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チートなし! 相方あり!?  作者: niwa.


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第十八話 荷車に乗れるとは言ってない

 翌朝。

 俺たちは、町へ向かう荷車に荷物を積んでいた。


 荷車は、町で荷物を下ろしたあと、また村へ戻ってくるらしい。

 日帰りではない。


 男が指を二本立て、空を指し、眠る仕草をした。

 たぶん、二日。

 あるいは二晩。


「町で一泊して、また戻る?」

「そういうことだろうな」

「よかった。町に着いた瞬間、宿なしになるのかと思った」

「帰る場所ができたな」

「仮の寝床だけどな」

「仮でも、ないよりはいい」


 町へ移り住むわけではない。


 帰る方法について何か分かれば、それでいい。

 分からなくても、荷車と一緒に村へ戻る。


 今のところは、その予定だった。


「また荷物運びだな」

「昨日も聞いた」

「大事なことだからな」

「何回確認しても仕事が軽くなったりしないから」


 袋を持ち上げる。

 重い。

 中身はたぶん穀物だ。

 たぶんというのは、文字が読めないし、聞いても言葉が分からないからだ。


 持った感じは穀物。

 腰への攻撃力も穀物。

 少なくとも、羽毛ではない。


「おっさん、そっち持って」

「俺は積み方を考えてる」

「考える前に持て」

「重い物は若い方」

「便利に若さを使うな!」

「財産は活用しろ」

「俺の財産を勝手に運搬力へ換算すんな!」


 荷車は二台あった。


 前の荷車には、袋や木箱。

 後ろの荷車には、干した草と、壊れやすそうな壺が積まれている。

 どちらにも、人が乗るための場所はほとんどない。


 当然だ。

 荷車だから。

 人を運ぶ車ではなく、荷物を運ぶ車だから。


 分かっている。

 分かっているけど。


「俺たち、どこに乗るの?」

「乗れるとは聞いてないぞ」

「町まで同行させるって言ってたじゃん」

「荷車と一緒に行け、という意味だったんだろ」

「徒歩?」

「健康的だな」

「異世界に来てから健康への圧が強すぎる!」


 村の男が荷車の横を叩いた。

 次に、道を指す。

 それから俺たちを指し、歩く仕草をした。


「ほら」

「ほら、じゃねえよ!」

「交渉の余地がないな」

「営業だろ。何とかしろよ」

「言葉が通じない」

「普段は顔で押すとか言ってるくせに!」

「乗せろという顔は、だいたい厚かましい」

「急に社会性を取り戻すな!」


 結局、俺たちは歩くらしい。

 旅費は労働。

 座席なし。

 食事はたぶん最低限。


 異世界の旅行会社は、だいぶ強気だった。

 荷物を積み終えるころ、村人たちが何人か集まってきた。


 倉庫を管理していた年配の男。

 最初に門で見張っていた若い男。

 屋根修理で俺を村半周走らせた男。


 最後のやつは笑っていた。


「何笑ってんだよ」

「発音のこと覚えてるんだろ」

「こっちは忘れたいんだけど」

「いい思い出じゃないですか」

「急に丁寧に煽るな、クソ昭和」


 倉庫の男が、アイドへ小さな袋を渡した。

 中には、干した豆と硬そうなパンが入っている。


「道中の飯だろうな」

「くれるんだ」

「働いたからな」

「俺の方が働いた」

「俺は倉庫を改善した」

「俺は屋根と薪と村半周だぞ!」

「最後のは自主的な運動だ」

「違うって何回言わせるんだよ!」


 アイドは袋を受け取り、頭を下げた。

 倉庫の男も頭を下げる。


 言葉は通じない。

 それでも、昨日までよりは分かることが増えた。


 この人は、俺たちを嫌ってはいない。

 少なくとも、食料泥棒だとは思っていない。


 それだけでも十分だった。

 俺も真似して頭を下げた。


 村のまとめ役の男が、アイドへ何かを差し出した。


 ライターだった。


「返ってきた」

「やっとか」

「火の審査、合格?」

「仮免許くらいだろうな」

「また取り上げられる前提なんだ」


 アイドはライターを受け取り、何度も確認してから胸ポケットへ入れた。


「大事そうにしまうな」

「文明だぞ」

「最初は存在を忘れてたくせに」

「失って初めて価値が分かる」

「三日預けただけで人生みたいに語るな」


 出発の準備は、ほとんど終わった。


 荷車を引く動物は、馬に似ている。

 似ているだけで、馬かどうかは分からない。


 体は馬。

 耳は少し長い。

 首の毛は妙に硬そうだった。


「仮に馬」

「また仮か」

「名前を知らないから仕方ないだろ」

「町へ着くまでには覚えろ」

「誰に聞くんだよ」

「リィナ」


 俺は周囲を見た。


「リィナ、まだ来てないけど」

「見送りに来るんじゃないか」

「別に、待ってないけど」

「誰も待ってるとは言ってない」

「うるせえな」


 村の入口を見る。

 誰も来ない。


 荷車の男たちが紐を確認し始める。

 仮に馬の首へ道具をつける。


 もう出るらしい。


「……来ないな」

「何が?」

「何でもない」


 そのとき。


 杖の音がした。


 こつ。


 こつ。


 村の奥から、リィナが歩いてきた。

 怪我をした足には、まだ布が巻かれている。

 歩き方も完全には戻っていない。


 けれど、最初に沢で会ったときよりは、ずっとしっかりしていた。


 肩には小さな鞄。

 片手には杖。

 もう片方の腕には、葉や根が詰まった籠を抱えている。


「来た」

「嬉しそうだな」

「見送りだろ」

「まだ何も言ってない」

「言葉通じないじゃん」


 リィナは俺たちの前まで来た。


 俺を見る。

 アイドを見る。

 少しだけ笑った。

 それから、俺たちの横を通り過ぎた。


「え?」


 荷車の後ろへ行く。


 抱えていた籠を荷台へ載せる。

 肩の鞄も置く。

 杖を荷車の側面へ立てかける。


 そして。


 空いていた荷台の端へ、当然のように腰を下ろした。


「……見送りじゃないの?」

「同行らしいな」

「聞いてないんだけど」

「言葉が通じないからな」

「それで全部済ませるな!」


 リィナは自分の籠を指した。


 次に、道の先を指す。

 両手で大きな建物の形らしいものを作る。

 葉をつまみ、誰かへ渡す仕草をした。


「薬草を町へ運ぶ?」

「薬師か何かに届けるのかもしれんな」

「俺たちの案内じゃないの?」

「自意識が強いな、ニセ令和」

「確認しただけだよ!」


 リィナは、俺たちについてくるわけではない。

 リィナも町へ行く。

 たぶん、順番としてはそっちだった。


 目的地が同じ。

 それだけだ。

 今のところは。


 俺は荷台を見た。

 リィナは座っている。

 俺たちは歩く。


「怪我人だからな」

「分かってる」

「譲れよ」

「俺、最初から座れてないんだけど」

「若さは財産だ」

「その財産、町に着く前に使い切りそうなんだけど!」


 荷車が動き始めた。


 車輪が土を踏む。

 仮に馬が、ゆっくり前へ進む。


 俺とアイドは、その横を歩き出した。

 リィナは荷台の上。

 俺たちは徒歩。


 三人で町へ向かう。

 相方は一人増えたのかもしれない。

 ただし。


 席は増えなかった。

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