1章 統一戦争(弐)
今週も懲りずに行きますよ?
パルフル‐ビリージス魔導共和国領海上ヘリオル神聖帝国軍艦‐船室
私の反応が遅れたせいでマリスさんが私を庇って刺された・・・何で私は回復魔法が使えない、何で何時も大切な人がいなくなる、何故だ何故だ何故だ・・・
「あははは・・・まいりましたね、・・・毒ですかね、それにしては回るのが早い気もしますが・・・あはは、まあ私も大概好きに生きてきたんですから憧れたルーシー様の・・・生き方を・・・守れただけでも・・・・・・」
いやだ、いやだ、いやだ、イヤダ・・・もう守ってくれなくてもいい、いつもの調子で私を振り回してもいい、いくらでも迷惑がかかってもいい、だから私を置いていかないで・・・涙なんてセツナが殺された時にとっくに枯れ果てていたと思っていたのに涙が止まらない・・・ここまで来て・・・こんな所で止まる訳にはいかない、頭では理解しているが体が動かない涙が止まらない、そうしている間にも少しづつしかし確実にマリスさんの体が冷たくなっていく。
どのくらいの間マリスさんの体に泣きついていただろうか、突然乾いた音ともに右の頬に痛みが走った、それからそれがアリアに叩かれたのだと気がつくのに少し時間がかかった、力なく右頬を抑えながらアリアの方を見る。
「仲間の死に悲しみ涙するのはいいですが、ここは戦争の最前線であなたはこの大艦隊の総司令官なんですよ、何時までも泣いている訳にはいかないんですよ」
嘘だ、この艦隊の指揮ならば私が執れば十分だ、私はまたあの時のようにルーシー様に道を見失って欲しくない・・・ただそれだけのためにルーシー様個人としての心を無視してまでこの艦隊の総司令官として振舞うように強要しているんだ、軍人としてはそれでいいかもしれないが私はルーシー様の個人的な友人、いや悪友と言えるだろう間柄としては一番古い付き合いであると自信がある、それなのに互の立場の違いからこんな時に友人として支えることさえ許されない・・・我ながら腹が立つ、そんな個人的な苛立ちを他所に私は軍人としてルーシー様に王女であることを強要するしかない、そうしなければこの戦争は終わらせる事が出来ない、この戦争が終わったらどれだけ恨まれても構わない、それでも今は前を向いて戦争を終わらせるために戦って欲しい。
アリアの想いは解った・・・確かにその通りだ、今ここで悲しんで立ち止まるのは命を賭けて守ってくれたマリスさんの為にもならない・・・今だけでも割り切って戦わないといけない、ならばせっかく憎まれ役になってくれたアリアの気持ちに応えるためにも行こう。
「アリア、敵の軍は私が消す、その後の占領作業は任せた」
私はアリアに指示を出しながらマリスさんを抱きかかえる、最後まで近くに居てもらいたい、そんな我侭だ、本当なら早く眠らせるべきなのだろうがどうしてもそうしたかった。
ルーシー様が立ち上がってくれた、ならば私はその命令に全力で答えるだけ・・・そして戦後受けるであろうルーシー様の汚名を共に受ける、マリスを連れていったがまあそのあたりは目を瞑りましょうせめて守ってもらったことが無駄でなかったことを見せたいのでしょう、私は占領の準備の指示と共にルーシー様が帰ってきた後のためにマリスを手厚く葬る用意を進めさせておきましょう。
懐かしの共和国の首都、事ここに至ってようやく共和国の本格的な防衛隊が見えてきた、先陣は・・・あぁセツナを殺したアイツか、運が良いらしい、今の私は体術が使えない・・・まあマリスさんを抱えてきたのは自分の意志なので仕方がないが、しかしアレが先陣なら一瞬で消滅させるのは少しためらわれる、個人的には復讐をしたい、まあ今はそんなことは置いておいて歴史に最悪の女として名を残すであろう戦争を始めるとしよう、呼び出すのはたった一匹の龍ただそれだけ、覚悟を決めて息を吸い込み詠うような軽さで囁く、ただそれだけで召喚は出来る、胸の中では色々な思い出が蘇る、セツナと暮らした僅かな間のこと、チバ家の人たちには良くしてもらったっけ、そんな人たちも含めて跡形もなく消し飛ばす、複雑ではあるが私はもう色々な意味で止まることができない・・・等と考えているうちに召喚用の詠唱の最後の一節を詠い終える、激しい光が辺りを包み込み視界を奪う、次に太陽がソコにあるかのような高熱を持つ紅い龍が現れる、言葉は必要無い、ただ色々な意味を込めて頷くただそれだけ龍はこちらの意思を汲み目の前の共和国軍を焼き尽す、あまりの高熱に文字通り何も残らない・・・そんな一方的な戦争も数分で終わりこの場に立っているのは私と共和国の評議会の最高議長だった。
チバ家の秘伝やはり彼女が持っていたか、自分に与えられた執務室の窓から戦場を確認していると見えてきた龍を見て誰に言うでもなくひとりでに口にだしていた。
共和国の軍隊は今帝国本土を攻撃している軍以外はほとんど全滅した、最早議会を通して降伏の手続きを取る時間もないだろう、仕方がない彼女とは多少の顔見知りではある、話を聞いてくる程度には落ち着いている事を祈りながら最前線に向かう、久しぶりの戦場だ、最もただの事後処理でしかないだろうが。
