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帰還者たち

いいことが起きれば必ず悪いこともセットになってやってくる。

呪いは流してはくれないのです。





「よくぞご無事でした!

皆さんのお怪我の具合はいかがですか!

精霊府(ニュンペリオン)府知事兼ねて組合長(ギルドマスター)のハルウェルが誠心誠意、真心込めてお世話させていただきます!」


「うるさいですよ、ハルウェルさん!

治療は私たち門の一族が執り行います!

このイプシロン・フェリウス・ウィナーがきちんとお助けします!」


「もう黙っていてください!

イプシロン君もいろいろあるんでしょ!」


「うるさいのはそっちですよハルウェルさん!」









ヒドュラ盗賊団が街を荒らし、なんとか奮闘し撃退に至り数日が経とうとしていた。


忍が大暴れし、無限共鳴(インフィニティレゾナンス)を発動させた爆心地は跡形もなく吹っ飛んだ。

なんてことはなく真逆のことが起きた。


固有結界が発動されたことにより、元来その場所にあった家屋や施設はほとんど無傷に近い状態で残っていたのだと言う。




「きっと忍さんの無限共鳴(インフィニティレゾナンス)は破壊の性質と創造の性質の両方を持ってるのかもしれないわね」




なんてレイラが言うのだから、ティナは忍のことが尚更わからなくなっていた。

だが一つ言えるのは彼自身が、神と呼ばれる存在と人間との間の境界を行ったり来たりできる稀有な存在ということだ。





「ところで、ティナさんと瑠香さん

お二人に聞かなければならないことがあります」




プロキシマ街にある総合療養院で2人仲良くベットで寝転んでいた。

見舞いに来たハルウェルとイプシロンが、訝しげに2人の様子を見て、それに反応する様に瑠香達の顔色も若干ながら暗くなった。


無論2人が聞きたいことは、あの敵のことでしかない。




「なぜ、マーガナルムは3人を助け出したのでしょう?

瑠香さんの言葉を信じるなら、私は腑に落ちないのですよ」





プロキシマに強制送還され、ニコルに助け出された後。

転移魔法で瑠香達は無事に帰って来れた。

だが同時に、瑠香が乗ってきた偵察用オートバイは朽ち果て呪いの残穢が酷く付着し原型を留めてなどいなかった。


魔法で生成されたものは数時間が経つと消えて無くなるが、瑠香が頼んで生成してもらったオートバイばまだまだ普通に動けるほどの魔力と、忍から貰った神力がチャージされているため3日は平気で動く仕様になっていた。


試しにマリウスが瑠香の言っていた通りにエンジンを始動させようとアクセルを握るが土塊に変化し、ボロボロと音を立てて崩れた。







「もう一つ、気になることがあります

なぜ、マリウスさんは残穢に塗れたオートバイに触れられたのでしょうか?」


「なんでってそんなにおかしいことなんですか?

イプシロンさんは、何をマリウスに疑ってるんですか?」


「ねぇ、お父さん

マリウスには呪法耐性以外に何かあると思ってるの?」


「イプシロンさん、ハルウェルさん

何をお互いに見合わせてるんですか?」





何かを示し合わせた通り、イプシロンとハルウェルは互いを見合いニコルのベットの上に白い布で包まれた何かを置く。


嫌々ながら手に取りティナは、布をめくり中身を見つめて硬直し、心配になった瑠香も顔色を伺った後に中身を覗き込んで硬直した。



「小鳥が…」



「呪いの影響というのは多かれ少なかれ、何かしらの形で影響を受けます

オートバイというものの、残骸を我々の方で回収しようとした時、その小鳥が留まりました

その瞬間、こうです」


「ルベルト家は確かに初代様からずっと呪いに対する耐性が加護として備わっている稀有な家系です

ですが、どれほど加護が付こうと呪いの影響は計り知れません」


「だけどルベルトは違うと?」





窓の向こうで遠くの方を見るハルウェルは、マリウス自身に耐性だけではない何かを確信している様にしか見えない。


陽の光があたり逆光で顔色は窺えない。

影だけが伸びていき、ティナの手元に今にも朽ち果てようとした小鳥を飲み込んでいく。


答えるには証拠が足りない。

だがマリウスは確実に、人ではない何かしらの力をずっと秘めている。

妻となったアリシアも知らない何かを隠してるのだ。




「考えたところで答えは出ません

ですがルイスや私を含めて、エルフという種族はいずれやってくる最悪を見抜くことができます

…遠くからずっと、ヒメネスの悲鳴が聞こえているのです

これも答えなのです」





禁足地方向を眺めながらハルウェルは、苦い表情を浮かべイプシロンも同調する様に長くため息をつき、そっとティナの手元から布を取り上げて部屋の外に出ていった。

震えるティナをそっと抱きしめて瑠香はただ優しく背中をさする。



「大変大変!

しんみりしてる場合じゃないの!

忍がまた病室で暴れ散らかしてる!」


「「またぁ!?!?」」


「そうです

もう一つ、聞き忘れてました

…忍さんってなんで暴れられるんですか!?」


「「「それを私たちだって知りたいです!!」」」


「みんないたのか!

