無限共鳴(インフィニティレゾナンス)
祟り神化した忍が元に戻るために躍起になるお話です。
悲鳴をあげヒメネスは、鞭を振るう。
呪いや毒で覆われ、一度ふるえば強靭な刃に変わる呪物と同じ鞭を必死になって振るい続ける。
目の前にいる忍は鞭に打たれようとも、痛みを感じることがないのか、一歩また一歩と歩みを進める。
「こ…この化け物がぁ!
死ね…死ねぇぇえ!」
一閃か忍の胸を切り裂き、嫌な音を立てて血を撒き散らせ、膝から崩れ落ち、忍は刀を地面に刺し左膝を地面につけた。
完全に沈黙し、半狂乱で笑いがら逃げだそうと立ち上がる。
不意に地面に落ちた小さな紙切れを覗き込み、拾い丸めて遠くに投げた。
確か、目の前で倒れかけていた男が写っていた気がした。
「一度逃げよう、こいつの顔は覚えた
体制を立て直せば…なんで、なんでだよぉ」
嫌な悪寒を覚え、おぼつかない足取りで震えながら振り向いた。
胸からは絶え間なくドス黒い血が溢れ始め、胸からは下は真っ黒に染まり、口からゴロゴロと音をたてながら絶え間なく溢れかえる。
全てが異常だった。
普通の人間では即死級の傷を与えたはずだ。
それが神であっても同じことだと言うのに、目の前に立っている男は自我を持ち歩いていた。
「なんで、なんで生きてるんだ
なんで生きてんだよ、
くっ…来るな、来るな!!」
「がえぜ…俺の…がぞぐのじゃじん…
ゆい…いづの…ぎおぐ…がえぜぇぇぇ!!
ぎぃぃぃざぁぁぁまぁぁぁ!!」
「ひぃぃぃ!!」
「おっ…お頭ァァ!!
だだだだだだだだ!
だずげでぇぇぇげぇぇ!!」
「おい、瑠香嬢…岩のようになって動かねぇじゃねぇかよ」
「岩っていうかこれ、体で鬼の顔を表してんじゃねぇの?」
「「本当に俺らの子孫って本当…なぁ!?」」
「あっ、あそこにいた!
…何その格好?」
瓦礫の中から引っ張り出された瑠香を見る、忍と同じようにグレーのつなぎに濃緑のマダラ模様の服を着た男2人が困ったような顔をして、ニコル達を見つめていた。
ベルトには弾囊がまかれ、身体中にありとあらゆる火薬が取り付けられている。
察するに彼らもまた、長船の言う化け物や神の1柱なのだ。
ニコル達がなんとか彼らに助け出され瑠香を見て思った。
うん、鬼を体で表現しているのだと。
「瑠香嬢、これ完璧あれだろ?
あの、米国の収容所で出てきたあのあいつだろ?」
「各中隊の娯楽室に置かれてるあの漫画のアレだ
俺たちも…大昔に見たなぁ
あの漫画見ないやつは空挺隊員失格だって、どこかの空挺降下基礎課程の教官や助教が言ってたなぁ」
「ナカムラ、アサイ
ここにいる未来達が困惑しているからやめろ」
「「ごめんよぉ」」
長船の声に反応して
2人の謝罪と混乱の混じった声に、一気に緊張の糸が解けるアリシアだが余談は許されるものではない。
瑠香を助けて欲しいと言っていた長船や中村。
瑠香の体を揺さぶって目覚めさせようとする浅井の、白目が黒くなり始めているのに、ウィルムは気がついて声をかけそうになる。
彼らも状況を理解しているのか。
黒化する肉体を肌身で感じ、ティナやウィルムの不安そうな表情から目線を外し一様に遠くの方を見つめた。
色とりどりの家々が並ぶプロキシマの街並みが消えていた。
焼けたアスファルトと鉄が混じった匂いに、肌にひりつくじめっとした湿気。
嗅いだことのない油と、鼻を曲がるほどの焼ける脂の匂いが鼻腔の奥を刺激した。
「解除!
危ねぇ、魔術札がなかったら木栓に体ぶち抜かれて死ぬところだった
全身を筋肉でガードする構えと石化魔法は有効だな
あっ」
「「「「「「「「おいてめぇ」」」」」」」」
「義烈の皆さんお久しぶりです!
ちょっとなんでそんなに剣を構えんのよ!
