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チートなし! 相方あり!? 〜クソ昭和とニセ令和の異世界遭難記〜  作者: niwa.
第一章 信用ゼロから始める村暮らし

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第二十二話 再び町へ

  三日後。町へ向かう朝。

 村の門の前には、前回より人が多かった。


「……増えてない?」

「増えてるな」


 荷車が二台。

 馬も二頭。

 ここまでは前回と同じ。


 違うのは、村の男たちだった。

 荷車を動かす男が四人。

 長い棒を持った男が二人。

 弓を背負った男が一人。


 さらに、荷車から少し離れた場所に、槍を持った男まで立っている。


「町へ荷物を運ぶだけだよな?」

「遠足には見えんな」

「追い剝ぎ退治に行く人数じゃない?」

「退治する気なら、もっと必要だろ」

「現実的なこと言うなよ」


 前回は。

 荷車が二台。

 村の男たちが四人。

 リィナ。

 俺とおっさん。

 戦うために集まった人間はいなかった。


 今回は。

 明らかに違う。

 男たちの腰には短い刃物がある。

 長い棒も、荷物を固定するためではなさそうだった。


 門の横にも変化があった。

 以前は、門番が一人。

 今は二人いる。

 一人は門の外を見ている。

 もう一人は、村の中を見ていた。

 門の脇には、木槌と小さな金属板が吊るされている。


 叩けば、大きな音が出そうだった。


「見張り、増えてる」

「追い剝ぎが村まで来る可能性を考えたんだろうな」

「来ると思う?」

「来ないとは言い切れん」

「荷車を奪えなかった腹いせ?」

「それもある。だが」


 おっさんは倉庫の方を見た。


「荷車に食料があるなら、出発した村にも食料がある。そう考えるかもしれん」

「……嫌な考え方するな」

「向こうの立場で考えただけだ」

「営業って、追い剝ぎの気持ちまで考えるの?」

「客の気持ちを考えるのが仕事だ」

「あいつら客じゃねえよ!」


 村のまとめ役の男が、俺たちへ近づいてきた。

 俺とおっさんを見る。

 次に、門の近くを指した。

 来い。

 それくらいは、もう分かる。


「おっさん、呼ばれてる」

「お前もだ」

「俺も?」

「襲われた当事者だからな」

「またセット商品?」

「信用あるセット商品だ」

「値段ついた?」

「まだだ」

「売る気なの?」


 まとめ役の男は、門の横の地面へしゃがんだ。


 棒を拾う。

 土へ線を引く。


 丸。

 長い道。

 その先に、もう一つ大きな丸。


「村、町?」


 俺が言う。

 男がうなずいた。

 次に、道の途中へ太い線を横切らせた。


「倒木」


 おっさんが覚えた現地語で言った。

 発音は少し怪しい。

 でも、男はうなずいた。


 男は、倒木の近くへ小さな丸を六つ描いた。

 棒で一つずつ叩く。


 六。

 追い剝ぎ。


 その単語も、昨日リィナに教わった。

 俺が言う。

 男はもう一度うなずいた。


「言葉が通じるってすごいな」

「まだ単語だけだ」

「前は全部顔だったから」

「今も半分は顔だ」


 まとめ役の男は、村の丸を指した。

 次に、六つの丸。


 最後に、村の門を指す。

 何かを話す。


 知っている言葉がいくつか混ざった。


 六人。

 来る。

 夜。

 見る。


「夜も見張るって?」

「たぶんな」

「また、たぶん?」

「今のは七割」

「下がってるじゃん」


 男は門の脇の金属板を指した。

 木槌で叩く仕草。

 次に、村の中にいる人々が集まるように手を動かした。


「危険があったら、音を鳴らして集まる」

「そうだろうな」

「もう考えてる」

「当たり前だ。俺たちが来る前から、この村はここにある」

「おっさんが村の防衛を教える展開じゃないの?」

「誰がそんな面倒なことをする」

「主人公っぽいから」

「村を守るのは、村の人間だ」


 少し。

 意外だった。

 おっさんなら、得意そうに口を出すと思っていた。

 倉庫の並べ方。

 荷物の積み方。

 作業の順番。

 今までも、勝手に首を突っ込んできた。


「何だ、その顔」

「おっさんがまともなこと言った」

