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アルメリア戦線、前哨戦

戦争とはすでに始まっているのです。


侵略もまた然り




始まりはいつも静かな朝からだった。

誰よりも早く目を覚ましたオスカーロイルは窓の外から、変わらない日常を見つめる。

ベッドから抜け出し、椅子に腰掛けメイドが部屋に持ってきた紅茶をひとくち嗜み、ふぅと息を吐く。



誰よりも強く穢れなき白騎士団



その誇りを誰よりも噛み締めていた。

噛み締めていたからこそ、魔神は自分たちを信じて皇女捜索の任を与えてくれると信じた。

だがそれは一瞬にして崩れ去った。






『日本という異世界の住人に我が娘の捜索を頼んだのだ

彼の方達ならばきっと

それにあの子はどこか娘と同じ感覚だ

何かがとても似ているよう』





魔神、アルバス・アストライオスの突拍子もない発言にオスカーだけではなく参謀達もざわめき流石にダメだと言ったが魔神の全てを見抜く千里眼は、全てを予知していたのだ。

全てを予知し見透かしている。

きらりと輝いた瞳の奥にはどこか澄み渡る青い空が映っている。

あの女(るか)や男(しのぶ)が見てきた空と同じ物を投影しているようにすら見えた。





「坊ちゃん、さぁ行きましょう

白騎士団だけではなく、ロイル家にかけられた泥を拭うのです」


「母上…もちろんです」




真紅のドレスに身を纏い、赤い髪を高くまとめてロイル家の高潔さを現れす、ルビーのネックレスをつけたいかにも貴族的な女性がオスカーの座る椅子の対面に座る。

オスカーの母でありロイル家当主のダリア・ロイルだ。


今回の一件で決闘契約を持ち込んだ話も当然の事のように知っている。

おまけにオスカーに行けと言ったのはダリア自身だ。




「あなたが前に話していた湖の聖女があなたに力を授けてくれたのでしょう?

それなら貴方には、誇り高きロイル家の力と交わり合って強くなっているわ」


「もちろんです母上

今夜は決闘前夜の懇親祭

向こうの出端をまずは挫いてやりましょう

それから本戦で相手を潰す!

この国で一番強いのは我々であると示してやります!」


「もちろんよ!

それにしても、湖に現れた聖女様の伝説は聞いたこと…

あら、何か言おうとしたかしら?

でも素敵ね、ピンク色の淡くなびく髪。

全てを見通す金色の瞳

包容力を兼ね備えた、まさに聖女様ね

どこかの聖女(アリシア)様とは別物ね」





瑠香達が王凌府(ヘラクシス)を離れ数週間後、塞ぎ込むオスカーを見かねたダリアがロイル家の精錬の場として抱え込む湖で、不思議なことに聖女とも女神ともどちらとも言える可憐な女性を見たのだ。


その女を湖の聖女として祭り上げ、その恩恵に絶対防御の鎧と必勝の剣。

そして王としての征服のスキルを獲得したのだ。



「参りましょう」



この鎧は変化する。

ロイル家の証として白い肋骨服に金の装飾、赤いマントを羽織って歩き出す。









日本時間の19時頃。


この日、城の一角にある大聖食堂(アヴリキ)はざわめいていた。

普段この場所を使うことは全くと言っていいほどない。

あまり魔神自身も、大人数での会食というのはやらず王家とは言えど質素に自炊するくらいだ。

家族3人、たまに娘や息子の友人が遊びにきて食事をとる程度。



「父上…大丈夫ですか?」


「アルバスよ、あまり無理してはならないぞ」



「クロノ、オリオールさん…いやすいません

あまりこういったことをやらないものなので

それにしても、あいつの匂いがするのが気になるのですが」






催しが滞りなく行われ、人間や精霊だけではなく他の種族の下級上級関係なく貴族や騎士団そして当然にもロイル家の2人が歓談を済ませ、魔神の元に挨拶にやってきたりとひっきりになし流動する。


だがこの会食の中にあの見られた面子はいない。

たった短い間でダメ親父同好会という妙な友情を育んだ愛おしき財前誠もいない。

ルーシーがどこか寂しそうに辺りを見回しては、数々の貴族や種族と挨拶を交わす。



「…どうしたのかしら?」


「ルーシー…大丈夫だよ

瑠香ならちゃんとくるから」


「よほどの事情があるんだよ

日本も大変だって聞いてるし」


「ロイル家の人たちのニヤケ面ムカつく

一回ひっぱたいて来るわ!」


「アリシア姉ぇ引っ叩いたらダメ

蹴飛ばそう?

クラリスも手伝うから」


「…女子って怖い」


「ちぃ(わかる)」





ルーシーを囲うようにアリシアやニコル、ティナとウィルムが慰めるどころかオスカー・ロイルに牙を剥こうとしていた。

なぜかシャドーボクシングを始めようとするシェリルを静止させず7人の攻撃性が加速的に昂り始めていた。

オスカーだけではなくダリア自身もにやけた様に陸自のメンツが来ないことを鼻で笑い、他の貴族ですら白騎士団の決闘相手が来ないことに勘付き始め、まだ来ないのかとざわめいていた。




「このまま来なかったら、敵前逃亡扱いになる

まずいわ」


「大丈夫…」




『すいません遅くなりました

色々と立て込んでいたのでね』





大聖食堂(アヴリキ)の大扉の前に今一番ある種の救世主が登場した!

