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エルフの言葉と、晴れゆく心

数日後、マークは学校の帰り、広場で友人3人と談笑していた。

メンバーはドワーフとヒューマン、そして犬獣人だ。

成人の儀を控える同年代にとって、それは避けて通れない話題だった。

すでに儀式を終えたドワーフの友人は、大人ぶってひげを伸ばし始めている。

「父ちゃんの工房で本格的な修行に入るから、もう遊べねぇよ」

幼馴染のヒューマンの少女は、羨ましそうに溜息をついた。

「私は11月に誕生日だからまだ先だけど

女子校の家政科で家事全般を学ぶことになったの。

男の子は自由があっていいわよね」

すると、犬獣人の友人が反論した。

「そんなことねぇよ。女子は玉の輿も狙えるだろ?

俺たち男子は自分で稼げなきゃ、人生詰んじまうんだぞ」

マークは黙って頷く。ドワーフの友人が問いかけた。

「マーク、お前はどうすんだよ? 来月が成人の儀だろ」

困惑するマークの口から、迷いながらも一つの言葉が漏れた。

「……冒険者、かな。挑戦してみようかと思ってるんだ」


友人たちの反応は三者三様だった。

ドワーフは肯定的で、マークの肩をポンと叩いた。

「すげぇな、本気か!

それなら、冒険者として一人前になったら

うちの工房のお得意さんになってくれよな!」

「あ、ああ……」

対照的に、犬獣人は冷ややかだった。

「マーク、お前死ぬ気か?

俺の親戚ですんげぇ強い叔父さんがいたけど

一昨年前に迷宮内で魔物にやられて死んだぞ。

冒険者なんて若い時だけの博打だ。

もっと堅実な仕事を選べって」

幼馴染の少女は首をかしげる。

「冒険者って何をするの? 冒険したらお給金が出るの?」

ドワーフが笑って解説する。

「月給なんてねぇよ。基本は成果報酬だ。

しかも装備の維持や経費はすべて自腹。

稼いでも経費で消えて儲からないって

常連の冒険者が愚痴ってたぜ」

「自営業みたいなものなのね」

少女の言葉に、犬獣人が腕組みをして補足した。

「それだけじゃねぇ。冒険者組合の手数料、

国の税金……中抜きがひでぇんだ。

叔父さんは強かったから稼いでたけど

普通の奴が首を突っ込んでいい世界じゃねぇよ」

友人たちの現実的な言葉を聞くたび、

マークの心は重く沈んでいった。


その時、マークの視界に

いつものベンチへ向かうエルフの女性の姿が映った。

「あ、あの人だ!」

マークが駆け出すと、友人たちも後に続いた。

エルフは大人びた雰囲気だが、所作の端々にどこか幼さが残る。

マークが呼びかけると、彼女は表情を変えずに微笑んだ。

彼女は手慣れた様子で鞄を漁り、焼き菓子の入った紙袋を取り出す。

友人たちが歓声を上げる中、

マークは焼き菓子を口にしながら思い切って聞いた。

「あの、姉ちゃん。僕も冒険者を目指そうと思ってるんだけど

……仕事って、やっぱり難しいのかな?」

「マーク、質問がふわっとしてるぞ。簡単なら誰でもやってるっての」

犬獣人の冷ややかな突っ込みを心の中で反芻しながら

マークはエルフの返答を待った。

彼女はサンドイッチを包んでいた紙を広げ、

真っ直ぐにマークを見つめた。

「そうね……役に立つ能力があって、誰とでも仲良くなれて、

緻密な計画を立てたり

危険を察知する勘や、危機を打開する知恵と勇気も必要。

十分な資金力に、敵味方を冷静に分析する観察眼……あと、ええと。

何を言いたかったんだっけ?」

ドワーフが噴き出した。

「わはは! 姉さん、考えすぎだ。

こいつの質問は『簡単か難しいか』の二択だよ」

エルフは耳まで真っ赤に染めて口ごもる。

「……すごい人には簡単。そうじゃない人には、難しい」

マークはがっくりと肩を落とした。

「そっか。僕はすごくないから……難しいんだな」

そんなマークの背中を、幼馴染の少女がそっとさすった。

「マーク、元気出しなよ。どんな仕事だって最初は難しいものよ。

どうしてもやりたいなら、

職業体験みたいに少しだけ挑戦してみたら?」

その言葉に、エルフが目を輝かせた。

「それなら、

うちのパーティーの荷物持ちに参加してみるのはどうかしら?」

それは、強者の余裕を感じさせる提案だった。

「すごくない人には難しい」と

断言した彼女が、素人を冒険に誘う。

つまり、彼女は自分の力で

マークを守り抜くという自信があるのだ。

(この人は、命がけで僕にきっかけをくれようとしているんだ)

マークの心にこびりついていたノイズが、一瞬で消え去った。

「姉ちゃん! 僕を参加させてくれ!」

その気迫に驚いたのか、エルフは目を大きく見開いた。

「……ふふ、じゃあ決まりね。見習い新人冒険者さん」

彼女は小さく笑い、サンドイッチを口に運んだ。


マークの冒険は、荷物持ちという役割から始まる。

しかし、冒険に安全な仕事などないに等しい。

毒、感染症、不慮の事故……。

マークはまだ、冒険とは

魔物と戦うことだけではないという現実を

肌で理解してはいなかった。

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