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祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


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第8話 新たな既得権益

 暖炉の火が静かに揺れていた。

 食卓にはまだ料理の香りが残っている。だが、場の空気はもう食事どころではない。


 ルシアとレオ以外は。


 レオが発言した。新たな既得権益、ハンターギルドの設立。

 商人らしい発想に、俺は思わず眉をひそめた。


「俺がハンター達のギルドを設立させるのか?」


「そうや」


 レオはパンをちぎりながら言う。


「こんな武具を外に流通させれば必ず軋轢が生まれる。なら最初のうちは、ギルドの会員になった者だけにこの武具を販売する」


 パンを口へ放り込みながら続ける。


「この組織はお前の五年縛りのダンジョン攻略にも紐づいとる。時短と効率。おまけに上手いこと運営できれば領地も潤うって寸法や」


 軽い口調だ。


 だが言っている内容は、国家の経済に触れるほどの規模の話だった。

 人を集め、武具を握り、魔物と戦う連中の流れを押さえる。

 それはもう一領地の小遣い稼ぎなんて話じゃない。


 その言葉にセンバスが頷いた。


「人が集まれば物も金も動きますからな」


 確かにその通りだ。


 人が集まれば、物が売れる。


 物が売れれば、今度は金の匂いに釣られてまた人が集まる。


 領地なんて、だいたいそんなもので出来ている。


 それは領主として嫌というほど知っている。

 栄える村も、廃れる町も、結局は人と金の流れで決まるのだ。


 だが――


「……だが、その話は問題が山積みでもあるよな」


 俺が言うと、レオがにやりと笑った。


「お。流石、領主やってるだけあって気付くか?」


「馬鹿にしてんのか」


 椅子にもたれながら続ける。


「お前のハンターギルド設立の案は俺も理にかなっていると思う。まぁ、それでも抱える問題は幾つも思いつくが」


 机の剣を指で叩いた。


 小さく金属音が鳴る。

 静かな食堂で、その音だけが妙に冷たく響いた。


「でも、根本的な問題はこの武具に制約がない事なんだよ」


 その音が妙に重く聞こえた。


「この武具のやっかいな所は、誰にでも扱えて、誰にでも強力な力を与える事だ」


 護衛のハンター達が力強く頷く。


 現場で戦う者達だ。

 この武器の異常性は誰よりも理解しているのだろう。

 使い手の腕前を飛び越えて、“強さ”だけを手渡す道具。そんなものが世に溢れたらどうなるか。


 誰でも強くなれる武器。


 それは英雄を生む道具にもなれば、災厄を生む道具にもなる。


「外との軋轢を生まないために、身内で武具を回しても結局は人の口には戸を建てられない。組織を設立し、会員と契約を交わしても、その強制力自体が弱すぎるんだ」


 一度漏れれば終わりだ。

 噂は広がる。欲しがる連中が群がる。金の匂いがすればなおさらだ。

 この力は、隠しておけるほど小さくない。


 レオは腕を組んだ。


「俺は最終的にはこの話を絡めて、王家を巻き込むのも手やとは思っとる」


 その言葉に、場の空気がわずかに変わる。


 王家。


 それは一介の男爵が軽々しく口にしていい存在ではない。


 王家が動けば、国が動く。


 それほどの重みがある言葉だった。

 後ろ盾としてはこの上ない。だが同時に、一度取り込まれればもう後戻りはできない。


 だが。

 これは俺個人でどうこう出来る問題ではない。


 ちらりと俺はセンバスを見た。


 彼は黙ったまま、ただ俺を見据えている。


 元王国近衛騎士団。

 どういった経緯でそうなったか詳細は語ってくれない。だが、約束された立場を蹴ってまで爺様に付き従う事を決めた異色のヴァーミリオン家筆頭執事だ。まぁ、執事は彼一人だが。


