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祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


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第6話 領主と商人の皮算用

 玄関先で、レオは腕を組んだまま俺を見ていた。


「……世界をひっくり返す、ねぇ」


 疑いの目だ。


「貧乏すぎて、とうとう頭おかしなってもうたか。おしい友人を失くしたで」


「俺は正常だ。異常なのはお前の腹の方だよ」


「お前と違ってうまいもん、ようさん食ってるからな。制御がきかんのや」


 この野郎……相変わらず口の減らない奴だ。


 まあ、貧乏領主が急に「世界をひっくり返す」なんて妄言を言い出したのだ。

 当然の反応か。


「とりあえず中入れ。話はそれからだ」


「碌でもない匂いしかしとらんのやが」


「流石、豚は嗅覚が鋭すぎる」


「しばくぞ」


 屋敷の応接間に通すと、レオの後ろから三人の男が入ってきた。


 革鎧に剣。

 使い込まれた装備。


 視線は常に周囲を警戒している。

 ただ立っているだけなのに、いつでも抜ける重心だ。


 ハンターだ。


「ちょうどええから紹介しとくわ」


 レオが親指で後ろを指す。


「新しくうちで囲った護衛や。最近は街道も物騒でな」


 一人は大柄な戦士。

 一人は細身の弓使い。

 もう一人は短剣を腰に下げた軽装の男。


「ダフィー商会専属ハンター、ドーグだ」


 大柄な男が軽く会釈した。


「お初にお目にかかります」


 短剣の男が笑う。

 弓使いは無言で頷いた。


「親父の審査は通っとるで。信用できる連中や」


 レオが言う。


 へぇ、あの人が認めるってことは、なかなかの人物たちのようだ。


 レオの親父さんは一見おっとりした優しいおっさんだが、その目は人の心の奥底まで見透かし、値踏みする。

 俺はあの人の目が苦手だ。


「いや、同席してくれて問題ない。むしろ都合がいいかもな」


「さよか。で、いいブツってのをはよ見せてんか」


「がっつくなよ。食いしん坊か」


「食いしん坊や」


 俺は腰の剣を机に置いた。


 黒鉄の刃。

 赤い亀裂の紋様。


 部屋の空気が、わずかに変わる。


 ハンターたちの視線が集まる。

 値踏みする目だ。装飾品を見る目じゃない。命を預けられるかどうかを測る目だ。


「……妙な剣だな」


 ドーグが呟いた。


「妙、というか、ちょっと禍々しくないですか?」


 短剣の男が肩をすくめる。


 弓使いは黙ったまま剣を見つめていたが、やがて小さく口を開いた。


「ただの剣じゃない」


 俺は口の端を吊り上げた。


「触ってみろ」


 俺の言葉に、レオがためらいなく柄に手をかける。


 瞬間。


「――っ!?」


 レオが手を離した。


「今……頭に何か流れ込んだぞ」


 ハンターたちがざわめく。


「スキルの説明だ」


 俺は言った。


「その武具は力を持ってる」


 ドーグが眉をひそめる。


「冗談じゃないなら、相当まずい代物です」


「まずい、じゃなくて、とんでもない、だろ」


 俺は笑った。


 レオはもう一度剣を持つ。


 数秒。


 そして小さく笑った。


「……なんやこれ」


 食いついたな。

 利益を計算する顔になっている。

 だが同時に、危険の匂いも嗅ぎ取っている顔だ。こいつはそういう男だ。


「本物か?」


「いま見せてやるよ」


 俺は口元を歪め、立ち上がった。


「庭に出ろ」


     ◇


 屋敷の庭。


 夕風が木々を揺らしている。

 西日の名残が芝と石畳を赤く染め、空気には土と草の匂いが混じっていた。


 レオと護衛のハンターたちが、距離を取って見守っていた。


「それじゃ、派手にぶちかますからよく見とけよ」


 俺は剣を構えた。


 庭の中央に立つ大木。

 それなりに古い、太い木だ。

 枝もよく茂っていて、夏場は日陰を作ってくれるありがたい木でもある。


「まずはこれだ」


 深く息を吸う。


「踏破Ⅰ、解放」


 一歩踏み込んだ瞬間。


 ドンッ!!


 地面が爆ぜ、大木までの距離を一気に潰す。


「っ!?」


 短剣の男が思わず声を漏らす。

 ドーグが目を見開き、弓使いの眉がわずかに動いた。


 だが――


 それだけでは終わらない。


「――鎚踏Ⅱ、解放!」


 踏み込みの反動をそのままに、突きの形で剣を大木に叩き込む。


 全身の力を刃へ乗せる。

 腰、肩、腕、脚。全部を無理やり一本に束ねて押し込む。


 瞬間。


 ドォンッ!!!


