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チートなし! 相方あり!?  作者: niwa.


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第十五話 村に着いた。なお入れない

 村が近づいてきた。


 屋根が見える。

 畑が見える。

 柵が見える。


 人もいる。

 遠くから眺めていたときは感動した。


 人間の住む場所だ。

 森ではない。

 壁がある。

 屋根がある。

 夜になっても、黒い犬みたいな何かに囲まれずに済むかもしれない。


 そう思っていた。

 近づいてみると、村の周りにある木の柵は、思っていたより高かった。


「……あれ、入れてくれるよな?」

「ここまで荷物を押してきたんだ。門前払いはないと思いたいな」

「思いたい、なの?」

「決めるのは向こうだからな」

「急に不安にさせんなよ」


 村の入口には、木で作られた門があった。

 城門みたいな立派なものではない。


 太い木を左右に立てて、その間を横木でつないだだけ。

 荷車が一台通れるくらいの幅があり、横には見張り用らしい小さな台がある。


 そこに男が二人立っていた。

 槍を持っている。


「また槍?」

「人間社会では初対面の挨拶なんだろ」

「嫌な文化だな!」


 一行の先頭が門へ近づく。

 野営地の責任者が、門番に片手を上げた。


 知り合いらしい。

 何か言葉を交わす。

 門番も少し表情を緩めた。


 荷車が一台ずつ門を通っていく。


「普通に入れそうじゃん」

「油断するな」

「何で?」

「俺たちは普通じゃない」

「自覚あったんだ」

「お前も含まれてるぞ」

「俺は普通の十八歳だよ」

「異世界で荷車を押してる普通の十八歳か」

「状況のせいだろ!」


 俺たちの番になった。

 門番の一人が、俺を見た。

 次に、アイドを見る。


 視線が戻る。

 また俺を見る。


「……見られてる」

「珍しい服だからな」

「おっさんの顔が怪しいんじゃない?」

「お前の目つきだろ」

「営業スマイル出してみろよ」

「安売りはしない」

「今が使いどころだろ!」


 門番が片手を上げた。

 止まれ。


 言葉は分からなかった。

 でも、その仕草は分かる。


 野営地で最初に覚えた現地語も聞こえた。


「――!」

「待て、だ」

「今回は言われる前に止まってる」

「成長したな」

「褒め方が犬なんだよ」


 俺たちの後ろで、荷車も止まった。

 責任者が戻ってくる。

 門番が俺たちを指さし、何かを尋ねた。

 責任者が答える。


 森を指す。

 リィナが乗っている荷車を指す。

 俺たちを指す。


 荷物を持つ仕草もした。


「説明してくれてる?」

「森で拾った働ける不審者です、くらいだろ」

「もう少し良く言ってくれ」

「昨日まで刺す候補だったんだ。十分だ」


 門番は納得しなかったらしい。

 首を横に振る。

 俺たちを村の外側へ指す。


「え」

「まだ入れるな、かもしれん」

「ここまで来て!?」

「村にとっては、ここからが初対面だ」

「信用、引き継げないの?」

「別部署だからな」

「異世界にも縦割り行政あるのかよ!」


 責任者は、少し強い声で説明を続けた。

 門番も引かない。

 二人の声が大きくなっていく。

 喧嘩ではないと思う。

 たぶん。

 ただ、俺たちを入れていいかで揉めているのは分かった。


「何かできない?」

「今、俺たちが前に出ると余計に怪しい」

「じゃあ営業は?」

「担当者同士が話してるところへ、資料なしで割り込む営業は嫌われる」

「急に実用的な話すんな」


 前の荷車から、リィナが下りようとしていた。

 隣にいた女の人が止める。


 リィナは首を横に振った。

 杖を受け取り、ゆっくり地面へ足を下ろす。


 怪我をした右足は、まだまともにつけない。

 それでも、こちらへ歩こうとする。


「リィナ」


 俺は反射的に近づこうとした。

 門番の槍が動いた。


「止まった方がいい」

「分かってるよ」


 リィナは、女の人に肩を借りながら門まで来た。

 門番が驚いた顔をする。


 リィナが何かを話した。


 森。

 怪我。

 俺たち。


 身振りは昨日から何度も見ている。

 水を飲む。

 火を使う。

 食べる。

 足を支える。


 リィナは何度も俺たちを指した。

 門番は俺たちを見る。

 まだ疑っている。


 リィナが、さらに何かを言った。

 声が強くなる。


「怒ってる?」

「門番に、ちゃんと説明してるんだろ」

「俺たちのために?」

「他に何がある」

「いや、でも」

「助けた分が返ってきてるんじゃない」


 アイドが言った。


「信用した相手を、途中で放り出したくないんだろ」

