祟り神
愛するもののために、神は祟り神になりました。
事態は数分前に立ち戻る。
ティナ達が攻撃を止めて、最後の追い討ちと称してウルムが下痢になるかならないかギリギリ腹痛薬なる魔法薬をかけて腹踊りを踊っていた時だ。
「ねぇティナ、何をそんなにじっとウルムを見てるの?」
「アリシアもウルムが変だと思わない?
あの独特なステップ、どこかで見たことがあるんだけど」
「んー?
確かにどこかで似たような動きを見た気がする?」
「と言うか、レイラさんとココさんはどこに行ったんだい?」
マリウスの一声で、その場にいた全員が互い違いに明後日の方向を見始めた。
マリウス自身もなんとなく理由はわかっていた。
そう、あの2人が戦線に出ると敵味方関係なく龍の吐く豪火に巻かれ、街一つどころか国一つが崩壊しかねない。
皇軍と司法省や精霊府を管轄する司法局の仕事が遺体回収になりかねないのだ。
「という事で、2人にはプロキシマ防衛隊長を、呼びに行ってもらったの
…って言うかルイスは?」
「あいつは今、残存している衛兵と一緒に怪我人の処置をしてる
あいつの専門は回復魔法だからね」
「ニコル…なんで知ってるの?」
「私をなんだとお思いで?
あたいは聖獣族…ねぇ、ティナ!
話を聞いてるの?
ウルムばっかり見てないで、アリシアとマリウスの話を聞いてあげなよ!!」
「…もしかして、ウルムって精霊使いなの?」
「「「は?」」」
ティナの一言を聞いた瞬間、全員の身体が宙に放り投げられるような感覚に襲われた!
蹴られたのか?
殴られた?
何がどうなったかもわからないまま、気がつけば全員地面に伏せられ、さっきまでいなかったはずの敵が目の前に立っていた!
「お前…まさか!」
「お久しぶり、ウィル
今はウルムだったかしら?
妖精になって気分はどう?
どんな身体になったか、見させてもらうわ」
「やめろ、ジャス!!
ぎゃぁぁ!」
ウルムの絶叫が響き、目の前には鮮血とウルムの体を覆う紫色の羽が舞い上がる。
顔をこわばらせ叫ぼうとするニコルだが、腐臭の漂う檻の中に入れられ、棘が撒かれたような鎖に縛られて身動きが取れず、もがけばもがくほど棘が体に食い込む!
「ウルム!!
ぃ…ぃ…ゃ…やめろ!!!!」
「そんなに怖がるなよ
オオカミちゃん、おれがたっぷり躾けてやるからさぁ?」
「お前…指名手配犯の!
ヒメネスの手下!」
「ゴメイトウだぜ、オオカミちゃん
フェルイ様がご登場ダァ!」
気がつけなかった。
高速の飛礫が飛んでくる気配を感じ取れず、気がついた時には仲間から隔離され身体中には極大の羽が突き刺さっていた!
それがなん度も術者から発せられる魔法の受信機になっているのか、地面と空中を行ったり来たりを繰り返し、自分自身に防御魔法をかけるだけで精一杯だ!
「獣人種って言っても幅が広いのよね?
私みたいに翼人種って、飛ぶか羽に魔法をかけて攻撃させるしかないのよねぇ」
「この…ゲスが!
わざと…魔法士狙い…したな!」
「あら、戦略的って言ってくれる?
私と魔法士は相性悪いし
それに、私にはゾフィって名前があるの」
マリウスの悲鳴と共に、アリシアは地面に組み塞がれていた。
体に力を込めようとも、動かすことができない!
「それは…私が苦手なやつ!」
「あんたら聖女とか清らかな存在って不浄が嫌いって言うからな?
持ってきて正解だぜ」
「マリウスの血が止まらないのも!!」
「毒だろうぜ?
こいつの親父には色々世話になったからなぁ」
全員の腕に刺青が彫られていることにアリシアは気がつく。
この国は罪の程度によって、人に見える位置に刺青を強制的に入れる。
過去の冒険者から盗んだボロボロの甲冑や、袖が捲れ上がった時に見えた腕をぐるりと囲う黒い刺青と誇らしげに骸骨を真っ二つに割ったような模様。
窃盗だけではなく暴行や傷害、人を殺すことをなんとも思わず誇らしげに着飾っているようにすら見える。
「最期だから自己紹介だ
俺はべドラ、聖女を殺すものの名前だ!!」
もうダメかと思いぐっと目を瞑る。
殺意と賞金狩りの狂気が入り混じり、5人の目には絶望すら伺えた。
短い旅だが楽しかった。
そんな気を孕んで、涙がつぅっと頬を伝う。
「痛えじゃねぇかよ
…俺の体を踏んでくれるな」
「んだぁ?
忍のやつ、俺たちを呼び出すのはいいが粗いよなぁ
みんな…集合だ
その前に、汚ねぇ足をどかせ三流ども」
盗賊達の足元にはどろりと粘着質な液体が広がっている。
いや液体ではない!
固形の物質だが、弾力があり腐っているが生暖かい鉄の匂いがあたりを覆い始める!
ぐちゃぐちゃと音を立てて、ゆっくりと形を成し始める。
正体に気がついた盗賊の一味が、たまらず嘔吐をしたのをティナは不思議に思った。
だか、ティナも存在に気がつきガタガタと体を振るわせ始める。
「な…え?
