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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
第二章 謎編②

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第13話 手紙の主

 夕食は、これまた豪勢なフルコースだった。

 まずは前菜。特定のダンジョンでしか採れない、魔力を豊富に含んだ【ヤヤッサの葉】を主役に、色鮮やかな高級野菜が添えられている。【ヤヤッサの葉】には独特の酸味があるが、これがまた妙に癖になる味だった。


「塩を少し足しても美味ですわね」


 アディは調味料を片手に、満足げな表情を浮かべていた。


「刺激的な味わいじゃのう」

「ああ。食欲が湧いてきやがる」

「あー、幸せ……」


 恍惚とした表情を浮かべる僕らを見て、レインは「ふふ」と頬を緩ませた。


「そこまで喜んでいただけると、こちらまで嬉しくなりますね。ザグレイは勉強熱心ですから。こういう形で恩人に報いることができて、光栄です」


 そこでふと、僕は思い出したように手を止めた。


「そういえば、レインさんの妹……アレクサンドラさんは、どういう方なんですか?」


 僕の問いに、二人――レインとザグレイさんの手が止まった。


「なかなか難しい質問をしますね」


 実は疎遠だったのです、とザグレイさんは言った。


「文通程度のやり取りはあったのですが」

「僕が意地を張ってしまったんだ。それで大きな喧嘩をしてね。それからは、まともに顔を合わせないまま時間だけが過ぎていきました。時折、手紙のやり取りはしていましたが……やはり仲直りとまではいきませんでしたね」

「どんな喧嘩だったんだ?」とアラン。

「それは勘弁してください。あまり人に言えるような内容ではないのです」

「難儀じゃのう」


 ヤヤッサの葉をむしゃむしゃと頬張りながら、ジョンが言う。ヤヤッサの葉は柔らかいので、ジョンのように歯が抜け落ちていても楽に食べられるらしい。


「あまり私的な事情に踏み込むのは、感心しませんわね」


 アディは、リーダーであるアランにも容赦しない。

 誰に対しても態度を変えない人なのだと、好意的に解釈することもできる。


「はは、悪かったよ」


 気まずそうに言って、アランは視線を食事へ落とした。


「ですが、最終的には仲直りを。そうですよね、レイン坊ちゃま」

「まあね。きっかけは一通の手紙だった。それこそが、ドラゴンによる王都襲来の件だったのです」


 レインは、どこか懐かしむように目を細めた。


「アレクサンドラは、降り注ぐ瓦礫に押し潰されそうになったと書いていました。けれど、そこに颯爽と現れたのが、太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)の皆様だったのです。僕は感動しました」


 レインは続ける。


「そして後日、太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)の王都凱旋を、アレクサンドラと共にこの目に焼き付けたのです」


 結果、その場で仲直りができた。

 そういう意味でも、レインにとって僕たちは恩人なのだという。


「良かったじゃない」アディが言った。「冒険者冥利に尽きますわ」

「それね!」とアリス。「こうやって喜んでもらえるとさ、冒険者やっててよかったーって思うよね」

「なんも特別なことじゃねえけどな。強きが弱きを助ける。当然のことだ」

「ヒヒッ、そうじゃのう。それが力ある者の務めじゃからのう」

「改め」


 レインは立ち上がり、深く頭を下げた。


「その節は、本当にありがとうございました。ちなみにアレクサンドラは今、皆様に憧れて冒険者パーティのリーダーを務めているのですよ。パーティ名は【月光の輝き(ムーン・ライツ)】だと教えられました。笑ってしまいますよね。そのまますぎて」