 リィナは俺たちを助けようとしている。


 森で会ったとき、彼女は刃物を向けていた。

 今は、槍を向ける人間の前に立っている。


 言葉は分からない。

 でも、それくらいは分かった。


 俺は断じて泣いてない。

 だけど涙腺が緩みかけた。

 あぶない。


 門の内側から、何人かが出てきた。

 村人たちだ。

 一行が戻ってきたことで集まってきたらしい。

 その中から、一人の女の人が飛び出した。

 年齢は三十代か、もう少し上か。


 髪を後ろでまとめている。

 腕をまくり、腰には小さな袋をいくつも下げていた。

 リィナを治療していた人とは別人だ。


「リィナ!」


 名前だけは分かった。

 女の人は、リィナのところまで駆けてくる。

 そして。

 強く抱き締めた。

 リィナの顔が歪む。

 怪我した足に響いたらしい。

 女の人は慌てて体を離した。

 今度は、リィナの顔を両手で挟む。


 泥。

 傷。

 足の包帯。


 一つずつ確かめている。

 声が震えていた。

 怒っているようにも聞こえる。

 泣きそうにも聞こえる。

 たぶん、両方だ。


「家族かな」

「師匠かもしれん」

「分かるの?」

「腰の袋。リィナと一緒にいた女と似てる」


 薬草を入れる袋。

 そういうことかもしれない。

 女の人は、リィナの肩を軽く叩いた。


 何かを強く言う。

 リィナは目をそらした。


「怒られてる」

「心配してたんだろ」

「帰ってきて早々、説教か」

「帰ってきたから説教できるんだよ」


 アイドの声が少しだけ柔らかかった。


 娘がいる。

 ふと、それを思い出した。


 リィナには、帰ってきたことを喜ぶ人がいる。

 心配して。

 怒って。

 抱き締める人がいる。


 いいことだ。

 間違いなく、いいことのはずだ。


 なのに。

 俺は少しだけ、目をそらしたくなった。


「ニセ令和」

「何」

「荷車、邪魔になってる」

「分かってるよ」


 俺は荷車の横へ寄った。

 考えても仕方がない。

 ここは俺の家ではない。

 現実の家でもない。


 ただ、今夜寝られるかもしれない場所だ。

 それで十分だ。


 たぶん。

 リィナは女の人に何かを説明した。


 俺たちを指す。

 女の人の視線が、こちらへ向いた。


 さっきまでの感情が、一度に消える。

 警戒。


 それから、戸惑い。

 俺とアイドを交互に見る。


「また不審者を見る顔」

「慣れてきたな」

「慣れたくなかったよ」


 女の人がリィナへ尋ねる。

 リィナがうなずく。

 足に巻かれた布を指す。

 森を指す。

 俺たちを指す。


 女の人は、しばらく黙った。

 それから俺たちへ向かって、深く頭を下げた。


「……礼?」

「だろうな」


 俺も慌てて頭を下げた。


「いや、どうも」

「日本語で返すな」

「他に何があるんだよ」

「笑顔」

「おっさん担当だろ」

「今のお前の方が自然だ」


 アイドも頭を下げた。

 営業スマイルではない。

 普通の顔だった。


 女の人はもう一度リィナを支え、村の中へ連れていこうとした。

 リィナが振り返る。

 俺たちを見る。

 足を止める。


「行けよ」


 当然、通じない。

 俺は村の中を指した。


 リィナを指す。

 女の人を指す。


「大丈夫。こっちは何とかする」

「言葉が通じない相手に強がるな」

「顔だよ」

「使いこなしてるな」


 リィナは迷っていた。

 けれど、最後には小さくうなずいた。


 女の人と一緒に、門の内側へ入っていく。

 村人たちが彼女を囲む。


 声をかける。

 肩に触れる。

 無事を確かめる。


 リィナの姿が、人の間に隠れた。


「行っちゃったな」

「帰ったんだろ」

「……そうだな」


 俺たちは、まだ門の外にいた。

 リィナは村人。

 俺たちは、村の外の人間。


 分かりやすい。

 かなり分かりやすい境界線だった。


「で、俺たちは?」

「ここから営業だな」

「さっき割り込むなって言ってたじゃん」

「担当者の話が終わった」


 アイドは一歩前へ出た。

 門番が槍を上げる。

 すぐ止まる。


「出勤早すぎるだろ」

「営業機会は逃さない」

「命も逃がすなよ」


 野営地の責任者が門番へ何かを説明した。

 今朝の作業を示すように、荷車を指す。

 俺を指して、荷物を担ぐ仕草。


 アイドを指し、荷物を積み直す仕草。

 次に、村の中と俺たちを交互に指す。


「働けるって言ってくれてる?」

「同行中に問題を起こさなかったこともな」

「箱落としたけど」

「黙ってろ」


 門番の一人が、地面に置いた俺たちの荷物を指した。


 スマートフォン。

 財布。

 鍵。


 そして、責任者が預かっているライター。


「また検査?」

