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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
第二章 謎編②

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第14話 二人目

 僕たちは、置き時計の針が(9)を示したところで解散した。自室に戻った僕は、ベッドに横たわり、「ふう……」と長く息を吐く。


 まさかだった。

 まさか、ジョンが自分のイタズラを認めるだなんて。


 ジョンは年のせいか、どこか頑固なところがある。だから、自分がしていないことは意地でも認めない。


 半ばこじつけのような僕の推理。

 けれど、ジョンが頭を下げたことで、その推理は一気に現実味を帯びた。


 僕の願望は、真実だったのかもしれない。

 この十字架屋敷の中に、人を殺すような人間はいなかった。悲しいことだが、ユキの死はただの事故に過ぎなかったのだ。


 そこに、ジョンのイタズラが重なった。

 そのせいで僕たちは連続殺人が起きるのではないかと錯覚し、互いに疑心暗鬼になっていた。


「なんだ、それ」


 まるで馬鹿みたいな話じゃないか。

 こんな偶然に翻弄され、僕たちは互いを疑っていたのか。それどころか僕は、この屋敷に招待してくれたレインとザグレイさんにまで、少なからず猜疑の眼差しを向けてしまった。


「最低だな、僕は」


 一度自己嫌悪に陥ると、そこからは泥沼だった。

 蟻地獄に飲み込まれていくような感覚が、いつまでも胸の奥に残り続けた。


 けれど、なんだろう。

 なにか違和感が残っている。

 なにかを見落としてはいないだろうか?


 些細なことでいい。

 この胸のつっかえを取り除いてくれる何か。

 この不信感を消してくれる何か。


 僕は、一体何に違和感を覚えているんだ?

 見落としているものがあるとするなら、それはなんだ?


 本当にこれで解決したのか。

 本当にこれで終わりなのか。

 時計の針は、気づけば(10)に差しかかろうとしていた。


「もう、こんな時間か」


 そろそろ眠るとしよう。

 もう何も考えなくていい。

 これで全部、終わったのだから。


 まるで、そんな僕を嘲笑うかのようなタイミングだった。


 ドォォオンッ!!


 大きな音が響いた。

 同時に、僕の部屋が微かに揺れる。


「……ッ!!」


 僕は勢いよく上体を起こした。


「なんだ、今の音」


 まさか。

 いや、しかし。

 扉を開け、ゆっくりと廊下へ出る。


 同じタイミングで、二つ隣の三号室からアランが顔を出した。

 僕たちは互いに顔を見合わせ、無言で頷き合う。


「いいか、俺が先に出る。お前は何かあった時に備えておけ」

「了解です」


 僕たちは二人で廊下を進んだ。

 一歩ずつ、細心の注意と警戒心を払いながら。

 そして大広間に到達した時――。


「ああっ!」


 僕たちは、それを目撃した。

 消したはずの大広間の灯りが、なぜ煌々と点いているのか。


 その謎は、今は横に置くしかなかった。

 まずは、目の前の現実に向き合わなければならない。


「……ダメだ」


 アランが首を振る。

 だが、そんな言葉を投げかけられるまでもなく。

 「ダメだ」などということは、一目瞭然だった。


 腕も、足も、本来なら曲がり得ない方向へ曲がっている。

 圧し折れている。

 顔の半分は潰れ、体の一部は無惨に裂けていた。

 かなり強い衝撃を受けなければ、こうはならない。


 例えば――。

 僕は上を仰ぎ見た。

 そこにあるのは、ただ絵画を飾るためだけの廻廊。


「あの高さから落ちたなら、こうなってもおかしくはないですね」

「ああ。間違いないだろうな」


 アランはそう言うと、上着を脱いだ。

 そして、もはや人の形を失いかけているそれ――ジョンの死体に、そっと上着を被せた。


 ちょうどその時だった。

 音を聞きつけたのだろう。彼女たちが大広間へとやってきた。


「何事です!?」


 すっかり怯えた様子のアリスを抱えながら、アディは険しい表情を浮かべている。そして僕の左手側、十字架の軸木に当たる北棟――七号室と八号室の方から、レインとザグレイさんが焦燥を滲ませて駆けつけてきた。


「今度は、何が……」

「……血溜まり、ですか。今この場にいないのは」


 聡明なザグレイさんは、すぐに答えを導き出した。


「なるほど。ジョン様にございますか」

「見ない方がいい」


 僕はアディとアリス、特にアリスへ向けて言った。

 死体の有り様はユキの比ではなかった。

 破壊の限りを尽くされ、もはや物体としか形容できない姿になっている。


「そん、な。どうして?」


 アリスが頭を抱えてしゃがみ込む。


「全部、ジョンのイタズラだったんでしょ!? 自分で言ってたじゃない。あの藁人形はイタズラだった、って……」


 その言葉の途中で、僕は「あっ」と目を見開いた。

 そして、大急ぎで例の場所へ向かう。


「……嘘だろう?」


 レインが取り外し、処分したはずの藁人形。

 長机の上にあったものも含め、すべて片付けたはずの藁人形。

 それが再び、この場所に磔にされていた。

 蝋燭時計を置くための、あの壁面の出っ張り部分に。


「どういうことですか、これは?」


 僕を追ってきたレインが、困惑の表情で問う。

 だが、それに対する答えなど僕は持ち合わせていなかった。


「とにかく、今は現状保存を。そして全員、今夜はこの大広間で休みましょう。誰一人として、怪しい行動を取れないように」


 ザグレイさんの指示に従い、僕はアランたちの――死体の方へと小走りで戻った。


 そして事情を説明する。

 アリスは恐怖で震えていた。

 死体のある場所でなんて眠れないと、泣きじゃくった。

 しかしアディが、彼女を優しく宥めてくれた。


「私がいるから大丈夫」


 そう言って抱きしめると、アリスは少しずつ落ち着きを取り戻し、やがて静かに頷いた。


「……うん」


 弱弱しい小さな声が、大広間の冷たい空気に溶ける。


 終わってなどいなかった。

 ユキの死も。

 藁人形の意味も。

 この十字架屋敷に巣食う悪意も。


 何ひとつ、終わってなどいなかったのだ。

これにて第二章完結です!

面白い、続きが気になる、期待できそうと思って頂けた方には是非、ページ↓部分の☆☆☆☆☆で評価してほしいです。☆の数は1つでも嬉しいです!そしてブックマークなどもして頂けるとモチベーションの向上にも繋がりますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!!

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