「憧れとは、そういうものです」


 どこか悟った風情で、ザグレイさんが言った。


「なんだかむず痒いですね。嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、って感じです」


 率直な感想を述べると、レインは「まあまあ」と笑った。


「お喋りはこの辺にして。ザグレイ、次はアレをお出しして」


 次に差し出されたのは、あっさりとしたスパゲティだった。ほのかに玉ねぎの香りが漂っているが、具材としては見当たらない。


「オニオンオリーブを使用していましてね。もちろん、ただのオニオンオリーブではありませぬぞ」


 ザグレイさんは自慢げに言った。


「ホワイト・レジェンズです」

「ホワイト・レジェンズ?」

「【賢者の石】を錬成する際に使われる素材の一つにして、【聖なる薬草】の材料としても扱われる最上級のオニオン。それを惜しむことなく、ふんだんに使用しているのです」


 賢者の石、さらには聖なる薬草。

 冒険者ならば誰もが耳にする最上級アイテムだ。

 その素材を料理に使ってしまうとは、贅沢極まりない。


「むむ、これまたなんとも流麗な味わいじゃ。まるで水のように喉を滑っていく。年寄りにも優しい、実に気の利いた料理じゃのう」

「普通にさ、美味しいーって言えばいいじゃん。気取りすぎじゃない?」


 アリスはすっかり調子を取り戻しているようだった。

 食事を終えたら、あのことを話してみよう。


 ジョンが素直に、自分の犯行(イタズラ)を認めるとは思えない。

 それでも、この空気なら話せる気がした。



「――というのが、僕の考えなのですが」


 僕は自身の考えを語った。

 つまり、ユキ事故死説である。


「おい、ユートの話は本当なのか?」


 鬼のような形相で凄んでいるのはアラン。

 もちろん、その視線はジョンに据えられている。


「なななっ! そんなまさか!」


 狼狽えるジョンをよそに、レインは思案に沈んでいた。

 やがて、「ふむ」と口を開く。


「確かに筋は通っていますね。考えてみれば、藁人形というのもどこか古めかしい……いえ、あまり失礼な物言いをするつもりはないのですが。しかしユート君の話は、どうにもあり得そうな気がするといいますか」

「むぅ」ザグレイさんも頷く。「ユキ様が『料理をしてみよう』という趣旨の発言をなさっていたことを、このザグレイも確かに耳にしております。この記憶に間違いはありません」

「そうなの?」


 アリスは目尻に涙を浮かべながら、ジョンへとにじり寄った。


「ねえ。本当にジョンのイタズラだったっていうの? ユキが死んじゃったのは、ただの事故だったっていうの!?」

「でもよぉ」


 アランが眉を寄せながら口を尖らせた。


「だったら、あの手紙はなんなんだよ。『話があるから出てきてくれ』みたいなやつ」


 それに関しては、僕は一つの可能性に思い至っていた。


「その手紙はユキの部屋にあった。そうですよね? ザグレイさん」

「ええ、間違いありません。このザグレイ、ユキ様の部屋にてあの文を見つけました」

「だったら話は簡単です。その手紙の持ち主は、ユキだったんですよ」


 今度はアディから反論が飛んできた。


「だとしたら、文面が少し男性的すぎませんか?」

「はい。ですが、それも無理はありません。だってユキは不器用ですから」


 僕たち太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)の間で、手紙のやり取りがなされたことは一度もない。


 つまり誰もユキの文面を見たことがないのである。

 僕は一拍置いて続ける。


「筆跡鑑定の時に一人だけいなかった人物がいますよね。それは他の誰でもない、ユキ本人です」

「ああ、言われてみれば!」


 ジョンが手を叩いた。

 得心した、という様子だった。


「確かに。それは盲点でしたな」とザグレイさん。

「となると、確認すべきことはあと一つですね」


 レインが、きっとジョンを睨みつける。

 ジョンは「うぅっ」と息を呑んだ。


「う、ぐ……ぬう」


 やがてジョンは項垂れた。


「すまんかった!!」


 深く、頭を下げる。


「ワシなりに色々と考えたんじゃ。でも、なにも思い浮かばんくてのう――」


 パシンッ!

 乾いた音が響いた。

 アリスの平手打ちだった。


「どれだけ怖かったと思ってるのよ、このバカ!!」


 叫ぶなり、アリスは足早に自室――四番の部屋へと走っていった。


「最低ですね」


 侮蔑の表情で吐き捨て、アディは彼女の後を追った。


「ああ、まさか……これが結末だっただなんて」


 乾いた笑みを浮かべるレイン。

 たぶん、僕も似たような顔をしていたと思う。


 アランは長机に肘をつき、不機嫌そうにワインを煽っている。ザグレイさんはそんなアランを窘めつつも、例の美しい所作で、お代わりの要求に応じていた。


 そして、ジョンはというと。僕の隣の席に腰かけたまま、がっくりと項垂れていた。


 ぶつぶつと何かを呟いている様子だったが、何を言っているのかまでは聞こえなかった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

面白い、続きが気になる、期待できそうと思って頂けた方には是非、ページ↓部分の☆☆☆☆☆で評価してほしいです。☆の数は1つでも嬉しいです!そしてブックマークなどもして頂けるとモチベーションの向上にも繋がりますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!!

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