「村として確認するんだろ」

「信用、引き継げてないじゃん」

「野営地の責任者が証言してる。少しは引き継げてる」


「少し?」

「槍でつつかれてない」

「基準が低い!」


 責任者はライターを布に包んだまま門番へ見せた。

 中身は出さない。


 何かを強く言う。

 門番も布を開こうとはしなかった。


「危険物だって説明してる?」

「扱い方の分からない道具だから、預かったままにするんだろうな」

「俺の文明、返ってこない」

「信用を稼げ」

「火を返してもらうために働くの?」

「文明は高いぞ」


 門番たちは、しばらく話し合った。

 村の奥から、別の男も呼ばれた。

 白いものが混じった髪。

 細い体。

 長い杖。


 老人というほどではないが、責任者よりは年上に見える。

 村のまとめ役かもしれない。

 男は俺たちを見た。


 所持品を見る。

 野営地の責任者の説明を聞く。

 村の中にいるリィナを見る。


 それから、地面へ指で三本の線を引いた。


「三?」

「三日かもしれん」


 男は太陽を示す。

 指を三本立てる。

 俺たちを指す。


 次に、荷物を運ぶ仕草。

 木を切る仕草。

 食べる仕草。


「三日間、働けば置いてくれる?」

「三日間だけ滞在を認める。その間は働け、じゃないか」

「三日後は?」


 男は村の外を指した。


「更新審査だな」

「追放だろ!」

「働き次第では延長できるかもしれん」

「急に派遣社員みたいになったな」

「職歴ができたな」

「異世界で最初の職歴が期限つき不審者!」


 男はさらに、いくつかの身振りをした。


 夜。

 村の外。

 火。

 首を横に振る。


「夜は出歩くな」

「勝手に火を使うな」

「村の奥にも行くな、かもしれん」

「禁止が多い」

「信用がないからな」

「リィナを助けたのに?」

「感謝と信用は別だ」


 アイドはさらっと言った。


「助けたことには礼をする。でも、正体不明なことは変わらない。まともな判断だ」

「また正論」

「人間社会へ来たからな。正論が増えるぞ」

「森に戻りたくなってきた」

「本気か?」

「嘘です」


 村の男が、俺たちへ手を差し出した。

 握手ではない。

 待て、という形。

 門番の一人が、俺たちの荷物をまとめる。


 スマートフォンも。

 財布も。

 鍵も。


「え、持ってかれる?」

「一時的に預かるんだろ」

「スマホは困る!」

「使い道ないだろ」

「あるよ!」

「何に?」

「……時間を見る」

「空を見ろ」

「写真もある」

「今見る必要あるか?」

「ないけど、俺のだ!」


 俺が手を伸ばすと、槍が少し動いた。

 止まる。


「ニセ令和」

「分かってる」


 スマートフォンを持っていかれる。

 ポケットが軽くなった。

 森で荷物が軽くなったときとは違う。

 自分の一部を預けさせられたような感覚だった。


「返ってくるよな?」

「三日間、真面目に働け」

「おっさんもな」

「俺は信用されやすい」

「その顔で言うな」


 村の男が、ようやく門の内側を指した。


「……入っていい?」

「だろうな」

「本当に?」

「たぶん」

「ここまで来てもたぶんかよ!」


 俺たちは門をくぐった。

 村の中へ、一歩入る。


 土の道。

 木の家。

 低い石垣。

 庭先に干された草。

 走っていく子供。


 何人もの村人が、俺たちを見ていた。


 作業の手を止める。

 小声で何かを話す。

 子供が親の後ろへ隠れる。


「歓迎されてる?」

「珍しがられてる」

「嫌われてる?」

「まだ判断中だ」

「ずっと審査されてるな」

「人間社会だからな」


 俺たちは、村の端にある小さな建物へ連れていかれた。

 倉庫みたいな場所だった。


 壁はある。

 屋根もある。

 扉もある。

 中には、干し草を詰めた袋が二つ置かれていた。


「屋根だ」

「屋根だな」

「壁もある」

「文明人の感動が原始まで戻ってるぞ」

「森で寝てから言え!」


 俺は干し草の袋を押した。

 柔らかい。

 少し臭い。

 でも、地面ではない。


「ベッドだ」

「寝床だな」

「ベッドってことにしろよ」

「現実を見ろ」

「今だけ夢を見させろ!」


 建物の外には、さっきの若い門番が立っていた。

 槍を持ったまま。

 俺たちが中へ入ったのを確認し、扉の近くへ移動する。


「おっさん」

「おう」

「これ、宿?」

「半分はな」

「残り半分は?」


 アイドは入口の見張りを見た。


「留置場」

「不審者から昇格してねえ!」


 村には入れた。

 屋根も手に入った。

 壁もある。


 ただし。

 外から見張られてる。


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