久しぶりに見た彼女は誰か女性を抱いてただ何をするでもなく戦場・・・と言うにはあまりにも一方的な虐殺の舞台となったココに立ち尽くしていた、今の彼女にこちらの話を聞くだけの冷静さはあるのだろうか、背中に嫌な汗が流れる、だがこの先も共和国の民が生き残るためここで逃げる訳には行かない、こちらには降伏の意思があることを伝える・・・実際には数秒の事だっただろうが私には数分にも数時間にも感じられる沈黙の後彼女は評議会の解体及び共和国領土の帝国編入で手を引く、それだけを伝えると軍艦に戻っていった。
これで事実上共和国はこの世界の長い歴史からその名を消すことになるだろう、しかし私はそれでよかったのかもしれないと思う、最早戦争の始まりの理由すら定かでは無い戦争でいったいどれだけの人間が犠牲になってどれほどの土地が生物の住めない環境になったのだろうか、それを思うと例え彼女の行動を後の歴史家が悪だと断じても彼女の行いを無駄にしないことこそがこの世界に住む1人の人間としての勤めではないのだろうか、そうであると信じて帝国本土に侵攻中の軍に停戦を命令し評議会の解体の準備を進めなければならない、そういえば抱いていた女性はエルロード卿では無かった、つまり暗殺は失敗さらに言えば彼女個人的な大切な人を殺した訳だ、なるほど結局のところ何一つこちらにとって都合のいいことなど無かったようだ。
本国から緊急の通信が掛かった、何事かと思えば帝国領まで後僅かなのに本国は降伏を決定したからこちらも降伏するようにとの命令だった・・・しかも降伏条件が実質共和国の滅亡と同義だそのようなものは誇りある共和国の軍人として到底受け入れられない・・・こうなったら我々だけでも真の共和国軍人としての意地を見せるだけだ、所詮評議長も軍を離れて共和国の誇りよりも自身の保身に走る人間に成り下がったか、かつては同士として若い次の世代を担う人物として期待をしていたが私の眼も曇ったものだ。
帝国の軍港の防衛は士気が高いやはり本国の降伏の知らせが既に届いているのだろう、確かに援軍も補給も望めない状況ではあるが真の共和国の軍人としての意地を見せつけるまでは負けを認めるわけにはいかん。
本国が降伏したと言うのに目の前の艦隊は降伏の意思は無さそうだ、どうしたものかと考えていると王女様からの通信が入ったらしい。とりあえず繋げられた通信で妻の死を告げられた・・・短い付き合いではあったが妻には色々と振り回されもしたが一緒に居て退屈することの無いいい女であったと思う、死に目に会えなかったのは残念ではあるが妻も思うままに生きた、ならば誰を恨むでもなくただ与えられた任務を全うすることを伝え通信を切った。
敵の艦隊の残りは少ないここから白兵戦で沈めていこう、そのほうが捕虜にできる数が増えるので戦後が有利になるからであって決して行き場の無い感情をぶつけたいためでは無い。
アリアから共和国本国の降伏を通信で聞き帝国本土付近に居る艦隊が未だに抵抗を続けているようなのでこちらからも戦力を出して制圧することにした、そのついでで帝都に戻るので私が援軍の指揮を執る。
目視で敵艦を確認出来る辺りまで接近したところでトリス子爵から通信で敵艦の残りは全て拿捕したとの報告が入った・・・子爵なら軍港からの砲撃で堅実に守ると予想していたのだが予想が外れたみたいだ、最も守り方は一任してあるので問題はないのだが、何か何時もとは違う雰囲気を感じるのでとりあえずは直接会って感じる雰囲気の違いについて確認しようと思う。
マリス子爵が死んだ・・・そういう訳だったのか、彼女の最後はルーシーを守る役目を立派に果たしての事だったらしい。
帝都に戻りルーシー達の帰りを待つ間にこの後の統治の方法や新しい法、復興の為の予算やその確保その辺りを少しでも纏めておいて精神的にまいっているであろうルーシーの負担を少しでも減らそう、そう思い早速文官を招集し協議に入る。
気がついたら帝都にいた、正直な話共和国の評議長と話してからの記憶がない、いやその記憶さえ微妙だ・・・でも帝都に戻っていると言う事は共和国は降伏したのだろう・・・本来なら陛下に急いで会いにいくべきなんだろうけど、私はマリスさんの遺体をトリス子爵に渡すことを優先することにした・・・子爵からは特に何も言われなかった、正直思いっきり責められていっそ殴られたほうが気が楽だった、それでもここまで色々なものや人を踏み越えて来た以上ここで立ち止まる訳には行かない、城に行って陛下と共にこの世界の下らない戦争に終止符を打つ為の準備をしよう、後悔なら後でいくらでも出来るのだから。
私が帝都に着いてから1週間、ルーシー様はかなり無理をされている、無理もない事だとは分かるし必要な事だというのも理解はできる、心情的に納得が出来ないだけだ。
では、また来週