 その彼の経歴を思い出す。


 俺もそれはありだと思う。王家に後ろ盾になって貰えれば、ある程度の問題は片付くだろう。


 だが、その考えはすぐに打ち消した。


「しかしローク王家に保護を求めたとしても、今度は他の国との軋轢が生まれるだけだ」


 剣を見ながら言う。


「結局、この武具は火種にしかならないんだよ」


 守るための武器のはずなのに、抱えた瞬間から争いの理由になる。

 皮肉だが、それだけ価値があるということでもある。


 レオも黙り込んだ。


 暖炉の薪がぱちりと弾ける。


 静かな音だった。

 だが妙に大きく聞こえた。


 部屋に沈黙が落ちる。


 その静寂を破ったのは――


「相変わらず人間達は、めんどくさいしがらみに囚われておるのぉ」


 ルシアだった。


 腕を組み、椅子の上でふんぞり返っている。


 めんどくさい事をさせている張本人が言うな。


 レオも同じく俺と同じ事を考えているのだろう。

 何とも言えない目をしていた。


「なら、その武具に制約をかせばいいのじゃ」


 場が静まる。


 誰も言葉を発さない。


 微妙な沈黙が流れた。


 暖炉の火が小さく揺れる。


「……」


「……」


 そして同時に叫んだ。


「「え!? そんな事出来るのか?」」


 ルシアは鼻を鳴らした。


「ヴァーミリオンの者に契約として与えた力ぞ?」


 そして机の剣を指差す。


「確かにその武具は他の者達も扱える事が出来る。例えばの話じゃ」


 足を組み替えながら言う。


「同じ効果を持った武具で、へぼのロシュと武力に秀でた者が戦ったとする。結果はどうなると思う」


「誰がへぼだ! それなりに戦えるわ!」


 センバスが静かに言う。


「まぁ、闘争の機微は状況やコンディションで変わりますが、単純に考えれば武力の秀でた者が勝ちますな」


「当然じゃな」


 ルシアは頷いた。


「わらわと契約しリスクを冒している者より、その恩恵に預かるだけの者が有利など契約としてあり得んじゃろ」


 なるほど。


 道理だ。


 契約とは対価だ。

 何も差し出さずに利益だけ得るなど、そんな都合のいい話はない。

 悪魔がそこを見落とすはずもなかった。


「と言う事は……」


「その武具に手を触れ、頭で思った事を制約で縛ってみよ」


 俺は剣へ手を伸ばした。


 冷たい金属。


 掌に重みが伝わる。

 普段と同じ剣のはずなのに、今は別のものに触れている気がした。

 ただの武器じゃない。契約の器だ。


 そして――


 思考を集中させた。


 もしこの武器に制約を付けるなら。


 何が一番いい。


 ハンターギルド。


 武器の流通。


 そして極力、軋轢を生まない条件。


 答えは一つだった。


 その瞬間、頭の中に文字が浮かび上がる。


【踏破Ⅰ 29/30】

地を強く踏み込む瞬間、強力な加速を得る。

踏み込みの瞬間のみ速度が大幅に上昇する。


【踏震Ⅰ 15/15】

地を強く踏み込んだ衝撃を地面へ伝え、

足元から衝撃を爆発させる。


【鎚踏Ⅱ 24/25】

踏み込みの反動を武器に乗せ、

強力な一撃を放つ。


 そして――


☆魔物以外のスキル使用を禁ずる。


「……!」


 思わず息を呑む。


 文字が焼き付くみたいに頭へ沈む。

 ぞくりと背筋が震えた。

 出来た、という実感と同時に、とんでもない事をしてしまった感覚が遅れてくる。


「で、出来た……」


 レオが椅子から身を乗り出した。


「マジか!? ……うぉ!!」


 目を見開いて剣を見る。


「決して万能ではないぞ。契約の理に沿うものしか刻めぬでな」


 ルシアは腕を組んで、どや顔をしていた。


 そんなことが出来るなら最初に言え。

 反射的にそう思った。

 だが、その文句はすぐに引っ込む。


 そして同時に理解する。


 これは――


 とんでもなく危険な力だ。


 使い方を誤れば、国すら揺らぎかねない。

 武器を作るだけでも危ういのに、そこへ“ルール”まで刻めるとなれば、もはやただの鍛冶でも商売でもない。


 レオは腕を組み、にやりと笑った。


「これなら、だいぶやり易くなるな」


 目が輝いている。


「面白うなってきたで」


 俺も笑った。


「そうだな」


 机の上の剣を見ながら言う。


「なんとか、戦える土俵に立てそうだ」


 ハンターギルド。


 武具の流通。


 そしてダンジョン攻略。


 すべてが一本の線で繋がり始めていた。


 そして、その火種を抱えて立っているのは――俺だ。


 逃げ道はもうない。


 この武器を作れるのは俺だけ。


 この計画を動かせるのも俺だけだ。


 なら――やる事は決まった。


 食堂の中で、俺とレオは同時に不敵に笑っていた。


「ふむ……少し古巣に顔をだすのもいいかもしれませんな

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