これ、全部…まさか」
「お嬢様方、動かないでくださいな
応急処置は私がいたしまする
…ド三流は我らの手で」
行け
たった一言が発せられた瞬間。
盗賊の足元からは全てを拒絶する黒の壁が現れ、瞬く間に全てを飲み込んで消えた。
安心していたのも束の間グチャッグチャッと音を立てて何かのかけらのようなものが、どこかに向かって高速で集まり始める。
歪な光景に震えるアリシアだが、自分たちの目の前にもかけらが集まり泥人形が現れた思えば、背丈は176センチ程ある好青年が姿を現す。
忍と同じ、グレーの戦闘服に濃緑のマダラ模様が特徴的な
服装。
背中には重たそうにリュックを背負い、腰のベルトには弾囊と大型バックをつけ、左腕には白字に赤の十字線の入った腕章を巻き、腰には剣を履いていた。
「お初お目にかかります
私、神崎忍の上司で…彼と同じ化け物の類
オサフネ少尉と申します
早速ですが、皆さんの応急処置をさせてください
そう、忍から頼まれております故」
「「「「あ…ありがとうございます」」」」
マリウスの甲冑の隙間から狙われたかのように、脇腹から絶え間なく血が溢れていた。
だがニコリと笑い、アリシアの手をそっと退かせて脇腹に止血用の包帯でキツく抑えさらに上からぐるぐると包帯を撒き始める。
「あなたのおかげです
彼の中に入り込んだ毒は、あなたのは魔法で綺麗に流れ出てくれました
止血しながら清めの魔法をかけ続けた
あんなにも逼迫した状況化で、判断されたのかと存じます」
「あっ、ありがとうございます」
「次はウルムさんですね
でも彼は…」
ニコルやティナが必死になって呼びかけていた。
半狂乱になりながら、ニコルの上着の内側につけられたベルトからは試験管に入った高回復薬が溢れ、割れた試験管には血がついていた。
高回復薬の効力で傷や失血は治り回復しているが、息が荒く意識は朦朧としている。
こうなれば助かる活率は低い。
「ウル、ねぇ目を覚ましたよ!
あんたがいないと、あんたがいないと
あんたが作ったハーブティーが2度と飲めなくなるのよ!」
「ねぇ、前に一緒に作ったミートパイ
また一緒に作ろうよ!
お願いだからニコとまた作ってよ!
…オサフネさん?」
「…脈が弱くなってる
その魔法薬とやらをどれほどかけた?
それはただ回復させるものではないんだ
無理やり体の一部を欠損した箇所に置き換えさせる
副作用がわかっていても、どうしても助けたかったんだね」
「「そうです…」」
「ウルムくんの事、忍がよく言っていたよ
風のようにふわふわと自由だけど、大地のようにしっかりしている
小さな体で大きなことをなんでもやってのける」
「「…助けて」」
「助けられない…可能性も今は高いのだ…
いやこれは?」
小さなウルムの体が淡い光を帯び始めていた。
光は二つに分かれ、一つは小さな球体になりもう一つは成人男性ほどの背丈に分かれて光が収束する。
頭にハテナを浮かべて混乱するティナとマリウスやアリシア。
何かに気がついたかのように、ニコルが割れた試験管をじっと見つめて口を開く。
「これ、真実薬だ…色が回復薬と一緒だから間違えてかけちゃったんだ」
「ウルムさん、私の声が聞こえまするか?」
「夢の中でずっと俺のことを呼ばれてたのを聞いてたぜ
真実薬のおかげで本当に俺が何者かを思い出せた
ミートパイもハーブティーだけじゃねぇよ
俺はもっといろんなものをみんなで見ていたい
こっちのウルムだと思っていた妖精がシェリル
精霊使いのウィルム・フェリウルが俺」
ウルムことウィルムが伸ばした手をニコルが握ろうとした瞬間、人間の咆哮とも獣の咆哮とも言えない説明のし難い地鳴りが響き渡る!
とてつもない寒気と血が湧き上がるような感覚に全員が固まり音の中心地に視線を向ける。
「まずいな、忍が本当に怒り狂ってしまった
俺はあれを止めに行かなきゃ
瑠香も、瓦礫に埋もれて動けないでいるし
お願いがあるんだ…と言うより、最初からそんな気でいるな」
俺は長船栄一陸軍少尉。
そして我ら、義烈空挺隊から願う。
どうか神前忍陸軍軍曹を、元に戻してはくれまいか?
あの者は今、祟り神として暴れようとしている。
助けて頂きたい!
今回は別の方面で戦っていたニコル達にスポットライトを当てました。
ニコル達の悲鳴がなぜ起きたのかの数分前に遡ります。
片付けてやれやれと思っていた矢先に、全開ヒメネスが言っていたいつメンにやられていたのです。
不浄を嫌う性質をもつ聖女や聖獣族は、不浄や毒の作用を持つ敵にやられていたのでした。
もうダメかと思った時に、忍の仲間が現れます。
彼らこそ、忍と共にある作戦で命を落とし、忍と共に空挺の神様と祀り上げられる存在なのです。
そして、一番私も驚いたウルムの正体。
精霊使いのウィルム・フェリウルと名乗りました。
そして小さな妖精はシェリルというのです。
なぜこうなったのか、原因はジャスが鍵になります。
全ての答え合わせは次回に。
またよろしくお願いします




