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異世界ヤニおじさんと物騒な幼女~異世界で幼女(嘘)拾ったので禁煙の旅に出ます(大嘘)~  作者: しけもく


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第33話 普通に考えて

 なんだかんだと言いながら、この街にやってきて早三日。

 これほど美しい都市まで来たというのに、未だ観光らしいことは何もしていない。

 というわけで、今日はいよいよ本格的に街を周ることにした。突発的な依頼も無事終わり、懐は随分と温かい。それもこれもぷネキとたぬきのおかげであることだし、お礼というわけでもないが、ここらで一度機嫌をとっておこうというわけだ。何か大事なことを忘れているような気もするが、きっと大した事ではないだろう。知らんけど。


 そうして街へと繰り出した俺達は、改めてスィーリアの町並みに感動していた。


「なんつーか、行き交う人を見てるだけで楽しいよね」


「そうでもない」


「そ、そっか……なんかいい歳してはしゃいでるのが恥ずかしくなってきた」


 感動していたのは俺だけだったらしい。

 これまで訪れたのは田舎の街や村ばかり。人の数もたかが知れているし、建物だってごく普通の住居が基本だった。

 しかしここスィーリアは違う。大きな商店にレストラン、田舎の村々ではあまり見ることのない他種族達。服装ひとつとっても多種多様で、如何にも魔法使いっぽいローブを身に纏った者もいれば、全身鎧の変態だって普通にそこらを歩いている。流石は王国第四位の大都市と言うべきか、異世界出身の俺からすれば、その光景は何もかもが新鮮だった。


 が、ぷぅちゃんは元々こちらの世界で作られた幼女だ。

 彼女が作られた時代がどのような町並みだったのかは知らないが、少なくとも俺よりは馴染みがある光景なのだろう。とはいえいつも通りといえばいつも通りの態度ではあるので、単純に興味がないだけなのかもしれないが。ぷぅちゃんの表情を読み取ることも、少しずつではあるが出来るようになってきた。だがまだまだ、こうした部分は謎だらけであった。


「さて、それじゃあ何処から見て周ろうかね。ぷぅちゃんは行ってみたいトコある?」


「おなかすいた」


「……いやまぁ、言うと思ったけどね」


 苦笑しつつもぷぅちゃんの手を引き、なにか適当に摘めそうな食事処を探す。

 異世界の食事といえばやはり、屋台で売られている謎の串焼きだろう。当然俺だって一度は食べてみたいと思っていたし、何より歩きながらでも食べられる点が素晴らしい。そう思い辺りを見渡してみるも、しかしよく知るファンタジーのイメージとは異なり、屋台や露店といったものは意外にも見当たらなかった。


「うーん……とはいえ、いきなり店に入るのも味気ないよなぁ」


「わたしはいっこうにかまわない」


「ヤだよ、ぷぅちゃん飯食いだしたらその場から動かなくなるじゃん」


「ぜひもなし」


 何故か信長みたいになった幼女を連れ、一先ず街の中央広場へとやってきた俺達。中心には大きな噴水が設置されており、人々が待ち合わせやら休憩やらを行っている。そこからちらと南側の通りを覗けば、冒険者ギルドの看板が小さく見えた。門兵の兄ちゃんが言っていたとおり、ここを中心としていくつかの区に分かれているらしい。近くに地図でもあればよかったのだが、生憎そんな親切なものは存在しなかった。


「ガイドでもいればよかったんだけどなぁ」


 アテもなくふらふらと散策するだけならば必要ない。

 気の向くままに歩くのが旅の醍醐味であり、その場合はガイドなどいっそ邪魔ですらあるだろう。だが現在のように特定の店を探しており、かつ腹に爆弾を抱えた幼女を連れている場合はそういうわけにもいかない。また山や森の中であればいざしらず、街中ではタヌキも役に立たない。どうやら俺達はいつの間にか、市街地よりも森のほうが得意という謎の一行になってしまっていたらしい。


 そんな怪しい現状を嘆き、つい言葉を零したその時だった。

 俺達の背後から、どこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。


「あれ? そこに居るのは良いケツのオジサンじゃないっすか?」


「いやそれオッサンに付けていい単語じゃないだろ————って、キミは確か……」


 栗色のツーサイドアップに、明朗で活発そうな印象を受ける瞳。

 やや小柄な身体に不釣り合いな騎士軽鎧と、腰に佩いた長剣。そして全身から溢れ出る後(・)輩(・)感(・)。

 

