8話
まあどちらにしてもアークスとの模擬戦は俺がこれからも強くなる為に必要なことだ。そこにアークスの気持ちなんてどうでもいい。
アークスが何かを言っても耳に入れる必要なんてない。
意識を集中させろ。
模擬戦の開始の合図を待つ。
「それじゃあ模擬戦開始だ!」
訓練の監督をしている団員の合図で模擬戦は開始した。
「おらぁ!くらえやぁ!!!」
アークスが叫びながら接近して来る。
早い!
俺はアークスの接近スピードの速さに驚いてしまう。
それでも目で追える程度のスピードだ。
大きく振りかぶった上から下に振り下ろすアークスの木剣の斬撃が向かってくる。
重いな。
俺は木剣で受け止めながら受け流そうとしたが、アークスの斬撃の威力が重くて手に痺れが走るし、アークスの木剣を上手く受け流せない。
そこからアークスは木剣を力任せに振るい続ける。
しかもそこに武聖としての技量が補正されているせいで鋭い斬撃だ。
防ぎ、受け流し、回避をなんとか出来ているが、このままだとそれも間に合わない状況になりかねない。
ジョブによる補正が俺なんかとは別格と呼べるくらいにアークスは強い。
でも力任せに振るわれる一撃一撃が全力なのは幸いかもしれないな。
アークスの攻撃はとにかく隙が大きい。
それでもジョブ補正で攻撃スピードが速いから成り立っているはず。
体力だってジョブの補正でアークスはある方だろう。
俺が勝機を見出すにはアークスの体力切れを狙うのが1番だ。
でもその前に俺の方が体力切れになりそうだし、一撃でも受ければかなり痛いだろう攻撃の対処に精神的に疲労もある。
「これで終いだぁあ!」
アークスの木剣に闘気が集束しているのが視界に入った。
闘気。
それは肉体系のジョブを持つ者が魔力を変換して生み出す特殊な力だ。
純粋に魔力を使うよりも闘気の方が肉体に関しては強く作用する。
いまアークスがやっているのは闘気の応用で武器を肉体の一部と見做して武器にも闘気の強化を施すものだ。
と言うか闘気を使えていることに驚いてしまう。
俺は肉体と武術の技術を鍛える方向で武聖としての知識を使って鍛えているせいで闘気に関しては情報としてしか知らない。
記憶図書館に思考を移動させて闘気対策をするべきかを考えるが無駄だろう。
対武聖用に学んだ中にも闘気に関する情報だってあったが、俺の方も闘気を使えるのが条件なものが多い。
頭を働かせながらこのままだと負けるのが濃厚になると理解する。
それでもまだ俺は負けた訳じゃない。
アークスが何かをするその前に防戦一方だった俺はこちらから打って出ることにした。
アークスが闘気を集めた木剣を振り上げ切る前に距離を縮めて木剣を振るった。
「ちっ!」
振り上げた途中でアークスは俺の攻撃を木剣で防いだ。
防がれても気にしない。
俺は呼吸を止めてとにかくアークスに向かって木剣を振るい続ける。ここで動くのを止めたら闘気を集束させた一撃が来ると分かっているから。
無呼吸で苦しくなる。
下級が出来ないのがここまで苦しいと感じるとは思ってもみなかった。
それでもと思っていると。
「うぜぇんだよ!!!」
アークスが力任せに木剣を俺が振るった木剣にぶつけてきた。
木剣同士が衝突する音が響くなかでバキッと音がして俺が持っていた木剣から重さが少なくなった。
それを感じて不味い。木剣が折れた。と思ったのと同時に痛みが走った。
「おらぁあ!!!」
「いがぁ!??」
アークスが振るった木剣が肩に命中する。
肩から木剣が折れた時とは違う鈍くバキッとした音が身体の中で響いた。
痛みに呻きながら俺は折れただろう肩を押さえる。
「アークス!それ以上の攻撃をするな!これは模擬戦なんだぞ!!」
「あん、コイツが弱いだけだろ?そのせいで勝手に怪我したんだよ。」
俺の元に訓練の監督をしている団員が駆け寄って来ながらアークスに注意をするが、アークスはそんな注意を馬鹿にした態度を取って離れて行った。
もう周りも模擬戦をしている状況じゃない。
痛みを堪えながらも周りからお互いの武器をぶつけ合う音が聞こえなくなった。
「大丈夫か、レン。」
「すごく肩が痛いです。」
「どうなったか見るから服を脱げ。脱げるか?」
「はい……いっ!?」
服を脱ごうとすると激痛が走る。
それでも我慢して服を脱いで肩を見てみたら肩の色が変色していた。
「これは不味いな。教会に行くぞ。」
「そ、そんなにですか?」
「ああ、確実に折れてるだろう。ここはしっかりと治して貰った方がいい。幸い、うちの村の教会の神父は腕が良いからな。聖法を使えば治るさ。さ、移動するぞ。」
「はい。」
「模擬戦は中止だ。俺はレンを連れて行く。戻って来るまで素振りをする様に。それとアークスはあとで話があるからな。」
歩く度に肩から激痛が走る中でがまんしながら団員に連れ添われて教会に向かうことになった。
教会に到着するまで本当に苦痛だったがそれでも教会にたどり着く。
「アウルさん。居ますか!」
「居るよ。それでどうしたんだい?」
「訓練で怪我したんで見てください。今回骨が折れてると思うんです。」
「そうか。ダンの子のレンだね。それじゃあ怪我をしているところを見せてくれるかな。」
俺は折れているだろう肩をサーヤの父親である神父のアウルに見せた。
「あー、酷いね、これは。少し確認するよ。」
アウルの指先に神力が集まっていくと神秘文字を描いて聖法を発動した。
「なるほどね。確かに折れてる。でもこれなら治せるからね。安心すると良いよ。」
「はい。」
どうやら相手の状態を確認する聖法を発動して俺の今の状態を確かめた様だ。
そこから俺はアウルに肩の骨折を治す聖法で癒されて怪我を治して貰った。
「これで痛みもないだろう?」
「はい。痛くなくなりました。もう動かしても大丈夫なんですか?」
「そうだね。動かしても良いよ。でも出来れば明日まで運動はやめて様子を見てね。明日動かしてまだ痛い様ならまた教会に。」
「分かりました。」
話は終わり、そこから治療費の話になったのだが、今回の怪我が訓練の時の模擬戦であること、それから怪我を起こした相手が村長の子供であるアークスだと言うこともあって警備団が支払うという話になった。
怪我もあって家に帰り、この事を両親に話した結果、警備団に差し入れとして干し肉や母親が作った薬品がお礼として渡されることになるのだった。