 爆音。


 地面が揺れる。

 衝撃波が庭を走り抜け、芝を波のように震わせる。

 近くの窓がびりっと鳴り、木の葉が一斉に舞い上がった。


 大木が――


 真ん中から砕けた。


 幹が裂け、粉々に吹き飛び、破片が雨のように落ちる。

 太い幹の中心はえぐれ、裂け目は向こう側の空が見えるほど深い。


 数秒。


 静寂。


 みんなの顎が外れんばかりの驚愕。


「……おい」


 レオが呟いた。


「今の、なんや」


 ドーグの顔色が変わった。


「……今の踏み込み」


 低く呟く。


「上級ハンターでも出来ねぇ」


 弓使いが静かに言う。


「しかも加速直後に重撃」


「身体が耐えられない」


 短剣の男が乾いた笑いを漏らす。


「これが武器の力ってか」


「反則だろ」


 みなが驚嘆の声をあげる。


 正直、俺もこのスキルの威力にビビって、喉の奥で変な声が出そうになった。

 だが、それをぐっと飲み込み、俺はニヒルに笑って剣を肩に担ぐ。


 レオの手前、カッコつけたかったのだ。


「スキル武具だ」


 レオはしばらく黙った。


 砕けた木。

 えぐれた地面。

 まだ消えきらない衝撃の余韻。


 それらを順に見て、ゆっくり笑った。


「……なるほどな」


 その目は、もう獲物を見つけた商人だ。


「確かに世界がひっくり返るな」


「だろ?」


 だが、レオは眉間に皺を寄せ、腕を組む。


「ドーグ。お前この武器欲しいか?」


「当然です」


「そやろうな」


 即答。当たり前だ。

 命を預けるに値する相棒。

 危険な魔物相手を生業にしている人間なら、こんな破格の武具が欲しくならない訳がない。


「ロシュ。お前がどういう経緯でこの武具を手に入れたか知らんが、小銭稼ぎたいだけやったらおすすめせん」


 レオの声から、いつもの軽さが消えた。


「俺に大層な言葉でこの話を振ったってことは、数がそれなりに揃えられるってことやろうけど」


 一拍置く。


「はっきり言うたるわ。五十や百じゃ話にならんで」


 夕風が、妙に冷たく感じた。


「世界は魔物で溢れ、日々を脅かされとるんや。こんな武具が世に流れれば、間違いなく需要が爆発する」


 レオは砕けた大木を一瞥する。


「欲しがるのはハンターだけやない。ハンターも、騎士も、領主も、国もや」


 さらに一歩、言葉が重くなる。


「その供給にお前は応えられるんか?」


 俺は黙る。


「出来んかったら、争いの種になるだけや。奪い合いになる。値は跳ねる。血も流れる」


 レオの目が真っ直ぐ俺を射抜いた。


「出所探られて最悪、お前殺されるで」


 レオの言葉は道理だ。


 正直、俺やセンバス、ロロだけで世界の供給に応えられる訳がない。


 おまけに俺には、五年で世界に散らばる七つのダンジョンを攻略しなければ破滅するという縛りがある。


 無理な話だ。


 だからこそ俺は、レオを巻き込むと決めた。


 こいつの商人としての力と知恵を利用させてもらう。


「数はいくらでも揃えられる」


「なんやと!?」


 レオだけでなく、護衛のハンターたちまで息を呑んだ。


「ただ、圧倒的に人が足らない。世界を動かすには俺一人じゃ足らないんだ」


 俺は真剣な目でレオを見据える。


「だからお前なんだよレオ。俺に商人としての力と知恵を貸せ」


 レオは黙って俺を見た。


 冗談を飛ばす時の目じゃない。

 値踏みする目でもない。

 こいつ自身が、どこまで踏み込むかを決める目だった。


「お前……なんか変わったな。目がギラついとる」


「ふふん。男前になっただろ?」


「ふっ。そうやな。立ち止まって情けなく右往左往してた頃より、マシな顔になっとるわ」


 言葉が過ぎるぞ。豚め。


 でも、こいつの目から見ても俺が前に進もうと決意していることは伝わっている。

 それは、きっといい傾向なのだろう。


 そんな自分が、ほんの少し誇らしく思えた。


「まぁ、他にも色々問題はあるが、手ぇ貸したるわ。我が友よ」


 レオは右手を差し出し、俺はそれを握り返した。


「儲けさせてやるぞ、レオ」


「怖いなぁ。お前、まだ秘密にしとることがあるやろ」


「そこは、食事でもしながら詳細を話してやるよ」


「おぉ、ロロちゃんの手料理! 腹がはち切れるまで食ったるで!」


 それは止めて。


 俺たちの熱い友情(?)の確認をしていると、ロロからの呼び出しの声がかかった。


「ロシュ様ー! 夕餉の支度が――ああああぁ!?」


 振り向いたロロの視線の先には、真ん中から無惨に吹き飛んだ庭木。

 景観担当の怒りに火がつくには十分すぎる惨状だった。


「ロシュ様」


 笑顔だ。

 だが目が笑っていない。

 これはまずい。


「これは、どういうことですか?」


「いや、その、商談のための必要経費というか……」


「必要経費で庭を破壊しないでください」


 冷たい。声が冷たい。


 レオは一歩、二歩と静かに後退した。


「ほな、俺は先に中入っとくわ」


「待てこら裏切り者!」


「商人は危険察知が命や」


 護衛たちまで露骨に目を逸らす。

 おい、お前らさっきまであんなに食いついてただろうが。


 この後、庭の大木を破壊して景観を損ねたとのことで、滅茶苦茶怒られた。

 ただ、屋敷へ逃げ込む直前、レオは一度だけ振り返って、肩を揺らして笑っていた。


 たぶん、あいつも分かっている。

 今日ここで結んだ話は、ただの悪巧みじゃない。


 俺たちの領地を。

 いや、この世界の形そのものを変える最初の一歩だ。

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