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チートなし! 相方あり!?  作者: niwa.


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17/26

第十七話 食料泥棒、容疑者二名

 三日目の朝。

 たぶん。


 村へ来てから何度か太陽は昇ったが、カレンダーがないので自信はない。

 スマホもまだ預けられたままだ。


 日付も。

 時間も。

 曜日も。


 文明人は、数字を取り上げられると急に今日が分からなくなる。


「最終日だな」


 粥を食べながら、アイドが言った。


「何の?」

「試用期間」

「俺たち、いつから採用試験を受けてたの?」

「村へ入った日からだろ」

「応募した覚えないんだけど」

「食事と寝床を要求した時点で応募してる」

「就職じゃなくて生存だよ!」


 入口に立っていた村の男が、俺たちへ指を三本見せた。

 一本ずつ折る。

 最後に残った一本を、俺たちの目の前へ突き出した。


「ほら、今日が最後だ」

「三日目ってこと?」

「だろうな」


 男は次に、村の外を指した。

 それから俺たちを指す。


「今日の働きが悪かったら、外?」

「契約更新なしだな」

「森へ解雇されるの?」

「自然へ再就職だ」

「嫌すぎる!」


 アイドは余裕そうに粥を食べていた。


「心配するな。昨日までの働きは悪くない」

「おっさんは倉庫を勝手に並べ替えてただけだろ」

「業務改善だ」

「俺は屋根直して、薪運んで、村半周走らされたんだけど」

「最後のは自分から走ると言った」

「発音を間違えただけだよ!」

「言葉には責任を持て」

「異世界語で説教すんな!」


 アイドが器を置いた。


「今日は余計なことをせず、真面目に働く」

「おっさんが言うと不安になる」

「失礼な。俺は常に真面目だ」

「昨日、門を聞くつもりで鍋を呼んだ人が?」

「あれは語学上の事故だ」

「村ではもう、鍋を欲しがるおっさんとして覚えられてるぞ」

「門だ」

「鍋」

「門!」


 外から、大きな声が聞こえた。

 誰かが叫んでいる。

 一人ではない。

 足音も近づいてきた。


「何?」

「朝から騒がしいな」

「俺たちの門と鍋の喧嘩、通報された?」

「村に警察はいないだろ」


 扉が勢いよく開いた。

 倉庫を管理していた年配の男が立っていた。

 昨日、アイドの発音を何度も訂正していた人だ。

 息を切らしている。

 男はアイドを指した。

 次に、村の中央を指す。


 来い。


 顔を見るまでもなく、急いでいることは分かった。


「おっさん、呼ばれてる」

「倉庫だな」

「何で分かるの?」

「管理担当だからだ」

「勝手に役職作るなよ」


 男は今度は俺も指した。


「俺も?」

「セット商品だからな」

「こういうときだけセットに戻すな!」


 俺たちは男の後を追った。

 村人たちが、ひとつの建物の前へ集まっている。

 アイドが整理した倉庫だった。

 扉が開いている。

 中から、穀物のような匂いがした。

 それと。

 何かが散らばっている。


「荒らされてる」


 床に白い粉が広がっていた。

 豆のような粒も落ちている。

 壁際に置かれていた袋が倒れ、側面が破れていた。

 棚に並べられていた干し肉も、いくつかなくなっている。


「昨日はこんなじゃなかった?」

「当たり前だ」


 アイドが倉庫の中を見回す。

 表情が変わった。

 ふざけていない。


「穀物袋が二つ。干し肉が……三つか四つ」

「分かるの?」

「俺が並べた」

「本当に倉庫番になってるじゃん」

「管理担当だ」


 倉庫の男が、アイドを指した。

 次に破れた袋を指す。

 何かを言う。

 声は強い。


「おっさん」

「分かってる」

「疑われてる?」

「昨日、この倉庫を触った外部者だからな」


 周りの村人も俺たちを見ている。

 怒っている人。

 不安そうな人。

 様子を見ている人。

 誰かが俺も指した。

 食べる仕草をする。