頼むから抑えるの手伝ってくれっちぃ!

忍のやつ暴れてどうにもできないんだよ!」





プロキシマ街の療養院には、暴れる患者に対する拘束道具を持ち合わせていない。

そうなれば鎮静化する魔法をかけてしまうのが定石だそうだ。

忍もまた暴れて看護婦による鎮静魔法(フリージング)を、かけられたが意味がないのだ!

バーサーカー忍が爆誕したのだ!



「とりあえず、俺が案内するから来てくれよ!

シェリルが怖がって、ずっと病室前で泣いてるんだよ!」


「頼んだウル…じゃなくてウィルム!」


「おうよ!」




病室を抜けて5人はかけ出し、重症患者が治療を受けるゾーンに突入した。

近づけば近づくほど、忍の怒号が響き渡る。

ティナとニコルは相変わらず泣きそうな顔をしており、ウィルムは頭を抱え始める。

ひ孫娘の瑠香の顔はチベットスナギツネよろしくとばかりに顔を無を浮かべる。

ところがどっこいハルウェルは、何かすごく凄い形容し難い何かを観れるのではないかと躍起になり始めた。



「ちぴぃぃぃぃ!

ちぃのぉぷぅ…」


「大丈夫だよシェリルちゃん

今から増援が来るから!」


「相変わらず凄いなぉお父さんは…

アリシア、シェリルさん…みんな来たよ」


「「「「何やってんだよぉぉ!!」」」」


「これが、日本という国が産んだ鬼神の力ですか!?」


「「「「「「いえ、療養院が嫌いなだけです」」」」」」


「え?!」






小窓の向こう。

ベッドに横たわる忍に対して看護婦が8人がかりで鎮静魔法(フリージング)をかけているが全くと言っていいほど効き目がない。


おまけに看護婦を憐れんだのか。

無限共鳴(インフィニティレゾナンス)を発動させてもいないに関わらず、義烈空挺隊のメンツが現れ体を押さえつけるが暴れ倒し、また拘束をするを繰り返す。




「お前いい加減にしろ!

足をちょんぎるぞ!」


「やれるものならやってみろ麻井!

俺の体の傷は完全に治ったんだ!

肺に血も溜まってねぇ!

…瑠香、お父さんを助けてよ!

完璧に戻ったんだ、もう平気だから!」


「…療養院にたまに暴れて鎮静魔法(フリージング)を受ける人はいますがここまで凄いとは!」


「「「「「「「「感心してる場合じゃない!」」」」」」」」




もうどうしようかと頭を抱え始めたアリシアだが、病室の扉を開けて心配そうに見つめる他の患者と目が合う。





あっ、そういえば私は聖女だったわ。




そう思い立って静めの祈りを忍にかけるが意味などなかった。

やっぱりダメかと思った。

刹那…忍が暴れる病室に1人の看護婦が入り込んでいく。

どこか観た覚えのある看護婦に、全員の口が開きやったと全員がガッツポーズをとり勝利を分かち合った。



「神前忍さん!

いい加減ここで暴れるのもおやめになってください!」


「あ…あなたはぁぁぁ

海星府(アンフィートリス)でお世話になった

看護婦長殿ぉぉおぉお!!」


「覚えてくださっていて、ありがとうございます

ここに来てすぐにまさかお会いするとは…

ということで…眠ってもらいます!」


「いやぁぁぁぁぃぁぁぁぃ!!!」


「はい、麻酔!」


「ぅっ!」





プロキシマ街での事件を受けて海星府(アンフィートリス)から怪我人の治療で出向してきたのだ。

ひとしきり落ち着いた頃に運ばれてきた忍を見て、手当をしていたが元気になり始めると暴れ始める。


そして、頭を抱える英雄一行と状況のわかっていないハルウェルを見て自分がやらねば誰がやると思い立つ。

医者に何を言われてもいい。

とりあえず、10倍濃縮されたあり得ない大きさの注射器と極太注射針をつけて、忍の腕にブッ刺した。


あまりの判断の速さに看護婦も義烈空挺隊員も脱帽する。





忍が完全復活するまでの間、再び低ランク任務(ミッション)をそつとなくこなす。

哀れみと同情を込めて街の人からのお給金が多く、包まれていたのはまだまた今度の話。

呪いの残穢は確実に全てを飲み込もうとしていました。

オートバイの残骸にせよ。

ハルウェルが聞こえるという、ヒメネスの悲鳴も然りです。

ですがおかしなことにマリウスは呪いに触れても何も起きるどころか、けろっとしているそうです。

たまたま留まった小鳥は、オートバイに留まった瞬間に即死したのです。


これが何を意味するのか、ハルウェルとイプシロンは気がついたのです。

ルベルト家は確かに耐性はあるみたいですが、他にも要因があるのです。



最後の最後で忍は暴れ、海星府(アンフィートリス)でお世話になった看護婦長にしばかれてます。


復活するまでの間に流されまれたのは確かだそうです。


次回もよろしくお願いします

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