第36話 文明ってそういうもんだから
部屋の隅で『めぷぅす』を吹かしつつ、ぷぅちゃんとアムのやりとりを眺めていた。
「これは数年前に発掘されたアーティファクトなんだけど…………見ての通り損傷が激しく、起動すらままならない状態でね」
そう言ってアムが取り出したのは、長い筒状の物体だった。長さは凡そ一メートルほどで、素材は何かしらの金属だろうか。加えてその側面(?)には絢爛な意匠が施されている。そして根本部分には、何か持ち手のような部位がくっついている。パッと見の印象はまるで何かの楽器か、あるいは銃のようだった。
「ボクも修復を試みたんだけど…………ほらここ、魔導回路が削れてしまっているんだ。ここまで高度な魔導回路となると、ボクの知識と技術では正直お手上げでね」
アーティファクトとはすなわち、失われた古代の技術の結晶。
未だ原理が解明されていないものがほとんどであり、『よく分からんけど使っちまおうぜ』くらいの感覚で利用されているものも多い。なおここスィーリアの噴水広場にも、巨大なアーティファクトが存在している。泉の中央に鎮座している、直径二メートルほどの巨大な球体がそうだ。なんでも水を生み出すアーティファクトらしく、一度起動すれば、魔力の供給がある限りは際限無く水を垂れ流してくれる代物らしい。戦争の引き金になってもおかしくないレベルのヤバさだと思うんですけど、どうなんですかね。
もちろんこうした巨大アーティファクトは非常に希少であり、謂わば国宝級のアイテムとして扱われている。例えばこの国の王都には『結界発生装置』的なアーティファクトがあるらしく、これにより魔物等の侵入を完全にシャットアウト出来るらしい。他にも様々な国宝級アーティファクトが存在しており、それらが直接国家の戦力に繋がっているのだとか。そして、そんな国宝級アーティファクトのメンテナンスを任されているのが、他でもないこのアム・グリムライトというわけだ。今更だけど、マジでスゴい人でした。
そんなアムを以てしてもお手上げだと言うのなら、恐らく世界中の誰にも修復出来ないのではないだろうか。今日の今日まで死蔵されていたという事実がそれを裏付けている。曰く、用途不明のアーティファクトの大半はこうした『不良品』であるとのこと。起動できないし直せない。だから何に使うものなのか分からない、というわけだ。
しかし、だ。
そんな謎多きアーティファクト界に、ブレイクスルーを齎す存在が現れた。
「こことここをつないで、こっちにまわす」
ぷぅちゃんの指先が仄かに蒼く光り、削れた魔導回路とやらをゆっくりとなぞってゆく。
「なに? いや、だがそれだとこっちの回路に干渉しちゃうぜ?」
「もんだいない」
「……ま、待て待て待ち給え! それでは起動した際に焼き切れてしまうぞ!」
「もんだいない」
アムの疑問と制止をフルシカトしつつ、ぷぅちゃんはそのまま指を進める。顔色を変えて狼狽するアム、淡々と手を進めるぷぅちゃん。俺には何の話をしているのかさっぱり分からないが、どうやらアムの知らない謎の技術が次から次へと展開されているらしい。そうしてアムがオロオロすること暫く、全ての工程を終えたぷぅちゃんが、小さく鼻をならした。
「できた」
「出来たって……いや確かに、形の上では繋がったみたいだけどさぁ……」
「いいから、きどう」
「…………ええい! ボクも研究者のはしくれ、爆死する覚悟はいつだって出来てるさ! じゃあ、本当にいくよ!?」
「ごーごー」
だが待って欲しい。
何やら物騒な単語が聞こえた気がするんだが。
「ちょ、待————」
慌てて制止しようとするも、俺の声は間に合わず。