「俺まで?」

「二人組だからな」

「セット商品、解散しない?」

「こういうときだけ逃げるな」

「食料盗んでないよ!」


 言葉は通じない。

 俺は両手を振った。

 自分を指し、首を横に振る。

 食べていない。

 盗っていない。


 たぶん、それくらいは伝わる。


 倉庫の男は険しい顔のままだった。

 ただ、俺たちを捕まえようとはしない。

 門番だった若い男が、人混みから出てきた。

 俺たちの寝床を指す。

 次に自分の目を指す。

 夜を示すように、両手を頬へ当てる。

 それから首を横に振った。


「何?」

「俺たちは夜、外へ出ていないと言ってるんだろ」

「見張ってたから?」

「たぶんな」

「じゃあ容疑晴れた?」

「倉庫へ直接来ていなくても、何か仕掛けた可能性は残る」

「村人、おっさんより疑り深いな」

「食料は命だからな」


 アイドは笑わなかった。


「森で食い物がなくなる怖さは、お前も知ってるだろ」

「……まあ」


 村の食料が減れば、その分だけ誰かが食べられなくなる。

 盗まれた量が多いのか少ないのかは分からない。

 でも、この村に余裕があるようには見えなかった。

 疑われたことに腹を立てるより、原因を探した方が早い。


 たぶん、アイドも同じことを考えていた。

 アイドは倉庫の男へ両手を見せた。


 次に床を指す。


 調べさせろ。

 そんな仕草をする。

 男は少し迷ったあと、道を空けた。


「営業スマイルは?」

「容疑者が笑うと怖いだろ」

「やっと使いどころを理解したな」

「俺を何だと思ってる」

「笑顔で人を追い込む元営業」

「悪意ある要約やめろ」


 俺たちは倉庫へ入った。

 床に散らばった粉を踏まないように歩く。

 破れた袋を見る。

 裂け目は、まっすぐではない。

 細かく波打っている。


「これ、人間が切ったんじゃなくない?」

「そうだな」


 アイドが指で裂け目の近くを示した。

 小さな傷が何本もついている。


「刃物なら、もっときれいに切れる」

「噛まれてる?」

「おそらく」

「ネズミ?」

「ネズミっぽいな」

「異世界サイズじゃないことを祈る」


 床を見る。

 白い粉の上に、小さな跡があった。

 人間の足跡ではない。

 指のようなものが四本か五本。

 細い爪の跡もある。


 でも。


「普通のネズミより大きくない?」

「猫くらいあるな」

「祈り、届かなかった」


 粉は壁際まで続いている。

 その先。

 木の板の下に、暗い隙間があった。

 袋からこぼれた豆が、そこまで転がっている。


「穴」

「新しいな」


 板の端が削られていた。

 木くずも落ちている。

 何かが倉庫の外から穴を開けたらしい。

 俺たちが床を見ていると、杖の音が近づいた。


 リィナだ。


 薬師らしい女の人と一緒に来た。

 足にはまだ包帯が巻かれている。

 それでも、昨日より歩き方は安定していた。


「リィナ」


 リィナは俺たちを見る。

 次に、荒らされた倉庫を見る。

 顔から笑みが消えた。

 俺が破れた袋を指す。

 噛む仕草をする。

 次に壁の穴を指した。


 リィナはしゃがみ込んだ。


 足跡を見る。

 木くずを見る。

 穴の匂いを嗅ぐ。

 それから、短い言葉を口にした。


「名前?」

「生き物の名前だろうな」


 俺も真似して言ってみた。

 リィナが首を横に振る。


「違うって」

「お前の発音では別の生物になるんじゃないか」

「じゃあ仮にネズミでいい」

「また仮か」

「仮に馬。仮に熊。仮にネズミ」

「この世界、生き物の名前が全部仮だな」

「図鑑がないから仕方ないだろ!」


 リィナは穴へ手を近づけた。

 薬師の女の人が止める。

 怪我人だからか。

 危険だからか。


 たぶん両方だ。

 リィナは周囲の村人へ何かを説明した。

 足跡を指す。

 破れた袋を指す。

 自分の前歯を示す。


 倉庫の男が俺たちを見る。

 さっきより、疑いの色が薄くなっていた。


「容疑、晴れた?」

「少なくとも俺たちが袋を噛んだとは思われてない」

