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祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


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第22話 核を砕け

巨大なゴーレムが一歩を踏み出した。


 それだけで、空洞の床が低く震える。

 肩と背には鍾乳石みたいな突起がいくつも生え、腕は丸太みたいに太い。

 さっきまでの個体より、明らかに一回りどころじゃない。


「でか……」


 トマが息を呑む。


 バルドは嫌そうに眉をしかめた。


「帰っていいか?」


「駄目に決まってるだろ」


 俺はそう告げると剣を握り直す。


「ロロ右。ガレス左。クレーネは後ろ。まずはいつも通り、止めて崩す」


「了解」

「はい」

「ん」


 巨大ゴーレムが、鈍い唸りみたいな音を漏らしながら腕を振り上げる。

 速くはない。だが、重い。

 あれをまともに食らえば、ひとたまりもない。


「来るぞ!」


 ロロが果敢に飛び込む。


「重脚、鉄拳、解放!」


 地を踏みしめた一歩はぶれない。

 そのまま拳の連撃を叩き込む。

 だが、小型相手なら揺らせた攻撃が、今回は表面を削って鈍く響くだけだった。


「ロロ、引け!」


 ロロが悔しげに歯を食いしばる。


 巨大ゴーレムは体を少し傾けただけで、すぐに腕を振り下ろしてきた。

 ロロが横へ流す。

 振り下ろされた拳が床を叩き、石片が跳ねた。


「ガレス!」


「止めます」


 ガレスが半歩前へ出る。


「地縫、解放」


 槍が方脚の継ぎ目を穿つ。

 鈍い音。

 一瞬、巨大ゴーレムの足が止まる。


 ――いける。


 そう思った次の瞬間だった。


 ゴーレムが力任せに体を捻る。

 脚を縫い止められたまま、岩床ごとひびが走った。


「なっ――」


 ミシ、バキ、と嫌な音。

 次の瞬間、巨大ゴーレムは脚ごと岩を砕いて前へ出る。


「おいおい、床ごと引き剥がしたぞ!?」


 バルドが悲鳴じみた声を上げた。


 俺も顔をしかめる。


 小型みたいに、地縫一発で止めきれる相手じゃない。

 出力が違う。


 クレーネが矢を放つ。

 外殻の肩口へ土矢が刺さる。

 だが、まだ浅い。


「中、見えない」


「だろうな!」


 外殻が厚い。

 核の位置も深い。


 ゴーレムがこちらへ突っ込む。

 腕を横薙ぎに振るう。

 その一撃を、ロロが受け流しきれずに押し込まれた。


「くっ……!」


 重脚で踏ん張っても、足元が鳴る。

 押し切られる寸前、俺が横から剣を入れて逸らした。


「ロロ、大丈夫か!」


「大丈夫!」


 踏ん張りながらロロが叫ぶ。

 だが、正面から受け続けるには重すぎる。


 俺は舌打ちした。


 止める。崩す。核を砕く。

 手順は同じだ。

 だが、同じようにやって勝てる相手じゃない。


「クレーネ、核はまだか!」


「見えない。殻、厚い」


 ガレスが低く言う。


「この個体は、止めるだけでは足りません」


「くそ、面倒な相手だ」


 俺は息を吐いた。

 その時、巨大ゴーレムの拳が床を砕いた振動で、頭上から石片がぱらぱらと落ちた。


 全員が顔を上げる。


 ミシ……。


 鍾乳洞の天井が、鈍く鳴った。


「っ、またか」


 クレーネが短く言う。


「上、脆い」


 モランもすぐに叫ぶ。


「空洞の真ん中は駄目だ! ここで派手にやり合ったら頭上が崩れるぞ!」


 なるほどな。


 この空洞の中央は広い。

 だが広いぶん、上も高く、鍾乳石も長い。

 強打と振動を繰り返せば、崩落の危険が増す。


 硬い敵。

 重い一撃。

 脆い天井。


 全部が噛み合ってやがる。


 ロロが巨大ゴーレムの一撃をいなしながら叫ぶ。


「どうする、ロシュ様!?」


 戦うなら、少しでも端へ寄せるしかない。


「場所を変える!」


 俺は即答した。


「ロロ、引きつけながら下がれ! ガレスは左脚狙いで向きをずらせ! クレーネは右肩を削って視線を上げさせる!」


「了解!」

「はい!」

「ん!」


 バルドとトマの方を振り向く。


「お前らは中央から下がれ! 回収は後回しだ!」


「お、おう!」

「はいっ!」


 戦利品なんか今はどうでもいい。

 生きて戻ってから拾えばいい。


「ルシア!」


「分かっておる」


 ルシアはいつもの偉そうな顔のまま、すいーっと下がった。