「王国第二騎士団所属のアルマっす」


 見覚えのあるその姿は、つい先日レーテ村までアッシュを迎えに来ていた副官、アルマのものであった。


「そうそう、アルマさんだ。レーテ村以来だね」


「そうっすね。あの時はほとんど会話も出来なかったっすけど」


 アルマの言う通り、当時はアムがやいのやいのと喧しく騒いでいた為、彼女とはほとんど言葉を交わしていない。にも関わらず、後ろ姿を見ただけで俺達に気づいたのだろうか。だとすれば見た目に反して————と言うと少々失礼かもしれないが、とにかく記憶力と洞察力に優れた少女であるらしい。


「一度しか会っていないのに、よく気づいたなぁ」


「ニーヤさんのことは、団長がずっと褒めてたっすから。団長はアレで結構、人の評価に関してはシビアな人なんで。かなり珍しい事なんすよ?」


「よ、よせやい。照れるぜ」


 確かにアッシュはやたらと俺のことを褒めてくれていたが、所詮は本人を前にしてのリップサービスだと思っていた。しかし別れた後も俺の話をしていたとなると、どうやらアレはアッシュの本心であったらしい。もちろん俺自身にはまるで自覚などないし、あちらの世界では『能力はあるが絶望的に運がない』だとか『期待ハズレ』などという評価がほとんどだった俺だ。過分な評価だとは思いつつも、やはり嬉しさは隠せなかった。


「まぁほぼ尻の話だったんすけど」

 

「マジでよせや」


 あいつ最悪だったわ。

 もう絶対に顔を出さないと、俺はそう決めた。

 

「ところで、ニーヤさん達は観光っすか?」


「まぁそんなところ。アルマさんは?」


「私は見回りっす。実は昨日からスィーリア近辺の警備を強化してるんすよ。あと、アルマでいいっすよ」


 そう言ってへらりと笑うアルマ。

 彼女はあ(・)の(・)アッシュの副官を務めている少女だ。先の話も鑑みれば、当然生半な実力ではないのだろう。流石の聖騎士様というべきか、確かに小柄ではあるが、その立ち姿や振る舞いは凛としていて美しい。事実、彼女を見る周囲の目には、侮るような視線は微塵も感じられなかった。そうでありながらも、会ったばかりの俺に名前呼びを許す寛容さ————あるいは人懐っこさも持っている。例えるならやはり『良い後輩』という言葉がしっくりくるだろうか。総じてなんとも親しみやすい、非常に好感の持てる少女であった。

 

 そんな彼女の言葉に、ふと気になる点があった。


「警備強化中とは穏やかじゃないな。何かあったとか?」


 そもそも警備とは衛兵の仕事であり、騎士の仕事ではない。街に駐留している騎士の仕事といえば、近辺の魔物討伐が主となる。城壁に囲まれた街中を聖騎士が警備するなど、そうあることではないのだ。ましてスィーリアは強固な城壁と大門に囲まれており、門塀も配置されている。にも関わらず彼女がこうして警邏に出ているということは、何かそれなりの理由があるはずなのだ。


「実はここ最近、この街周辺で人型魔物? の目撃例が立て続けに挙がってきてるんすよ」


「人型魔物……? っていうと、ゴブリンとかああいうタイプのやつ?」


「それがどうも違うみたいなんすよねぇ…………」


 俺の問いかけに対し、微妙に口籠るアルマ。

 機密情報だから話せないというわけではなく、どちらかといえば『どう説明したものか』といった様子に見える。そうして数秒ほど何かを考え、アルマが続きを説明してくれた。

 

「被害者の証言によれば『見た目は完全に人と同じ』って話なんすよ。おまけに言葉も話すんだとか。だもんで一応街中も警戒しておくかー、みたいな感じっすね。ぶっちゃけよく分からないんで、あんま気にしなくていいっすよ。ホントにただの一(・)応(・)っす、一(・)応(・)」


 はて、見た目が完全に人と同じで、かつ言葉を話す魔物とな。

 

「それはヒトなのでは」

 

 さすがぷぅちゃん。

 俺が言いたくても言えなかったことをすっぱり言ってくれたぜ。

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