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異世界ヤニおじさんと物騒な幼女~異世界で幼女(嘘)拾ったので禁煙の旅に出ます(大嘘)~  作者: しけもく


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第34話 もうほぼバケモンじゃん

 大通りから続く小さな路地。

 そこにこじんまりとした、如何にも隠れ家的な店があった。まだ扉も開いていないというのに、香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。現代日本にある飲食店のように、サンプルやメニューが表に出ているわけではない。何系の料理が出てくるのかも分からないが、しかしその匂いだけで美味いと確信出来る、そんな店だった。

 

 日本でもそうだった。居酒屋にしても、喫茶店や洋食屋にしてもそう。こういう『いい感じの店』は、得てして見つけにくい場所にあるものなのだ。


「ここが私のオススメっす。さっそくゴー」


 そう言って俺達を先導するアルマ。

 美味い飯が食べられる店を教えてくれ、と頼んだ結果、彼女に案内されたのがこの店だったのだ。行付けの店らしく、勝って知ったるとばかりに扉を開き入店するアルマ。どうやら彼女も一緒に食べるつもりでいるらしい。見回りはどうしたんですかねぇ。


 扉を潜れば、外観と同じく非常にい(・)い(・)感(・)じ(・)の内装が目を引く。煉瓦の温かみと観葉植物。それほど広くはない店内にはテーブルがみっつだけ。カウンター席もあるにはあるが、全て埋まっても十数人程度しか入れないだろう。まだ昼食時ではないためか、俺達以外に客の姿は見えなかった。

 

「マスター、こんちわっす」


「おっ、アルマちゃん。いらっしゃい」


 カウンターの向こうから、やや厳つ目のオッサンが顔を覗かせる。恐らく百九十センチはあるであろうデカい図体に顎髭、そして目の上には大きな傷。およそ料理人とは思えないその風貌は、むしろ山賊のボスとでも言ったほうがしっくりくるだろう。そんなオッサンがニカッと笑っているのだから——大変失礼な感想だが——怖い以外の感想が出てこなかった。これだけ内装のセンスがよく、アルマが常連になるほど飯も美味いとなると————もしかすると昼食時だとかは関係なく、店主の顔が強すぎて客が居ないのではないだろうか。


「珍しい、今日は一人じゃないのかい?」


「友達が居ないみたいに言うのはやめて欲しいっすね!」


「がはは! そんで、メシはどうするんだい?」


「いつものみっつで!」


 へらへらと笑いつつ、テンポよく注文を済ませてしまうアルマ。ここは彼女のオススメ店であり、何が美味い店なのか俺達はまるで知らない。だが入っただけで美味いことが分かる店は確かに存在するし、そしてこの店は間違いなくそのタイプだ。故に、注文を任せることには何の問題もない。ないのだが、しかし。

 

「あ、スマン。ちょっと待ってくれ」


 一度オーダーを止め、隣のぷぅちゃんに視線を送る。

 するとぷぅちゃんは自身の手をじっと見つめ、少し考える素振りを見せ————右手をぱっと開いてこちらに突き出した。


「……というわけで、このコの分は五人前でお願いします」


 それを聞いたアルマとマスターは、『正気か』とでも言いたげな顔をしていた。

 



       * * *




 アルマの言う『いつもの』とやらは、地球でいうところのオムライスによく似た料理であった。

深めの皿にブイヨンっぽい味付けのライス。その上には分厚い卵焼きが堂々と鎮座しており、ホワイトソースっぽい何かがこれでもかとばかりにかけられている。否、これはもうほとんどクリームソースオムライスである。何かと『っぽい』が多いのは、味が似ていると俺が感じただけだからだ。異世界料理ゆえに詳細は不明だが、とにもかくにも味は抜群であった。ぷぅちゃんも満足したのか、五皿をぺろりと平らげてしまっていた。いやまぁ、満足度に関わらずいつもこんな感じではあるが。


「…………すごいっすね。一人前でも結構な量があるっすよ?」


 正気を疑う顔から一変、信じられないとでも言いたげな顔に変わるアルマ。


「おかげで食費がスゴいんだよ」


「どすこい————けぷっ」


 どすこい、じゃないんよ。

 まぁ現状俺達の稼ぎ頭はぷぅちゃんなので、別に構わないのだけれども。

 そうして腹ごなしを終えた俺達は、食休みを兼ねて少し話をする。

 といっても話をするのは俺とアルマだけで、ぷネキはタヌキを揉んで遊んでいるだけなのだが。


「ところでさっきの話なんだけどさ」


 ゆっくりと煙草を吸いつつ話を切り出す。

 実は先ほどアルマが言っていた『人型魔物』の件が、少し気になっていたのだ。

 