 この悪魔、こういう時だけ無駄がない。


 ロロが巨大ゴーレムを引きつけながら、少しずつ位置をずらす。

 目指すのは鍾乳石が短く、岩壁がせり出した端だ。


 ゴーレムが追う。

 その外脚へ、ガレスの槍が鋭く入る。

 完全に止めるんじゃない。片脚を引っかけ、進む向きをわずかに曲げる。


「……なるほど」


 ガレスが低く呟く。


「止めるより、逸らす」


「そうだ!」


 その瞬間、クレーネの矢が右肩へ突き立った。

 ゴーレムの上体がそちらへ開く。

 肩口の外殻に走った裂け目が、その下まで一気に広がった。


「見えた! 胸じゃない、肩の下!」


 裂けた外殻の奥、肩の付け根の下で赤黒い光が揺れていた。

 だが、まだ高い。


「ロロ、右膝! ガレス、左脚を崩せ!」


「うん!」

「はい!」


 ロロの拳が右膝の付け根を強打で打ち、ガレスの槍が左脚の継ぎ目を穿つ。

 二方向から支えを崩された巨体が、ぐらりと前のめりに傾いだ。


 今だ。


 俺は地を蹴った。


(踏破、地踏、解放)


 一歩。

 濡れた岩床でも、勢いは逃げない。


 ロロとガレスが崩した体勢。

 クレーネがこじ開けた割れ目。

 全部が揃った、その一点へ叩き込む。


「――鎚踏、震打、解放!」


 剣が食い込む。

 厚い外殻が裂け、その奥の核へ刃が届く。

 赤黒い光が砕けた。


 次の瞬間、巨大ゴーレムの全身から力が抜けた。

 ずしん、と重い音を立てて崩れ落ちる。

 空洞に響いた余韻は長かった。


 誰も、すぐには動かなかった。


 やがてロロが息を吐く。


「……倒した」


 トマが遅れて声を上げる。


「た、倒したっす!」


「死ぬかと思ったぜ……」


 バルドがへたり込みながら言った。


「はぁ、何とかなったな」


 俺は肩で息をしながら、大きく息を吐いた。

 床に転がったものを見る。

 残っていたのは、大きめの外殻片だった。


 ロロが額の汗を拭う。


「あれ、真ん中でやってたら危なかったね」


「危ないどころじゃ済まんかったじゃろうな」


 モランが天井を見上げる。


「空洞の中央は広いが、上が脆い。逆に端は狭いが、落ち着いている」


 クレーネが頷く。


「広い場所、危ない」


「地形も考慮しなくてはならんとは、面倒な階層じゃ」


 俺は剣を鞘へ戻した。


「小型は今までのやり方でいける。だが大型は違う。戦う場所を選ぶ。止めるんじゃなく、動きを誘導して、崩してから核を通す」


 ガレスが槍を見下ろし、短く言う。


「止めるだけでは足りない。向きを変え、渡す。……理解しました」


「お前、今日そればっかり言ってるな」


「大事なことです」


「真面目かっ!」


 真顔で返されると笑うしかない。


 ロロが肩を回しながら言う。


「でも、やっと分かった気がする。二層の戦い方」


「ああ」


 俺は頷いた。


「二層は、ただ勝てばいい場所じゃない。どう勝つかを間違えると死ぬ」


 トマが慌てて手帳へ書き込む。


「大型は地形を考慮して倒す、核は肩の下にずれることもある……」


「お前も真面目かっ!」


 まあ、記録がそのまま攻略になる。

 これを積み上げれば、きっと役に立つこともあるだろう。


 ルシアが楽しそうに笑う。


「攻略らしくなってきたの」


「あぁ、そうだな」


 俺は答えた。


 第二層の敵は倒せる。

 だが、力で押し切るだけじゃ駄目だ。

 地形も敵の一部だと思って動かなきゃならない。


 それが分かっただけでも、今日は大きい。


 その時だった。


 トマがふと奥を見て、首を傾げた。


「……若様」


「なんだ」


「向こう、壁……変じゃないっすか?」


 全員の視線が奥へ向く。


 巨大ゴーレムがいた空洞のさらに先。

 岩壁の一角に、不自然なくぼみが見えた。


 鍾乳洞の自然な歪みじゃない。

 何かが削ったみたいに、まっすぐ線が入っている。


 モランが眉をひそめる。


「……自然の割れ方ではなさそうだな」


 ルシアの目が細まる。


「ほう」


 ロロが小さく息を呑む。


「道……かな?」


 俺はしばらくその壁を見つめた。

 今日のところは、ここまでのつもりだった。

 だが、あんなものを見せられて、背を向けられるほど鈍くもない。


 剣の柄に手をかけたまま、俺は短く言った。


「……まだ先があるな」


 鍾乳洞の奥は、何も答えず、ただ冷たく口を開けていた。

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