そうしてアムが起動の為、魔力を筒状アーティファクトに流し込んだその瞬間————部屋の中に、やや間抜けな電子音が爆音で鳴り響いた。銃声を模しているというか、あるいはゲームの音というのか、とにかく形容しがたい多種多様な音だ。しかしそれは日本人の俺にとって妙に聞き覚えのある、非常に懐かしい電子音だった。
「…………もしかしてそれ、銃のおもちゃか?」
「そう。きっずまっしぐら」
「…………何作ってんだ古代人、大丈夫か?」
近年ではすっかり見る機会の減った、やたら喧しい玩具。
これが流行ったのは、それこそ昭和から平成にかけての僅かな期間だけ。オッサンの俺には懐かしい玩具だが、今時の子はこんなもん、存在自体を知らないんじゃないだろうか。というか俺がこの世界にやってきてからこちら、『銃』というものの存在は未だに聞いたことがない。いやまぁ異世界歴二ヶ月ちょっとで何を知った口を、と自分で思わなくもないが。
これでも一応は冒険者として活動していた身。もしこの世界に『銃』が存在しているのなら、一度くらいは見聞きしていてもおかしくないだろう。にも関わらず、一度たりとも銃を目にすることは無かった。そもそもこの世界には『魔法』が存在するわけで、だからこそこの世界では『銃』が開発されなかったのだと、俺はなんとなくそう思っていた。遠距離攻撃は基本的に魔法か弓を使う、それがこの世界の常識なのだと。
その証拠に————。
「…………じゅう? おいニャーくん、キミはこれを知っているのかい? 一体何なんだい、その『じゅう』というのは」
アムは『銃』を知らない。
(……やっぱり、今この世界に銃は無い。でも……遥か昔には銃が存在していた……のか?)
一瞬そう考えるも、もう一度考え直す。
これはあくまで銃の玩具なのだ。銃が存在していたことの証明にはならない。例えば俺の兄貴のように、遥か昔に飛ばされた地球人が他にもいたとして。彼らが昔を懐かしんで開発したのだと仮定すれば、まぁ一応の説明はつくだろうか。いやしかし、仮にそうだったとして————ダメだ、頭が混乱してきた。
「おいニャーくん、どうした。大丈夫かい?」
「…………ああいや、大丈夫。なんでもない」
所詮は考えたところで分からない話。
だがもし兄貴の手帳を解読できれば、あるいは。
「多分だけどそれ、異世界にあった玩具なんだ」
「なんだって? つまり遥か昔にも異世界人が居た、と? ふむ…………あり得ない話じゃないね」
「まぁなんだ。手帳が解読できればそのあたりの話も、もしかしたら分かるかもしれんね」
「ふぅむ。だとするとキミの価値はいっそう高くなるね。世界の秘密が一人のオジサンに託されたワケだ」
アムがそう言ってけらけらと笑い、肩を竦めた。
「ま、考えても仕方ない話さ。調査は少しずつやっていこうぜ。正直今はそんなことより、ぷぅくんの知識を借りるほうが先なんだ」
目を輝かせ、ぷぅちゃんの方へぐりんと首を向けるアム。他人事だと思って気楽に言ってくれるものだ。とはいえ彼女の言う通り、焦って行動する必要は何も無い。今はアムくらいざっくりと構えている方が、精神的にも丁度良さそうであった。
「よし、それじゃあ次はこれだ。これは起動自体はするんだけど、使い道がまるきり分からなくてね」
そう言ってアムが次に取り出したのは、三十センチくらいの棒だった。
棒といっても形は歪で、根本には持ち手がついており、先端部分ですこし膨らんでいる。丁度松茸やエリンギを大きくしたような形だ。成程確かに、一見しただけではまるで用途が分からない。そうして先ほどと同じ様にアムが魔力を流せば、棒型アーティファクトが高速で振動し始めたではないか。
「見たまえ、この尋常ではない震え様を。ちなみにボクら研究者の間では『武器破壊用の武器』、つまりはソードブレイカーのような武器だと考えられているんだけど————ぷぅくん、これが何か分かるかい?」
「でんま」
「古代人マジで最悪だわ」