やめてよね!」
「「「「「遊んでる場合じゃないからでしょ!!」」」」
困ったことになったなぁと、苦笑いを浮かべる義烈と名乗った3人。
だが悠長に過ごせるほど、事態は穏やかではない。
耳が潰れるほどの爆音と咆哮が入り混じった音が、ヒメネスと最初に接敵した方向から聞こえる。
「行こう…ウルム、体ちっちゃくなった?
って言うか、そっちの男の人誰?」
「俺はこっちだ
こっちにいるのはシェリル
俺っちの相棒だっち
シェリル、その紙切れ」
「もう何もしないから!
ウルムも殺さないから!!」
「こいつら…人間でも神でもねぇ
どうする…どうする!?!?」
「やめてよ…来ないでぇ!!」
「お頭ァァ、だずげでぇ」
「化け物…化け物!!」
5人を囲むように忍と仲間が、銃を向けていつでも発砲できるように引き金に指をかけ、グッと力を込める。
仲間達の視線が忍と外道5人を、行ったり来たりしているが忍は気にすることなく、軍刀を構え切先を天へと向けた!
「じがばね…ぐいなぐ…われ…ぢるなりや…
ぎざまら、もろどもげじでぐれる
じにざらぜぇぇぇえ!!」
もう誰も忍の怒りを止める事ができない。
目の前にいるのは祟り神だったと気付かされた。
凶刃が振り下ろされる刹那、目の前にいたのは緑色のマダラ模様の服を着た女がいた。
「はいはい、ひいじいちゃんやめような!
みんな生きてるっしょ!
わんつかでいいから正気に戻れ!」
「拘束!
もう、私たちは平気だからやめて!
ちゃんとティナ達を見て!」
「もうやめろ、忍
忍の大事なものはここにいるっちぃ
いるからもう大丈夫だ!」
「ちぴぴ、ちぴぴ!」
「親父、もういいんだよ!
俺もアリシアも無事だ!
でも親父がいないと意味ないんだよ!」
「そうだよ!
お父さんがいないと、私たち立ち直れないよ!」
「ニコはしがみついたら離さない…
もう、こうなったら完全獣化してやる!
我が肉体に流れる原始の魔力よ、解放せよ!
完全聖獣神化!」
「うがぁぁぁぁあ!!」
雪崩れ込むように瑠香達が忍を抱き留め、凶刃が振り下ろされまいと必死にしがみついた!
一番小さな体のシェリルですら服の裾を引っ張って止め、眩い光を発しながらニコルは、白狼へと神化した!
とてつもない重さが、一気に押し寄せられゲプっと音を立て、これでようやく動かなくなると思ったはずだった。
鍛えられた軍人の体は同じく鍛えられているはずの6人の体を押し除け、敵を殺そうと異常な執念が突き動かす。
「もう、良さないか神前よ!
お前の怒りはもっともだ
だがそれをすればお前はこいつらと一緒だぞ!」
「おざ…ぶねぇ!」
「こいつらを刺身にしていいのでありまか!
憎めば何も生まれぬと知っていましょう!?」
「ながむらぁぁぁ」
「我らは父にも兄にもなれず、家族のもとに帰れなかった
故に今、神前をみて父兄になる気持ちを味わえた
それを壊そうとするな!」
「あざぃぃい!!」
「兄貴…もうやめてくだせぇ
俺たちをこの子達から離さねぇでくだせぇ」
「すずぅぎぃ」
「兄貴、もう充分です
カタはついたんです」
「ごぅもどぉ
だが、ごいづらばぁぁあ!」
「写真だっちぃ!?
それならシェリルが持ってる!
忍の大事なものはちゃんと拾ったんだって!」
ごぷっと血を吹き出しながら首を掲げると、ふらりとシェリルが飛びながら、大切そうに小さな写真を忍に見せ、胸ポケットに収めてぎゅっと抱きしめた、
もう怒り狂うことはないのだと、念を押すように胸元に顔を何回も擦り付ける。
安心したのか、ふっと体の力が抜け握りしめられていた軍刀から指が離れていくのを見て、ニコルはふぅとため息をつく。
「この馬鹿者が、未来を泣かせてどうする?
貴様は軍人ではなく親父失格だぞ
たわけめ!」
「無理しすぎなんだよ、馬鹿が」
「水上さん、吉井さん!」
「よぉ、久しぶりだなぁ瑠香嬢
元気そうで何より…ん?
