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祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


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第7話 武器の値段

 食卓の上には湯気の立つ料理が並んでいた。


 豆と干し肉の煮込み、焼きたてのパン、香草のスープ。茸のパスタ。


 粗末な木のテーブルの上に、湯気がゆらゆらと立ち上る。

 煮込みの濃厚な匂いと、焼きたてのパンの香ばしさが混ざり、部屋いっぱいに広がっていた。

 暖炉の火までやわらかく見えるような、腹の鳴る匂いだ。


 うちの食卓は身分など関係ないので、レオは当然、護衛の人達も招いている。


 普段は数皿しか並ばない食卓が、今日は皿で埋まって豪勢だ。


 まぁ、貴族の食卓としては質素だが、貧乏なので許して欲しい。


 そして――


「うっっま!!」


 レオが叫んだ。


 勢いよく椅子から身を乗り出し、スプーンを持ったまま天井に向かって叫ぶ。

 護衛のハンター達が一斉にこちらを見た。


「ロロちゃん天才や!! これ店出したら絶対儲かるで!」


「落ち着いてください。まだありますから」


 ロロが苦笑しながら皿を置く。


 大鍋からよそった煮込みを皿に盛りながら、少し照れたように笑っている。

 褒められるのが嬉しいのだろう。


 その横で、小さな声が鼻を鳴らした。


「ふん。豚はよく食うの」


 ルシアだ。


 肘をついて偉そうに言っているが、その皿の周りは食べかすで散らかっている。


 彼女もまた豚のように品性の欠片もなく貪り食っているわけなのだが。


 レオは匙を止め、じっとルシアを見る。


 その視線はゆっくり上下に動いた。

 羽。

 角。

 堂々とした態度。


「……なんやこの羽と角の生えた品のない女は?」


「悪魔じゃ」


「はあ?」


「わらわは悪魔じゃ」


「……」


 レオはゆっくり俺を見る。


 その目は完全に「説明しろ」と言っている。


「ロシュ」


「なんだ」


「現実から目を逸らしとってんけど、説明してくれんか」


 やっぱり気付いていたのか。


 卓にちゃっかり座るルシアがあまりにも自然すぎて、突っ込むタイミングを失っていたらしい。

 どんだけ図太いんだこいつは。いや悪魔だからか。


「この女が秘密の部分なんやろ?」


「まぁな」


 俺はため息をつき、話し始めた。


 屋敷の地下。


 そこにあるダンジョンのこと。


 魔物が湧く迷宮。


 その魔物から獲れる素材。


 その素材でスキルの付いた武具を創れる施設。


 そして――


 世界に散らばる七つのダンジョン。


 五年以内にすべて攻略しなければ、俺は何らかの形で破滅するという契約。


 最終的には、ダンジョンの暴走で世界そのものが崩壊する可能性。


 話すほど、部屋の空気は静かになっていった。


 さっきまで料理を食べていた護衛のハンター達も、いつの間にか手を止めている。

 匙を持ったまま、黙ってこちらを見ていた。

 湯気の立つ料理だけが、さっきまでの温かい空気を取り残しているみたいだった。


 話し終えたとき。


 レオは無言だった。


「……」


「……」


 そしてゆっくり言う。


「ちょっと待て」


 指を三本立てた。


「まず一つ」


「地下ダンジョン」


「意味わからん」


 一本折る。


「二つ」


「世界崩壊」


「もっと意味わからん」


 もう一本折る。


「三つ」


「五年の縛りがある」


「絶望的に意味わからん」


 レオは頭を抱えた。


 椅子の背もたれに体を預け、天井を仰ぐ。

 深いため息が食堂に響いた。


「なんでお前、そんな人生ハードモードなんや……」


「だから、お前の力がいるんだよ」


 しばらく沈黙。


 暖炉の火がぱちりと弾けた。


 そしてレオの視線が、机の上の剣へ向いた。


 黒鉄の刃。


 赤い亀裂。


 さっき大木を吹き飛ばした剣だ。


 ただ机に置かれているだけなのに、妙に存在感がある。