「歯形を確認されなくてよかった」

「お前の前歯、出てないもんな」

「そういう問題じゃねえ!」


 村人たちが倉庫の外を調べ始めた。

 穴は倉庫の裏側へ通じている。


 裏には木材や壊れた道具が積まれていた。

 その奥へ、豆がいくつか落ちている。


 リィナは杖で地面を示した。

 小さな足跡。


 森の方ではない。

 村の外れにある、使われていない小屋へ続いている。


「まだ村の中にいる?」

「食料を運び込んでるなら、近くに巣があるかもしれん」

「捕まえるの?」

「捕まえないと、また来るだろ」

「俺たちが?」


 アイドが俺を見る。


「信用を稼ぐ機会だな」

「容疑者が自分で真犯人を捕まえるやつ?」

「分かりやすくていい」

「探偵じゃなくて労働者なんだけど!」

「今日は最終面接だぞ」

「実技の幅が広すぎる!」


 村のまとめ役らしい男がようやくやってきた。


 倉庫。

 足跡。

 穴。


 順に確認する。

 リィナの説明を聞いたあと、俺とアイドを見る。

 それから、使われていない小屋を指した。


「捕まえろって?」

「手伝え、だろうな」

「断ったら?」


 男は村の外を指した。


「分かりやすい!」

「最終面接だ」

「害獣駆除まで業務内容に入ってなかったぞ!」

「契約書がないからな」

「異世界雇用、労働者に不利すぎる!」


 捕獲の準備が始まった。

 まず、残った食料を別の場所へ移す。

 倉庫の穴を塞ぐ。

 使われていない小屋の周囲を調べる。

 アイドは、村人たちの動きを見ていた。


 誰が何をしているのか。

 どこに人が足りないのか。

 何を先に動かすべきか。


「おっさん、また現場監督?」

「食料を守るのが先だ。捕まえてる間に別のやつが入ったら意味がない」

「一匹じゃない可能性?」

「ネズミだぞ」

「仮にネズミな」


「一匹見たら何匹いると思う」

「日本の嫌な常識を異世界へ持ち込むな!」


 アイドは、倉庫の男へ身振りで伝えた。


 食料を指す。

 別の建物を指す。

 人を二人ずつ並べる。


 最初は伝わらなかった。

 アイドは豆の袋を実際に持ち上げ、移動先まで歩く。

 戻ってきて、別の袋を指す。

 ようやく伝わった。


「言葉が通じなくても、押し切るな」

「営業は諦めない」

「肉体で説明してるだけじゃん」

「最後に理解されれば勝ちだ」


 リィナは、捕まえるための餌を選んでいた。


 穀物。

 干した果物。

 干し肉。


 順番に匂いを嗅ぐ。

 最後に、脂の多い干し肉を指した。


「肉が好き?」

「おっさんと同じだな」

「一緒にするな」

「囮になれるんじゃない?」

「誰が熟成肉だ!」


 大きな木箱が一つ運ばれてきた。


 紐。

 棒。

 小さな籠。


 村人たちは、箱を斜めに立て、その下へ餌を置こうとしている。


「古典的な罠だな」

「棒を引けば箱が落ちるやつ?」

「仕組みは単純な方が壊れにくい」


 アイドが村人へ何かを伝えようとした。

 使われていない小屋を指す。

 次に、物陰へ隠れる仕草。


 自分を指す。

 箱を指す。

 紐を引く仕草。


「何を説明してる?」

「中で待つ役が必要だ」

「おっさんがやるの?」

「俺は指示する側だ」


 村人たちは顔を見合わせた。

 それから、アイドを指した。

 大きな木箱を指す。

 中へ入れという仕草をした。


「おっさん、囮に採用されたぞ」

「違う」

「自分を指して、箱を指したじゃん」

「箱の陰に隠れると言ったんだ」

「向こうには箱の中って伝わった」

「訂正しろ」

「語彙が足りない」

「ええい! 役に立たんな、ニセ令和!」


 村人が箱の蓋を開けた。

 アイドを手招きする。


「最終面接だぞ」

「楽しんでるだろ」

「信用を稼げ、クソ昭和」

「覚えてろよ」


 アイドは箱の中へ入った。

 かなり大きい箱なので、体を丸めれば収まる。

 蓋は完全には閉めない。

 紐を引くための隙間も残す。


「狭い?」

「四十六歳を折り畳むな」

「セット商品の収納状態だな」

「返品するぞ!」