「いつもまともだ」

「それはない」


 まとめ役の男が、今度は荷車を指した。

 村から町へ向かう道。

 そこへ、小さな丸をいくつも描き足す。


 前。


 荷車。


 荷車。


 後ろ。


「前と後ろに人を置く?」


 おっさんが現地語を並べる。


 人。

 前。

 見る。

 後ろ。

 見る。


 男がうなずいた。

 門前にいた男を一人呼ぶ。

 その男へ、道の先を指す。


 先に歩け。

 たぶん、そういう指示だ。


「斥候?」

「そこまで立派なもんじゃない。道の確認役だろ」

「倒木を先に見つけるため?」

「ああ」


 別の男も呼ばれた。

 今度は荷車の後ろを指す。


「後ろから来るやつを見る」

「前回、後ろを取られたからな」


 対策している。

 ちゃんと。

 襲われたことを無かったことにせず。

 次は同じことにならないように。


 俺たちが何かを教えなくても。

 村の人たちは考えていた。

 おっさんは、地面の絵を見ていた。


 前。

 荷車二台。

 後ろ。

 人数も増えている。


「十分?」

 俺が聞く。


「十分なんてことはない」

「じゃあ足りない?」

「相手が何人来るか分からんからな」

「嫌なことばっかり言うなよ」

「ただ、前回よりはましだ」


 おっさんは地面の道を指した。

 次に、太陽を指す。


 町。

 行く。

 日。

 同じ。


 おっさんの現地語は、文章になっていない。

 単語を置いているだけ。

 まとめ役の男が少し考えた。


 おっさんはもう一度、指で示す。

 太陽が昇る。

 荷車が出る。

 毎回。

 同じ。

 追い剝ぎが待つ。


「何言ってる?」

「毎回、同じ時間に出すなと言ってる」

「追い剝ぎに予定を読まれるから?」

「あいつらが偶然あそこにいたとは思えん」


 前回。

 道には、きれいに枝を落とされた倒木が置かれていた。

 前と後ろ。


 茂みの左右。

 六人が待っていた。

 荷車が通ることを知っていた。


「村から見られてた?」

「可能性はある」

「村の中に仲間がいるとか?」

「そこまでは言ってない」

「でも」

「町で荷物を見られたかもしれん。道を何度か使って、周期を調べられたかもしれん」


 村。

 町。

 荷車。

 出る。

 日。

 変える。


 おっさんは、覚えた言葉だけで伝えようとする。

 途中で詰まる。


 同じ。

 危険。

 変える。


 まとめ役の男は、地面の絵を見ていた。


 しばらく考える。

 それから、太陽を描いた。

 その横へ、もう一つ。

 さらにもう一つ。


 荷車の印を、それぞれ違う位置へ描く。


「伝わった?」

「たぶんな」

「今回のたぶんは?」

「九割」

「高い」


 男は立ち上がる。

 荷車を動かす男たちへ、何かを指示した。

 言葉はまだ速すぎて分からない。

 ただ。


 荷車。

 朝。

 次。

 違う。

 その辺りは聞き取れた。


「採用された?」

「相談した結果だ」

「おっさん、村の防衛担当?」

「相談役だ」

「また勝手に役職作った」

「今回は向こうから呼ばれた」

「言葉、半分も通じてないだろ」

「最後に伝われば勝ちだ」

「村の防衛会議を営業で押し切るなよ!」


 まとめ役の男が、おっさんの肩を叩いた。

 何かを言う。

 おっさんも、覚えた言葉で返した。


「大丈夫。戻る」


 たぶん、そんな意味だった。

 発音は怪しい。

 それでも、男はうなずいた。


「今、何て言った?」

「村を頼む、と言われた」

「絶対違う」

「町で必要なものを買ってこい、かもしれん」

「意味変わりすぎだろ!」

「単語が足りないんだ」

「堂々と言うな!」


 リィナが歩いてきた。

 今日は杖を持っていない。

 足は、もうほとんど治っているように見える。


 背中には小さな鞄。

 腰には刃物。

 町で渡すらしい薬草の包みも持っていた。


「リィナ、行く?」


 リィナはうなずく。

 俺の肩を指す。

 腕を回せという仕草。


「大丈夫だって」


 腕を上げる。

 少し痛い。

 顔に出た。

 リィナが目を細める。


「大丈夫の範囲」

「顔が違うって言ってるぞ」

「おっさんの翻訳いらない!」


