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異世界ヤニおじさんと物騒な幼女~異世界で幼女(嘘)拾ったので禁煙の旅に出ます(大嘘)~  作者: しけもく


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第20話 有刺鉄線女アム

 結局、俺は全てを話すことにした。

 二人が信用出来そうだから、という理由だけではない。もっと()()()()()()があるからだ。なおドラゴンの首から下は、ぷぅちゃんの鞄(という名の亜空間)に収納済みである。


「ふむ…………成程ね。ニャーは異世界人で、ぷぅくんは君の兄が作った太古の人型兵器————つまりは古代遺物(アーティファクト)と。そして兄の手帳とやらを解読するために旅をしている、と。ハァハァ」


「正確にはこれから旅が始まる予定だ」


 腕を組み、神妙な顔で頷くアム。意外そうに目をぱちくりとさせるアッシュ。

 なかなか突拍子のない話だと思っていたのだが、しかし疑いの言葉が二人の口から出ることはなかった。存外あっさりと受け入れている様子である。


「え、信じてくれるのか? 自分で言うのもなんだが、結構わけわからん話してるぞ?」


()()()()()()見せられたんだ、信じざるを得ないよ。幼竜とはいえドラゴンを一瞬で倒したんだからね。あんなバカげた威力の魔法、今の時代には存在しないよ。ハァハァ」


 魔法知識が豊富であろうアムの言葉に加え、アッシュもまた隣でうんうんと同意している。ヤバそうな魔法使ったなぁ、と思ってはいたが、やはり先の『えればす』とやらはとんでもない代物だったらしい。少なくとも、小賢しい言い訳など必要としない程の説得力が件の魔法にはあったということだ。手間が省けて大助かりである。先程のドラゴンが幼竜であるという点は若干気になったが。


「それに異世界人というのも、稀だけど記録がないわけじゃない」


「あ、そうなの?」


「ああ。といっても本当に稀だけどね。百年に一人とか、そんなレベルさ」


 そう言って肩を竦めるアム。

 だが百年に一人という割合は——地球人の感覚で言えば——稀と言うには結構多いような気がする。最低でも一人の異世界人が、常時この世界に存在しているようなものだ。兄貴然り、俺然り、一体何が原因で転移しているのだろうか。転移者は皆、あの()()()()を聞いているのだろうか。そのあたりの謎が解明出来れば、或いは何かの手がかりになるのだろうか。


「確か隣のエストリア共和国にも一人、異世界人が居たんじゃなかったかな」


「マジか」


 ここで思わぬ新情報。

 一世代に一人しか存在しないであろう異世界人が、現在は俺を含めて二人も居るらしい。そうとなれば、どうにかして会ってみたいものである。もちろん今すぐにというわけにはいかないが、しかし旅の目的には追加しておくことにする。


「そんなことよりも、だ」


「ん?」


「そろそろ我慢の限界でね。先程から興奮しっぱなしなんだよ。ハァハァ」


 などと宣いつつ、鼻息荒く立ち上がるアム。

 何やら先ほどから息が荒いなとは思っていたが、興奮していたのかこの女。

 そんな彼女の視線の先には、たぬきのほっぺを引っ張って遊ぶぷぅちゃんの姿があった。

 

「ひ、ひひひひ人型の古代遺物(アーティファクト)だって…………? おまけに自我があって意思疎通が可能? いやね、本当はずっとぷぅくんの服装は気になっていたんだよ。短期とはいえ旅の最中だというのに、汚れず傷まず清潔なままでシワも無い。生地も見たことがないし、華美なデザインだってそうだ。見るからに複雑な作りだし、何よりうっすらと魔力を感じる。もしかして、とは思ったけど…………もしかして衣服も全て古代遺物(アーティファクト)じゃないのかい? ぜ、ぜぜぜ全身古代遺物(アーティファクト)ってコト!?」


「はぁ……また始まった」


 早口でまくし立てつつ、瞳を爛々と輝かせたアムがぷぅちゃんへとにじり寄る。更には手をわきわきとさせながら、鼻息も荒く。傍から見たそれは、紛うことなき変態のそれであった。恐らくはいつものことなのだろう。アッシュが頭を抱え、呆れるようにため息を吐き出していた。

 