「誰に!?」


 罠が設置された。

 小屋の中に餌。

 斜めに立てた箱。

 棒につながれた紐。


 紐の先は、アイドが入った箱まで伸びている。

 俺とリィナは、小屋の外側へ隠れた。

 村人たちも少し離れる。

 静かになった。


 待つ。

 何も起きない。

 鳥の声。

 風の音。

 箱の中から聞こえるアイドの呼吸。


「おっさん、うるさい」

「息を止めろって?」

「小さくして」

「死ぬぞ」


 リィナが俺の腕を叩いた。

 静かにしろ。

 そういう顔だった。


「すみません」


 俺は口を閉じた。


 待つ。


 さらに待つ。


 こういう時間は長い。

 動くなと言われると、鼻がかゆくなる。

 咳もしたくなる。

 足も痺れる。


 リィナは平気な顔で穴を見ている。

 現地人つよい。

 声には出さなかった。


 止めるおっさんは箱の中だけど。

 小屋の床下から、音がした。


 カリ。

 カリカリ。


 何かが木を引っかいている。

 暗い隙間から、鼻先が出た。

 黒い。

 次に、丸い耳。

 太い前足。


「でかっ」


 思わず声が漏れた。

 リィナに口を塞がれた。

 近い。

 顔も近い。


 でも今は、それどころではない。

 出てきたものは、確かにネズミに似ていた。

 猫くらいの大きさ。

 尻尾は短い。

 前歯は長い。

 前足だけ妙に太い。


「ネズミじゃない」


 小声で言う。

 箱の中からアイドの声がした。


「仮にネズミだ」

「ネズミの方がまだいい!」

「静かにしろ!」


 仮にネズミは、鼻を動かした。

 餌の匂いを嗅ぐ。


 一歩。

 また一歩。


 箱の下へ近づいていく。

 リィナが俺の腕を強く掴んだ。


 まだ。

 そういう意味だ。

 仮にネズミが餌へ頭を入れる。

 干し肉を咥える。

 体も、箱の真下へ入った。


 リィナが指を下へ振った。


「今!」


 アイドが紐を引いた。

 棒が倒れる。

 木箱が落ちた。


 大きな音。

 土ぼこり。


 箱の中から、激しく引っかく音がする。


「捕まった!」


 村人たちが駆け寄った。

 箱の上へ重い石を置く。

 仮にネズミが暴れる。

 箱が少し動いた。


「力強くない!?」

「食料運んでたんだぞ!」

「ネズミの性能じゃねえ!」


 リィナが小屋の中へ入り、箱の隙間を確認する。

 逃げられない。

 村人たちが歓声を上げた。


 大きくはない。

 英雄を迎えるような声でもない。

 よく捕まえた。

 たぶん、その程度だ。


「やったな、おっさん」


 返事がない。


「おっさん?」


 捕獲用の箱ではない。

 少し離れた、アイドが隠れている箱を見る。

 蓋が閉まっていた。


「……クソ昭和?」


 中から、低い声がした。


「出せ」


 罠が落ちたとき、驚いた村人が蓋の上へ板を置いていた。


「おっさんも捕まってる!」

「笑うな! 早く出せ!」

「仮におっさん、捕獲成功!」

「仮にじゃねえ!」


 俺と村人二人で板をどける。

 蓋を開ける。


 アイドが、折り畳まれた状態で出てきた。

 腰を押さえている。


「大丈夫?」

「四十六歳を箱に入れるな」

「自分で入ったんだろ」

「誤解で入れられた」

「結果は出たじゃん」

「結果が良ければ説明できる」

「自分で言ってたな、それ」

「腹立つな、お前」


 捕まった仮にネズミは、籠へ移された。

 村人たちは手慣れていた。

 珍しい怪物ではないらしい。


 生活上の害獣。

 俺たちにとっては初めての捕獲だった。


「初討伐?」

「捕まえただけだ」

「経験値入った?」

「表示がないから分からんな」

「チートなしって、達成感まで自己申告なの?」


「腰痛は入った」

「状態異常じゃん」


 倉庫の穴は木板と石で塞がれた。

 食料も別の場所へ運ばれた。

 破れた袋の中身は、使えるものと捨てるものに分けられている。

 村人たちは、もう俺たちを疑う顔では見ていなかった。


 倉庫の男がアイドの前へ来る。

 何かを言う。

