第21話 イケメンは変態が多い
古代遺物とは読んで字のごとく過去の遺物である。
現代では再現出来ない高度な技術が用いられているものが多く、また用途や原理すら分からないものも多々存在している。
魔力が尽きない限り、無限に水を生み出す球体。
魔力を流すと発光し、怪しい文字が浮かび上がる板。
真っ赤に輝く謎の棒に、冷気や熱気を垂れ流す箱。
すぐに使い道を思いつくものから、何の役に立つのか分からないものまで、その種類は多岐にわたる。
しかしそれら古代遺物の齎す恩恵は大きく、街の発展や技術の進歩に大きく寄与してきた。こうした『正確なメカニズムが解明されていない技術』というものは地球にも存在していた。例を挙げるならばリトマス紙などが有名だろうか。つまるところ古代遺物とは『理屈はよく分からないが非常に有用なモノ』の総称といえるだろう。そんな古代遺物で溢れるこの世界だが、しかし古代遺物の性能を十全に引き出せているとは言い難い。なにしろ正しい用法が分からないものが大半なのだ。古代遺物は存在自体が貴重であり換えが効かない。加えて中には危険なモノも存在し、使い方を誤り事故につながるというケースも少なくないのだ。
そういった理由から、再現出来ない部分を想像と魔法技術で補い、古代遺物の廉価版とでもいうべき『魔導具』が生み出された。本家本元の古代遺物と比べれば出力が下がるものの、アイデアと便利さを受け継いだ上で、現代を生きる者達にとってより使いやすくしたもの。それが魔導具である。魔導具は爆発的に普及し、人々の暮らしを大いに支えることとなった。そしてそんな魔導具を生み出す職人こそが、アム達のような『魔導技師』というわけだ。
「ただまぁ、正直頭打ちでね」
古代遺物と魔導具についての説明を終えたアムが、自嘲するように肩を竦める。
「いやね、別に過去の遺物に頼り切りというわけではないんだよ。古代遺物と元としないオリジナルの魔導具だって今は沢山あるし、ボクも飽きるほど作ったよ。ただその、なんというか…………停滞気味でね。『これは新技術だ!』なんて騒いでも、実際にはただの『改良』だったりでさ。ぶっちゃけつまんないんだよね」
もちろん改良は素晴らしいことだ。確実な技術の進歩だ。だがそれでは目新しさがないし、何より楽しくない。
一を二にする方法ではなく、ゼロから一を生み出す発想。何かブレイクスルーの切っ掛けが欲しい。アムが求めているのはそのための刺激というわけだ。
「だからぷぅちゃんの知識が欲しい、と」
「そういうことだね。正直信じ難い話ではあるけど……ぷぅくんの話が確かなら、彼女は遥か太古に作られた存在————つまり古代遺物ってコトだろ? 人型で食事も可能、なんなら思考までしている上に、意思疎通すら出来るときた。これじゃあほとんど生きた人間と変わりない。というより、こうして目の前に居ても『ごく普通の幼女』にしか見えないからね。専門家であるはずのボクの目でも、だ」
アムが目をキラキラと、まるで少女のように輝かせる。
いやまぁ、少なくとも見た目は普通の少女に違いないのだが。
「つまりは古代遺物本人に古代遺物の話が聞けるってことさ! もうほとんど古代人と話が出来るようなものだよこれは! もしかすると他の————それこそ彼女が作られた時代の、様々な技術や知識も持っているかもしれない! こんな奇跡があるかい!?」
「お、おう」
興奮するアムに対し、すこしだけ距離を取る。テンション上がったオタクって怖いよね。
ともあれ、話を纏めるとこういうことだ。もしぷぅちゃんに何か不調があった際、最上位の専門家であるアムの協力が得られる。その代わり、彼女の古代遺物研究に協力する。知識と技術のトレードと言ったところか。俺達の事情を秘密にしてくれた上でこの条件、個人的には悪くない————というより破格にも聞こえる。
「ってコトなんだけど、ぷぅちゃんはどう思う?」
「よくわからないので、にゃーにまかせたいとおもう。ぷぅでした」
「オッケー任された。ちなみになんだけど、ぷぅちゃんって古代遺物に関する知識持ってるの?」
「あーてぃふぁくと、とやらが何なのかしらない。ので、わからない」
成程確かに、それは最もな話だった。
遥か昔に作られたぷぅちゃんにとって、古代遺物は古代のモノではない。今の時代に古代遺物と呼ばれているものが、彼女にとってはごくごく普通のモノかもしれない。故に分からないというわけだ。こういう時迂闊に『いいよ』と言わないあたり、なんとも賢い幼女型ロボである。
ともあれ、俺達に協力者は必要不可欠。
それがアムのような権力者であるなら尚更だ。聞けば彼女は筆頭魔導技師というだけあって、相当に名の通った魔導技師らしい。国が保有するいくつかの希少古代遺物の管理を任されているらしく、魔導具が幅を利かせるこの国に於いては、時と場合によっては国王にすら『ノー』を返せるほどだというではないか。その道で有名ないち技術者、なんてレベルではない。
アッシュに関しても同様だ。
第二騎士団長とやらがどの程度の権力を持っているのかは知らないが、なんだかとにかく頼りになりそうじゃあないか。
つまりこの話、どう低く見積もっても俺達の得られるメリットが勝っているのだ。バックなんぞデカけりゃデカい方がいい。
こうして話を受けることに決めた俺は、アムの方へ手を差し出した。
その手を不思議そうに見つめた後、ゆっくりと、しかし力強く握り返すアム。
「交渉成立ってコトでいいのかい?」
「ああ、よろしく頼むよ。ま、古代遺物の現物をぷぅちゃんが見てからにはなるだろうけど」
「なに、アテが外れても協力はさせてもらうさ」
「え、いいのか?」
「こう見えてボクは勘がいい方なんだ。その勘がガンガンに告げてるよ。キミ達と関わっていれば絶対に面白いことがある、ってね」
えらく眩しい笑顔を見せているが、果たしてこれは褒められているのだろうか。こちらの世界ではどうだか知らないが、少なくとも地球では『面白いことになる』と言って本当に面白くなることなど稀で、大抵の場合は面倒なことにしかならない。確かに、さきほど俺は心を入れ替えた。これまでのようになぁなぁではなく、ある程度は積極的に生きていこうと思った。が、それとこれとは話が別だ。好き好んで面倒事に首を突っ込みたくなどない。ついでに地球方式でアムの言葉を解釈するなら、それは俺達自身が面倒事であることを意味する。まるで笑えない。
「そうそう。何か勘違いしているようだから一応言っておくけれど、興味があるのはぷぅくんだけじゃないんだぜ。ニャーくんの『加護』も非常に興味深く思ってるよ」
「えっ」
「まぁでも、キミにより興味があるのはむしろアッシュの方だろうね」
「えっ」
はっとして振り向けば、すぐ後ろにはにこやかに微笑むアッシュが居た。
まるで崩れない柔和な微笑みと、がっちりと俺の肩を掴んで離さない手。もし彼がイケメンでなければ耐えられなかったであろう近さだ。
「ニャーさん。先程の戦い————もとい運送業は素晴らしかったです。実はずっと気になっていたんですけど、アナタは『加護』を考慮せずとも運動能力が高いですね。特に眼が良さそうだ。ところで剣に興味はありませんか?」
「えっ、なになに? ちょっと怖いんだけど…………っつーかオイ、どこ触ってんだ! 尻撫でんな!」
いや、誰が得するんだよこの絡み。
ともあれこうして、俺とぷぅちゃんの初めての冒険は幕を閉じたのであった。