「ぷぅくん、良かったらなんだが…………ちょーっと調べさせてくれないか」


「…………ことわる」


「いやほんと、ホントにちょっとだけだから。さきっちょだけ!」


「や」


 トコトコと俺の背後にまわるぷぅちゃん。

 その無表情から感情を読み取るのは難しいが、恐らく怯えているというわけではない。シンプルに気持ち悪いといったところか。うんうん、わかるよ。


「優しくするからさぁぁーッ!」


 いよいよ跳躍し、どこぞの解答のように躍りかかるアム。ぷぅちゃんとの直線上にはもちろん俺。


「よっ」


「ぶへっ」


 俺がひょいと身を躱せば当然、アムが顔から地面へダイブ。


「何故避けるんだい!?」


「いや避けるだろ…………ていうか俺に飛びついてどうすんだ」


「ボクみたいな美少女が飛びついてきたら、普通は喜んでキャッチするものだろう!?」


 憤慨し、ぷりぷりと文句を垂れるアム。

 確かに彼女は見てくれが良く、控えめに言っても美少女の部類に入るだろう。だが————。


「どうやらオッサンという生き物をよく分かっていないようだな…………いいか? 例えば電車に乗った時、女性の隣とおじさんの隣の席がそれぞれ空いていたとしよう。こういう時、俺みたいなオッサンは迷わずオッサンの隣に座る。何故か? 女性の隣なんぞおじさんにとってはリスクでしかないからだ」


「で、電……? 何の話だい?」


「俺の世界には『綺麗な薔薇には棘がある』なんて言葉もあるがな。成程確かにアム、お前はお世辞抜きに容姿がいい。だが俺からすれば美少女なんてのは、薔薇どころか有刺鉄線にしか見えないんだ。すまないが、お前をキャッチすることは出来ない」


「よ、よく分からないけど結構酷いことを言われている気がするね?」


「オッサンはオッサンと引かれ合うのさ、悲しいことに」


 俺は煙草に火を付け、そのまますぐ隣にあった切り株へと腰掛ける。

 リスクは徹底して回避すべし。これは現代社会に於けるおじさん必須の処世術だ。素人には分かるまい。ただ隣に座っただけでSNSに晒されるおじさんの悲しさが。まだ俺にそういった経験はないが、しかしその手の話は枚挙に暇がない。事実かどうかに関係なく、可能性がある以上は避けるべきなのだ。まぁなんというか、非常に情けない話ではあるのだが。


 ともあれ、だ。

 こんな下らない話は今、どうでもいいわけで。

 

「ところでアム、ひとつ頼みがあるんだが」


「…………むっ? 心配せずとも、キミたちのことは誰にも言わないぜ」


「ああいや、それも大事なことなんだが、それとは別で」


 ここからが本題。

 俺がアム達に全ての事情を打ち明けた、その理由。

 ふざけた言動も多々あるが、しかしアムはこれで『王国筆頭魔導技師』だ。つまり豊富な知識と技術、そして何より高い地位を持っているということ。隣のアッシュも同様に、やはり高い実力と地位を持っている。おまけに二人とも性格は良く、()()がしっかりとしているように見える。端的に言えば信頼出来る相手だということだ。

 

 異世界に来て数ヶ月、何者でもない今の俺達に足りないもの。

 それは協力者だ。異世界転移の原因を探るにしても、兄貴の手帳を復元するにしても、例の声について調べるにしても。何をするにも、俺一人の力ではどうにもならないものばかりだ。他国の転移者に会うくらいなら、どうにか頑張れば出来るかもしれない。だが手帳の復元や原因の調査に関しては、専門家の知識が絶対に必要となる。


 そして何よりも。

 もしぷぅちゃんの身体に予期せぬトラブルが発生した場合、俺にはどうすることも出来ない。魔法も使えなければ知識もない。魔導具や古代遺物に関する技術もない。仮にぷぅちゃんが体調不良にでも陥れば、俺には診断することすらままならない。果たしてそんな事態に見舞われるかどうかも現時点では分からないが、しかし保険は絶対に必要だと考えていた。だからこそ、俺達にはアムの協力が必要不可欠なのだ。


 といった旨を説明してみれば、アムとアッシュはやはり真剣な面持ちで話を聞いてくれた。


「というわけで、ひとつ協力を頼みたい」


「ふむ…………いいだろう。ぷぅくんに何かあった時、ボクが彼女を診よう。まぁボクの知識でどこまでやれるかは分からないけどね。信頼のおける識者を紹介することも出来る。けど、ひとつ条件がある」


「…………聞こう」


 恐らくそれほど無茶な要求ではないだろう。そういう相手ではない。

 そう思いつつも、やはり心中では僅かに緊張してしまう。まるで前世で飽きるほど経験してきた営業のようだった。そんな俺の内心を汲んだのか、アムは地べたに胡座をかいたままニヤリと笑い、人差し指をぴっと立てた。


「ぷぅくんの知識を————古代遺物(アーティファクト)に関する知識を貸して欲しい」

 

というわけで、初期の書き溜め分はここまでとなります。

今後の更新は週三、火・木・土の12時です。よろしくお願いします!

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