そんなに泣きちびることねぇだろ?」
「全く無茶苦茶であります!」
へっと笑う無精髭を生やし美味しそうにタバコを吸う水上と、その傍で怒り心頭で外道5人に切先を向ける吉井がようやくかと、安堵の表情を浮かべる。
一瞬の沈黙が訪れ、次に聞こえてくるのはニコルの啜り泣く声やアリシアの号泣が響き渡る。
「結界崩壊魔法」
低くくぐもったような声が、響き渡った。
瞬間に体が吹き飛ぶほどの暴風、強烈な光が差し込みたまら吹き飛ばされないように必死に体を強張らせ、再び静寂が訪れて声の主を探す。
背丈は190ほどで短髪の黒髪からはチラリと全てを見透かすような紫色の瞳が覗き込む。
見た目にして三十代後半ほどにみえる男が立っていた。
「遅くなりました
レイラ様やココさんがいなければ、到着はさらに遅くなっていたでしょう
それと、ヨシイ様が迎えに来てくださらなければもっと最悪の事態が訪れていたでしょう?」
「まさか、貴方方は?!」
「噂に聞く門の一族…
族長のイプシロン・フェリウス・ウィナー
アルメリアを魔や、魑魅魍魎から守るのが我が役目」
目の前にいる教会の神父のような格好をした男が手をかざし、暗くじめっとした空間が、一気に爽快感に溢れた快晴に戻り結界が音を立てて砕けていく。
神父の格好をした男の周りにも同じように、聖職者を彷彿とさせる初老の男と、シスターの格好をした女性が祈りの言葉を唱えていた。
「よくがんばりましたね
…ティナ、無事かい?
遅くなってごめんよ
こいつらのせいで転送門が壊されていたんだ」
「大丈夫だよ…お父さん…」
「「えっお父さん!?!」」
すっとんきょうな声をあげ、瑠香と忍はティナもイプシロンを見比べる。
あんぐりと口を開けて、義烈空挺隊の全員もティナとイプシロンを見比べてざわつき始めた。
何も知らされていなかったのかと、アリシアやニコルが気まずい表情を浮かべ、間に合ったと安堵していたレイラとココが硬直する。
うすら目を開けてマリウスがイプシロンの後ろに隠れる、実父のエルブスに目鯨を立てて、威嚇していた。
さっきまでの殺意の混じった空間から、一気に変な空気に変わり最強の助け舟だと思っていた門の一族が、まさかティナとその家族だと気がつき、瑠香の中で妙な沸点が湧き始める。
「…瑠香ぁ、あいつ…いない
あいづいない!
ヒメネズ…どうぼうじだ!」
「え?」
何かに気がついた忍が外道達の方をみて、再び怒り始めた。
胸騒ぎを覚え、外道を見ればヒメネスは確かにいる。
立ち上がって騒ぎ立てる5人に近づきながら、いつのまにか倒れ込んでいたヒメネスに銃を構えながら近寄り、銃口の先で突いてみた。
確かに泡を吹いて失神しているが息はしており、間違いなく生きている事は立証できた。
だが妙なことに違和感が絶え間なく襲いかかる。
「…お前誰だ?
顔のところ…その服装…ボロ切れのような甲冑を着てるわけでもない
なんで、ルイスさんの来ていた上着を着てんだよ?
まさか!」
顎の下のすぐのところに、何かを貼り付けた後が残っている。
慎重にその貼り付けられている何かをめくりあげると、気を失って硬直するルイスがいた。
ティナ達と合流後に、瑠香も残りのメンツがどうなったかをマリウスから直接聞いていた。
レイラとココ・ルイスは確かに後方支援に回っていて、今もどこかで救護活動をしているはずだ。
目の前に確かにいるのは、瑠香達をエリダヌス街からプロキシマ街まで案内し、今は後方支援をしているはずのルイス。
「ヒメネスが逃げやがった
あいつ、逃げられないあの空間から抜け出しやがったんだ」
「馬鹿な、神域を壊した?
無限共鳴から抜け出した?
そんな事ができるのか?」
「お父さん?」
「ティナ…いや、みなさん聴いてください
あいつは…ヒメネスはマーガナルムの洗礼を持っています
神の作った空間から逃げ出すには、不浄の遺物を使うしかありません
自ずと向かうのであれば」
禁足地!
忍のかつての仲間もティナ達も祟り神になった忍のことが心配でならないのです。
大好きな父親みたいな存在が変わり果てるほど辛いものはありません。
仲間の麻井が言うように忍を通して父兄になっていたのです。
壊れていくのを見たくなかったのです。
ティナの父親が出てきました。
イプシロンさんですが、門の一族です
そしてティナも実は門の一族なのです。
なぜ黙っていたのかは次の時に。
いや、待て…ティナ。
次回もお願いします!