ざわめきがさらに大きくなり、ロイル家以外がどこかほっとした顔をした。

紺色の制服にズボンには金色のストライプが一本、

クリーム色のシャツに胸元には記念証がずっしりと並ぶ。

金色の月桂冠をあしらった帽子のツバからは琥珀色の目が

きっとオスカーを睨むように捉えていた。

その隣に立つ男も目つき鋭く、オスカーを見据える。




一瞬で温和な顔になる財前を見て、ほっと胸を撫で下ろしたルーシーとアルバス。

だがかつて瑠香と共に行動をした人間は明らかに人数が足りないことに気がつき、大丈夫かと心配になり始める。




「あら、今になっていらしたの?

遅いわねぇ?

他の方達はお見えにならないの?」


「申し訳ありません

現在参加者のほとんどが全員で出払っておりまして

帯同できたのが私の部下の田中だけになります

訓練中ということになります」


「訓練…って今更なんですの?

まあなんでもいいですわ

あなた方の弱さが露呈した様なものですし」





ダリアの不敵な笑みを気にもせず財前誠は後ろで隠れるように立つオスカーを見て、何も言えない顔をした。

彼もまた母親を真似るように鼻で笑うように財前を見下していた。

そういうことかと理解し、隣で立っている田中に耳打ちをすると察したかのように何度も頷く。




「我々はこれで…

まだ訓練終了の目処が経っていないのですよ」


「あらあら

我々アルメリア皇国が誇る白騎士団のオスカーロイル団長に何もいうことはありませんの?」


「ことを荒立てるのが得意ではないということです

皇王、アルバス・アストライオス様

我…

陸上自衛隊は決して貴国と戦闘がしたいわけにありません

それだけはご理解いただきたい!」


「もちろんですとも!」


「座興はこれにて

オスカーロイル殿…これだけはお伝えしようと」


「なんだ、弱き軍人!

自衛隊も大したことはないと…明日それを証明しよう!」


「弱いのは、ある意味そうかもしれませんね

ですが、あなたもくれぐれもお気をつけを

家の鍵はきちんと閉めることです

…おぅ!」




ぐるりと振り向き、大聖食堂(アヴリキ)から出ようとした瞬間に後ろに立ちすくむ瑠香と衝突しそうになる。

今にも叫びそうになるティナとニコルにごめんと詫びを入れると今にもマダオになろうとする財前。

まだまるでゴミを見るような目で見つめ、実父を無視して田中に迎えにきたとだけ報告し、財前を完全に無視した。




「ルーシーさん、後で裏口にお土産置いてきたからみんなで飲もうね」


「まさか…あれですの!?」


「「「「「「まさか、あれなの!?」」」」」」



どうしても瑠香に会いたかったティナ達が駆け寄るとニヤリと笑い、裏口にたくさんのお土産を置いてきたとわざとらしく不敵に笑う。

大聖食堂(アヴリキ)はドレスコードが決まっているが故、迷彩服をきた状態では汚れてしまう。

そのためずっと扉の前で待ちぼうけをしていたのだ。

さらに一国の皇女に無礼がないように友達として、参加できないことにも、もどかしさを覚え帰ることを見計らって入ってきたのが真実だ。




「後で飲もうね

えぁぁさひゅぃぃぃい

すっぅうーぷぁぁぃあ」


「「「「「「「どぅらぁぁぁぃぁぁあいえぇ」」」」」」」


「「えっ、ずる」」


「ずるい」


「「俺も欲しい」」



おバカの集まりにロイル家以外の人間は仲の良さにやきもちを焼き、仕事できていたはずの財前や田中も手がどこか震え始め、前々からルーシーから聞いていたのだろう。

アルバスやルーシーの兄のクロノが物欲しそうに、ルーシー達を見つめる。

何より己が飲んでいるはずの葡萄酒を見てどこか物足りなさを覚えるオリオールに





これなんの懇親会というか前哨戦だっけ?





と皆が思い始めた。

そのまま立ち尽くす財前を、放って瑠香は田中やルーシーに、ティナとそうそうたるメンツを連れて外に出る。

あっと気がついた財前が、さみそうに足をセカセカと動かしながら外に出ていった。

夜の庭園が見える窓からはあらかじめ馬車が留め置かれていた。

その間を縫うように将官用の標識が置かれた高機動車と全員が乗り込めるようなマイクロバスが停車した。

そしてなんでお前達がきたと言いそうになるが、黒い覆面パトカーらしい車両が赤色灯を光らせている。




わいわいと騒ぐ一行を部屋からに暮らしそうに見ていたアルバスに、クロノはそっと肩に手を置いて首を横に振るう。




ダメだよと。



メンツは保たれていたはずなのに悔しそうにするオスカーと全ておいて置いてけぼりをくらったダリアが立っていた。




なんでこうなったのかと。

すでに侵略されています。

ロイル家の別荘地の湖で見た聖女が出てきました。


しかしダリアが言いかけたようにそんな聖女いないのです。

ですがオスカーは瑠香達に勝ちたいがために、壊れた埃を取り戻すために知らず知らずのうちに最低な方向に走っていました。


ダリアが何か言いたげにしてましたが、記憶が消されたかのように妙な正気を取り戻したのが結果です。


アルバスがあいつの匂いと言っていたように敵の何かを感じたのです。

一番会いたくない敵の匂いを感じ取ったのです。



みんな気が付かないのではなく気が付かないのですから。

みんな最後はワイワイしてましたがそんな余裕はなくなります


次回もお越しください

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