 今度はおっさんの頬を見る。

 腫れはほとんど引いている。

 リィナが指で押そうとする。

 おっさんが避けた。


「もう治った」

 リィナがもう一度手を伸ばす。


「確認しなくていい」

「前に痛がったから面白がってるんじゃない?」

「お前が変なことを教えたんだろ」

「教えてない!」


 リィナは手を引いた。

 少し笑っている。

 絶対、面白がっている。


 荷物が積まれる。

 穀物。

 薬草。

 布。

 木箱。


 前回より量は少ない。

 代わりに、人が増えた。


「俺たちは歩き?」

「当然だろ」

「前回、怪我人枠で乗ったのに」


「治った人間は歩け」

「待遇が戻るの早くない?」

「信用と座席は別だ」

「世知辛い!」


 リィナは荷台へ乗ろうとした。

 けれど。

 一度、俺たちを見る。

 自分の足を指す。

 次に、俺の足。

 おっさんの足。


「今回は自分も歩くって?」

「足が治ったからだろ」

「じゃあ三人とも徒歩?」

「平等だな」

「悪い方向に?」


 リィナは荷台に薬草の鞄だけを置いた。

 俺たちの横へ並ぶ。

 村の男が、出発の合図をした。


 仮に馬が歩き出す。

 荷車の車輪が回る。


 先頭の男は、荷車よりかなり前を歩いている。

 後ろにも一人。

 弓を持った男は一台目の横。

 長い棒を持った男は二台目の横。


「本当に違うな」

「何が」

「前回と」


 人数。

 配置。

 持っているもの。

 見ている方向。


 全部。

 同じ道を使う。


 でも。

 同じようには行かない。


「これなら襲われても大丈夫?」

「大丈夫とは言ってない」

「またそれ?」

「なんでも願望通りにいかないってことだ」

「荷物を無事に町へ運ぶこと?」

「全員で帰ってくることだ」

「格好いいこと言うじゃん」

「当たり前のことだ」


 村の門が、後ろで閉じた。

 門番は二人。

 金属板と木槌。

 村の中では、若い男たちが棒を持って集まっている。

 俺たちがいない間も。

 村は、村で自分たちを守る。


「俺たち、いなくても大丈夫かな」

「俺たちが来る前から暮らしてると言っただろ」

「そうだけど」

「少し寂しいのか?」

「違う」

「頼られたかった?」

「違うって!」


 おっさんが笑う。


「自分たちがいないと困る村にしたいのか?」

「そういう意味じゃない」

「なら、それでいい」


 異世界へ来た現代人が。

 村へ知識を与えて。

 村を豊かにして。

 村人全員に頼られる。

 そういう話も、たぶんある。

 でも。


 この村の人たちは。

 俺たちが来る前から、生きている。

 食べ物を作る。

 怪我を治す。

 荷物を運ぶ。

 危険があれば、考える。

 俺たちができるのは。

 自分たちが見たことを伝えるくらいだ。


「ニセ令和」

「何?」

「暗いぞ、顔」

「考えてただけ」

「難しいことは町へ着いてからにしろ」

「おっさんに言われたくない」

「歩きながら考えると、木にぶつかるぞ」

「子供じゃねえよ」


 前を見る。

 道は森へ続いている。


 前回。

 鳥の声が消えた。

 倒木があった。

 六人に囲まれた。


 その道を、もう一度通る。

 怖くないわけではない。


 肩の痛みは、ほとんど消えた。

 でも。


 棍棒が近づいてきたときの音は、まだ覚えている。

 棒を握った手が離れなかったことも。


「セラノ」


 おっさんが名前を呼んだ。


「何」

「今日は、お前が最初に突っ込むなよ」

「分かってる」

「本当に?」

「俺だって学習する」

「主人公さんなのに?」

「それ言うな!」


 前を歩く男が手を上げた。

 荷車が止まる。

 俺の体が固くなった。


「何?」

「前だ」


 道の端。

 木の枝が落ちている。

 大きくはない。

 荷車を止めるほどでもない。


 先頭の男が枝を蹴る。

 周囲を見る。

 茂み。

 木の上。

 道の先。

 何もいない。


 男は荷車へ向かって手を振った。

 進め。


「ただの枝?」

「ただの枝だな」

「驚かせんなよ……」

「確認しただけだ」


 前回なら。

 荷車がそのまま枝を踏んでいた。

 今は、一度止まる。

 見る。