 部屋の視線を吸い寄せるような重みがあった。

 さっきまで悪魔だ世界崩壊だと混乱していたのに、レオの目だけはもう別のところを見ている。


 レオは静かに言った。


「一つだけ聞く」


「なんだ」


「仮にこの武器をいくらで売るつもりや?」


 商人の目だった。


 先ほどまで料理に感動していた男とは思えない。

 値踏みする鋭い光が瞳に宿っている。

 夢物語を聞かされても、最後には“値段”へ辿り着く。それがこいつだ。


 俺は肩をすくめる。


「金貨二十枚くらいか?」


 レオが真顔で言った。


「アホか! 俺なら金貨三百枚で売る」


 ドーグが目を剥いた。


「さんびゃく!?」


 弓使いも眉を上げる。


 短剣の男が口笛を吹いた。


「それはさすがに……」


 レオは剣を指で叩いた。


 金属音が小さく響く。


「確かに回数制限ってのはネックや。やけどな、それを差し引いてもこれは魅力的な品や」


「凄腕のハンターですら目を剥く技を誰でも使える。しかも効果は折り紙付き」


 そして言う。


「命守る武器やぞ。こんな破格な品、安売りする方がアホや」


 食卓が静まる。


 誰も笑わない。

 この場にいるのは、皆、魔物に命を脅かされて生きている人間だ。

 “命を守る武器”に値がつくという言葉の重みを、冗談抜きで分かっている。


 レオはパンをかじりながら続けた。


「仮にや、ほんまに仮にやぞ。金貨三百枚の品を年間千本流して売れたとする」


 ロロが必死に指を折っている。


 小さな指を一本一本曲げながら、真剣に数えていた。

 途中で止まり、もう一度最初からやり直している。


 指だとどれだけ時間が掛かるか分かっているのだろうか?


 愛い奴め。


「金貨三十万枚か。夢が広がるな」


 ロロが驚き固まり、俺を見る。


 目がまん丸だ。


「国家レベルの金が動くんや、そら夢も広がるわなぁ」


 部屋が静かになる。


 金貨三十万枚。

 現実味の薄い数字のはずなのに、レオの口から出ると妙な生々しさがあった。

 夢の話じゃない。これは、下手を打てば人が死ぬ金額だ。


 そしてレオは腕を組んだ。


「ただそうなると、この商売は確実に潰される」


 俺は眉をひそめた。


「なんでだ?」


 レオは即答した。


「既得権益。鍛冶ギルドや」


 ハンター達が顔をしかめる。


 現場で生きる者達だ。

 その名前の意味をよく知っている。


 レオは続けた。


「今の世界の武器商売は全部、鍛冶ギルドの縄張りや。武器を作るのも、流すのも、値段を決めるのも、結局あいつらが握っとる」


 レオは剣を見る。


「職人も鉱山も抱え込んで、商人にも圧をかける。そこに突然こんなデタラメな武器が出てきたらどうなる?」


 答えは簡単だ。


「……確かに潰されるな。こんな未知な武具を利権に群がる連中が許容出来るわけがない」


「その通りや。既得権益に群がる連中ってのは、下手に権力持っとるから怖いもんやで。俺ら下々の人間潰すぐらいわけないわ」


「鍛冶ギルドが俺を囲うって線は?」


 レオは首を振り、俺を指差した。


「それこそない。話を聞いた限り、お前しかその武具を創れんねやろ? どれだけの人間路頭に迷わす気や。俺が向こう側の人間やったら、お前を殺すで」


 ロロが青ざめた。


「そんな……」


 俺は椅子にもたれた。


「……だろうな」


 武具が売れる。

 それはつまり、今まで武器で飯を食ってきた連中の首を絞めるってことだ。

 それが国家級の金になるなら、尚更見逃されるはずがない。


「そこで一つ提案があるんや」


 レオは不敵にニヤリと笑った。


 その笑みは、商人のものではない。

 策士の笑みだ。


「潰されたくない。囲われたくない。殺されたくない。なら逆や」


「逆?」


「お前が、潰す側になればええ」


 俺は眉をひそめる。


 レオは身を乗り出した。


「お前、ハンター達を纏める長にならんか?」


「んん? どういう事だ?」


「お前がハンターギルドを設立して、新たな既得権益を作るんや

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