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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
第二章 謎編②

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第11話 閉鎖的空間

 翌日、朝食を終えた後。


「外出を許可します」


 レインが唐突にそう告げた。

 反対の声もいくつか上がったが、僕としては異を唱える理由がなかった。


 ユキが殺害された後、僕たちは三人と四人のチームに分かれ、屋敷内を捜索した。だが、見つかった危険物は、アランのアイアンブレードとザグレイさんの剣のみ。


 つまり、成果はなかったということだ。

 一応は危険物なので、それらはレインが預かり、九号室に保管しているらしい。


「え、いいの?」


 嬉しそうにアリスが言う。

 しかしレインは「助けは期待できませんが」と釘を刺した。というのも現状、この島から脱出する手段はない。


「こんなことになるだなんて、思ってもみなかったからね。転移石は六つしか用意していなかった。手紙の翌日に転移石が届いたのは、単に、手紙を出した翌日にそれを発送していたからです」


 レインは続ける。


「帰還用の船がやってくるまでには、あと十日ほどかかります。ここから王都まではかなり距離がある。火を起こして煙を上げたところで、島を囲む高木に遮られ、どこまで見えるか分かりません」


 仮に煙が木々を越えたとしても、王都までは遠すぎる。わずかに立ち昇る煙を誰かが視認するなど、ほとんど期待できないだろう。


 そして極めつけは、反魔法力場(アンチ・フィールド)だった。島全体を覆っていると聞いていたが、その範囲は実際にはもう少し広く、島周辺の海域にまで及んでいるのだという。


「この一帯、島の周囲およそ三十キロメートル。そこまでは反魔法力場の内側です。つまり、三十キロを自力で泳ぎ切って初めて、反魔法力場の効果範囲から抜け出せる」


 さらに、海にもモンスターは生息している。

 魔法も使えず、足場もない海上では、剣一本振るうことさえ難しい。

 脱出を試みるのは、ほとんど自殺行為だ。


「完全なる閉鎖空間(クローズド・サークル)。そういうことですね?」


 アディが言うと、レインとザグレイさんは申し訳なさそうに頷いた。


「そんなぁ」


 アリスはガクリと肩を落とした。


「でも、外の空気を吸うだけでもリラックスできますよ」


 僕はアリスを慰めるように、できるだけ明るく言った。


「それに、今の僕たちは警戒している。お互いにお互いを監視していれば、あんな惨劇は起こりません」

僕の言葉が少しは効いたのか、アリスは「そうよね」と顔を上げた。


「そうよ、そうよ。いいこと言うじゃない、ユート! 全員で全員を監視していればいいのよ。そうしたら犯人は身動きが取れなくなるし、その後のことは王都の憲兵に全部任せればいいんだから。憲兵なら、きっと簡単に犯人を特定できるはずよ!」

「ふふ。元気になってくれてよかったです」


 レインは「ただし条件があります」と人差し指を立てた。


「まず、男性と女性に分かれてボディチェックを行ってください。その後、もう一度それぞれの部屋を確認します。危険物――主に殺傷能力のあるものは、すべてこちらで預からせていただきます。よろしいですね?」


 レインはそこで、少し間を置いた。


「没収したものは、すべて九号室に保管します……とはいえ、この条件では僕が不審に思われるでしょう。ですから特別に、皆様には九号室をお見せします」


 各自のボディチェックと部屋の確認を終えた後、レインは僕たちを九号室へ案内した。


「少し肌寒いので我慢してください。それと、少しばかり驚くかもしれませんが、それも我慢して頂けると幸いです」


 そうして僕たちは、九号室へと足を踏み入れた。


 室内に入ってまず目についたのは、白い石台の上に並べられた解体済みのモンスター肉だった。それらを取り囲むようにが置かれ、室内には薄い冷気が漂っている。


「なるほど」


 レインが言うほど、僕たちはその光景に動じなかった。数秒の沈黙の後、レインは「ああ!」と手を叩く。


「あまりのショックで忘れていましたよ。皆様からしてみれば、この光景は慣れ親しんだものなんですよね。僕と違って、アラン様御一行は冒険者なのだから」


 どうやら九号室は、食糧の保管庫として使われているらしい。


 ただし、単なる一室というわけではなかった。

 奥には保存棚が並び、樽や木箱、食材らしき包みが積まれている。さらにその向こうには、冷気を逃がさないためだろうか、白い板壁のような間仕切りが設けられていた。


「九号室は、いくつかの保管区画に分けて使っているんです」とレインが説明する。「肉類、乾物、酒類、予備の食材。温度管理の都合もありますからね」


 確かに、保存庫として考えれば不自然ではない。氷の魔石の冷気を効率よく保つためにも、広い空間を仕切って使うのは合理的だ。見た限りでは、ただの保管庫にしか思えなかった。


「武器の類も一時的には冷えてしまいますが、劣化することはないのでご安心を。こういう場所にいると、いつ何時なにが起こるか分からない。だから飲食料は、このような形で保管しているんですよ」


 レインは小さく息を吐いた。


「ああ、転移石も貯め込んでおくべきだったかな」


 後の祭りだと分かっていても、つい口を突いて出る言葉というものはある。とはいえ、転移石は高級品だ。冒険者でもないレインたちが常備を敬遠するのも、無理からぬ話だった。


「とりあえず、ぱっと見たところ怪しいものはありませんわね」

「ねぇ、アディ。早く外に行こうよ」


 アリスは、一刻も早く気分転換したい様子だった。

 かくいう僕も同じ気持ちだ。


「ワシも、思いきり新鮮な空気を吸いたいわい」

「俺もだぜ。それに、運が良けりゃあ船が通りかかるかもしれねぇ」

「では、参りましょうか」


 ザグレイさんの先導で、僕たちは九号室をあとにした。その後の話し合いの結果、僕たちは二つのチームに分かれて行動することになった。



 ユート

 ジョン

 ザグレイ


 アディ

 アリス

 アラン

 レイン



 広い屋外では、何が起きるか分からない。互いの姿がすぐ確認できるよう、少人数でまとまって行動した方がいい。


 それは僕の提案だった。

 もちろん、単独行動は禁止。

 森の奥へ入ることも禁止。

 屋敷から大きく離れないことも、条件として加えられた。


「では久々に……というほどでもありませんが。お天道様の光を直に浴びるとしましょうか」


 少し明るい声で、ザグレイさんが入口の大扉を開く。次の瞬間、心地よい涼風と眩い太陽の光が、僕たち七人を出迎えた。


「うぅー、気持ち良いー!」


 アリスが、弾けるような笑顔を浮かべる。

 アディと手を取り合いながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


「元気が戻ったようで、なによりです」

「ええ、本当に」


 陽光を反射する透明な瞳を向けられ、僕は少しだけどぎまぎした。それでも、アリスが元気を取り戻してくれたことに、僕はほっと胸を撫で下ろした。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

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