「さっきの話…………ああ、人型魔物の話っすか?」


「そうそれ。具体的にどんな被害が出てんの?」


 俺達は今後、旅の傍らで冒険者兼、行商をして金を稼ぐつもりでいた。

 兄貴の手帳解読やぷぅちゃんの記憶探しなど、恐らくは遠出をする機会が多くなる。それらを考えれば、やはり効率の良い金稼ぎとなると行商も(・)ど(・)き(・)がベストなのだ。しかしながらアムとの関係があるため、定期的にこの街へ出入りすることになる。つまり商隊を襲ったという件の『人型魔物』は、俺達にとっても無関係な話ではないということだ。


 であればこそ、被害状況や相手の情報を知ることで、万が一遭遇した際の対策を立てられるかも知れない。そう思っての問いかけだった。


「えっと、私が聞いた話だと確か————」


 そうしてアルマは事件の概要を語ってくれた。

 それはとある隊商が、隣街で仕入れた荷物をスィーリアまで運んでいた時のこと。

 その日は非常に高価な荷物を運んでいたらしく、護衛には商会お抱えの腕利き冒険者が四名ついていたそうだ。仮に盗賊やら魔物やらが現れたところで、問題なく追い払えるだけの戦力だった。そうしてスィーリアまであと数日といったところで、件の魔物は現れた。


 遭遇した商人達曰く、それは突然空(・)から現れたという。

 隊商の進路を塞ぐ形で現れたそ(・)れ(・)は、フードを目深に被っていたため顔は分からなかったが、一見すればごく普通の女性であったという。身の丈のゆうに二倍は超えるであろう巨大な斧槍を肩に担ぎ、ゆらゆらと怪しい動きで近づいてくることを除けば、だが。おまけに担いだ斧槍には、べっとりと血が付着していたそうな。そうして女は隊商に向かって何事か、言葉のようなものを発したらしい。


「ただその声も、上手く聞き取れなかったそうっす。まるでモヤがかかったみたいに」


 言葉が分からなかったのではなく、何故か言葉が聞(・)き(・)取(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)のだ。会話が成立しないことに苛立ったのか、女はそのままゆっくりと隊商に近づいた。バカみたいな大きさの斧槍を担いだ相手がふらふらと近寄ってきたのだ、誰がどう見たってホラーでしかない。護衛の冒険者達は当然、それぞれが武器を構えて対応する。だが商会自慢の腕利き冒険者達は、ただの一振りで全員が吹き飛ばされてしまう。護衛の居ない商人などそこらの一般人と変わらない。商会の人間はどうにか見逃してもらうため、必死になって荷物を差し出したそうだ。これは魔物に襲われた際に行う対処法だった。


 だが何を放り出しても、黒い影は見向きもしない。

 食料、武具、金品。積んでいたものを片っ端から投げ捨てるも、黒い影は歩みを止めなかった。そうしてありとあらゆる物を捨て、最後に子供用の衣服や装飾品、玩具の類を捨てた時。黒い影はそれらをじっとみつめ、どういうわけか突然動かなくなったという。


「で、その隙に馬車を走らせどうにか逃げてきた————という話みたいっすね。魔物っていうよりオバケのほうが近いすね」


「…………言うほど『ヒトと同じ』か? 聞いた感じただのバケモンなんだけど? しかもジャパニーズホラー系の」


 成程確かに、一般的な魔物とは随分と特徴が異なる。

 だが人間かと言われるとかなり怪しい。ダンジョンなどで現れる幽霊(レイス)というより、むしろ日本の幽霊と言った方がしっくりくる。例えるなら、テレビの画面から出てきたりするタイプのアレだ。


「ジャパ……? まぁよくわかんないっすけど、とにかく証言が曖昧で判断が難しいっす。だからこそ今は『人型の魔物』ってことになってるんすよ。まぁ、気が動転してたって部分もあるかもしれないっすね」


「ああ、なるほど。証言自体が間違ってる可能性もあるのか」


「ただ他の目撃情報も似たような感じなんで、現状は『なんだかなー』って感じっすね」


 内容は怪しすぎるが、証言は似通っている。

 ゆえに騎士団でも判断に困っている状態、というわけだ。

 

「護衛が多少怪我をしたくらいで、特別大きな被害が出てるわけじゃないんすけど……まぁとにかく怖いらしいっす。というわけでニーヤさんたちも当面の間、街から出るときは十分注意して欲しいっす」


「ああ、そうするよ…………とりあえず魔除けの札でも買っておくかな」


 最悪、ヤニ入れてぷネキ担げばなんとかなるっしょ。知らんけど。

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