 何もないと確認してから進む。


 たったそれだけ。

 でも。

 それで避けられる危険もある。


「面倒だな」

「生き残るのは、だいたい面倒だ」

「おっさん、それ好きだよな」

「真理だからな」


 荷車は進む。

 何度か止まった。

 足跡。

 折れた枝。

 道の脇の物音。


 そのたびに前の男が確認する。

 大抵は何もない。


 小さな動物が逃げただけ。

 風で枝が落ちただけ。

 古い足跡が残っていただけ。


「全然進まない」

「前回よりは安全だ」

「町、遠くなった気がする」

「距離は変わってない」

「体感の話!」


 昼前。

 あの場所へ着いた。

 道の横。

 太い木。

 前回、倒木が置かれていた場所。

 幹は、もう道の端へ動かされている。

 地面には、まだ、荒れた跡が残っていた。


 靴の跡。

 荷車の車輪。

 棒が擦れた線。

 俺が滑らせた石。


 血の跡は、もう見えない。

 雨が降ったのかもしれない。

 先頭の男が止まる。


 村の男たちが武器へ手をかけた。

 リィナも周囲を見る。

 おっさんは、道の左右を見た。


 森は静かだった。

 でも。

 前回のような、嫌な静けさではない。

 鳥が鳴いている。

 葉が揺れている。

 遠くで何かが走る音。


 人間が息を潜めている感じはしない。

 たぶん。


「行けそう?」

「たぶんな」

「たぶんか」

「絶対はない」


 まとめ役から同行を任された男が、手を上げた。

 荷車がゆっくり動く。

 あの場所を通る。

 俺は道の端を見た。


 前回。

 剣を持った男が立っていたところ。

 棍棒の男が出てきた茂み。

 黙ってこちらを見ていた、追い剝ぎの頭らしい男。


 誰もいない。

 何も起きない。

 荷車が通り過ぎる。


「終わり?」

「何も起きなければな」

「何も起きないの、慣れないな」

「起きてほしいのか?」

「欲しくない」

「なら喜べ」

「極端なんだよ」


 振り返る。

 あの場所が、少しずつ遠ざかる。


 前回は。

 生きて帰れるか分からなかった。

 今回は。


 通り過ぎただけだった。

 危険がなくなったわけではない。


 俺たちが強くなったわけでもない。

 ただ。

 前より少しだけ、準備してきた。


 昼を過ぎるころ。

 森が薄くなった。

 道の両側に畑が見える。


 石の壁。

 行き交う人。

 町が近い。

 前回と同じ景色。

 でも。

 俺たちは、前回より少しだけ言葉を知っている。

 文章にはならない。

 それでも。

 何もなかった前回とは違う。

 木々の向こうに。

 町の高い壁が見えた。


「見えた」

「ああ」

「老人、いるかな」

「店が潰れてなければな」

「三日で潰すなよ!」

「八日と三日だ」

「十一日でも潰すな!」


 リィナが、町を指した。

 次に俺たちを見る。

 知っている言葉を、ゆっくり口にした。


「老人。店。行く」


 おっさんは、板を取り出した。


 門の絵。

 空から来た人間。

 前回、老人が見て顔色を変えた絵。

 板は少し汚れている。

 それでも。

 まだ使える。


「今度こそ、聞ける?」

「聞くことはできる」

「答えが分かるかは?」

「二割」

「低っ!」

「前回はゼロだ」

「成長を数字でごまかすな!」


 町の門が近づく。

 人の声も聞こえ始めた。


 荷車。

 門番。

 壁。

 前回と同じ町。

 今回は。

 少しだけ言葉がある。

 聞きたいことも決まっている。

 俺は、覚えた現地語を頭の中で並べた。

 たぶん。

 足りない。

 でも。

 足りないまま行くしかない。


「おっさん」

「なんだ」

「最初に、ゆっくり話せって言えよ」

「覚えた」

「本当に?」


 おっさんが、現地語で何かを言った。

 隣を歩いていた村の男が振り返る。

 怪訝な顔をする。

 それから。

 荷車の速度を落とした。


「何て言った?」

「ゆっくり」

「歩く方に伝わってるじゃん!」

「意味は合ってる」

「使いどころが違う!」


 前回より。

 言葉は増えた。


 誤解も、少しだけ増えた。

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