 頭を下げた。


「謝ってる?」

「疑ったことと、手伝ったことへの礼だろうな」


 アイドも頭を下げた。

 営業スマイルではない。


「何て返した?」

「気にするな」

「日本語で?」

「顔で押した」

「便利に使うなー」


 夕方。


 俺たちは村のまとめ役に呼ばれた。

 広場には、リィナ。

 倉庫の男。

 門番。

 捕獲に参加した村人たち。


 村の男は、俺たちへ指を三本見せた。

 一本ずつ折る。

 三日間が終わった。

 次に、村の外を指す。


「追放?」

「最後まで聞け」


 男はすぐに首を横に振った。

 今度は村の中を指す。

 俺たちの寝床を指す。


 食べる仕草。

 働く仕草。


「残っていい?」

「働く限りは、だろうな」

「契約更新?」

「合格だ」

「害獣駆除までやって、やっと?」

「信用は積み重ねだ」

「体力仕事ばっかり積み重なってるんだけど」


 男は、布に包まれたものを持ってこさせた。

 中から出てきたのは。


「スマホ!」


 俺は受け取った。

 黒い板。


 電源を入れる。

 画面が光る。

 残り、26%


 1%しか減っていない。

 使っていないから当然だ。

 それでも、少しだけ安心した。


「文明が戻った」

「一つだけな」

「ライターは?」


 アイドが身振りで火をつける仕草をした。

 村の男は首を横に振った。


「返してもらえないって」

「俺のだぞ」

「信用が足りない」

「害獣まで捕まえたのに?」

「火だけ審査が厳しいな」

「文明の一部が人質になってる!」


 さらに、小さなものを渡された。

 金属の丸い板。

 三枚。

 銅色をしている。


「……金?」


 アイドの目が変わった。


「おっさん、急に真剣になるな」

「金だぞ」

「いくら?」

「分からん」

「じゃあ価値も分からないじゃん」

「金は金だ」

「急に原始的になったな!」


 俺たちは一枚ずつ受け取った。

 残り一枚を見て、アイドと俺は顔を合わせた。


「どう分ける?」

「俺が二枚」

「何で?」

「作戦を立てた」

「罠を見つけたの俺だろ」

「箱に入った」

「それ、自分のミスじゃん」

「囮だ」

「囮になってない!」


 リィナが三枚目を取った。

 俺たちを見る。

 そして、自分の胸を指した。


「リィナの分?」

「生態を見抜いて、餌を選んだ」

「三等分か」


 文句はなかった。

 俺たちは一枚ずつ持つ。


 この世界で初めて手に入れた金。

 何が買えるのかは分からない。


 パン一個かもしれない。

 水一杯かもしれない。

 何も買えないかもしれない。


 でも。


 働いて得た。

 そのことだけは分かった。

 村の男が、さらに荷車を指した。

 道を指す。

 地面へ、家をたくさん描く。


「町?」


 アイドが反応した。

 昨日、門の話を知るなら町へ行けと言われた。


 男はうなずく。


 次に、俺たちを指す。

 荷物を運ぶ仕草。

 荷車を押す仕草。


「町へ行く荷車を手伝えば、同行させる?」

「そういうことだろうな」


 アイドは即座にうなずいた。


「待てよ」

「何だ」

「俺の意思は?」

「町へ行きたくないのか?」

「行きたいけど」

「交渉成立」

「また雑に労働力として売るな!」

「旅費が労働で済むんだぞ」

「異世界に来てから俺、ずっと引っ越し業者なんだけど!」


「若さは財産だ」

「俺の財産、肉体労働にしか使われてねえ?」


 三日間の試用期間は終わった。

 俺たちは、村から追い出されなかった。


 信用されたわけではない。

 仲間になったわけでもない。

 食料を盗んでいないことが分かり。


 仮にネズミを一匹捕まえ。

 ようやく。

 働ける不審者から。

 しばらく置いてもいい不審者へ昇格した。


 そして、次の仕事も決まった。


 行き先は町。

 業務内容は。


「荷物運びだな」


「またかよ!」

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