であるというアムの師匠のみだ。その師匠からの連絡がなければ、俺達は動くに動けないのだ。故にこうして返事を待ちつつ、アムの手伝いを行っている次第である。急ぐ旅でもなし、のんびり出来るときにのんびりするのがスマートな大人というものだろう。なお騎士団には未だ顔を出していない。当たり前だよなぁ?


「ああ、そう言えば…………実はつい二日ほど前に返事が来たんだよ」


「言えや」


「はっはっは! いやすまない、ぷぅくんとアーティファクトを弄るのが楽しくて、すっかり失念していたよ」

 

 嘘つけ電マ起動させてただけじゃん、とは言うまい。

 ともあれ連絡が来たというのなら、気になるのはやはりその内容。考古学の弟子であるアムがやたら『性格に難がある』と強調していたくらいだ、その師匠とやらは間違いなく曲者であろう。とても一筋縄でいくとは思えない。ちなみにアムが送った手紙というのは、陸路で運送されたものではない。飼いならされた鳥型の魔物を利用した、いわゆる伝書鳩的なものがあるのだそうだ。基本的には危険な存在である魔物だが、少ないながらもこうして利用出来る魔物もいるらしい。流石は異世界といったところか。


「で、師匠さんはなんて?」


「ぜひ一度話がしたい、とのことだよ。ただ今は遺跡の調査で忙しいらしくてね……出来れば会いに来て欲しい、とも書いてあったよ。なんというか、非常に師匠らしからぬ文言だね」


「最後の一言が気になるけど……でもまぁ、それならこっちから訪ねるとしますかね」


 元よりこちらは協力を乞う立場だ。

 頼み事をするのに相手を呼びつけるなどという失礼な行為が、日本人の俺に出来るはずもない。

 

「で、何処に行けばいいんかね」


「手紙によれば、師匠は今『グレンタニア』に居るらしい」


「当たり前だけど聞いたことないな……どこそれ?」


「ふむ。マイナーな古代遺跡があることを除けば、取り立てて何も無い田舎の街だね。ここから馬車で二週間といったところかな」


 馬車で二週間となると、ざっくり五、六百キロメートルといったところ。

 これは日本でいうところの、東京から大阪くらいの距離である。それを聞いたぷぅちゃんがポツリと一言。


「くさ」


「一応言っておくけど、キミも行くんだからね?」


 死ぬほど遠くて草も生えなかった。

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