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祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


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第19話 正式加入

 あれから三日ほど経った。

探索から戻った俺達は、屋敷の食堂に集まっていた。


 長机には、今日の戦利品が並んでいる。

 魔石、牙、肉、甲殻の欠片、その他諸々の素材。

 数としては大したことはない。だが、昨日までの俺たち四人だけだった頃に比べれば、明らかに回収効率は上がっていた。


 バルドが背負い袋を床へ下ろし、その場にどかりと座り込む。


「っはぁぁぁ……し、死ぬ……」


「大げさだな」


「うるせぇ! 重いもん担いで迷宮歩くのがどれだけしんどいと思ってやがる! ルシアの嬢ちゃんの収納とやらで荷を全部預ければ楽できるのによ」


 ルシアの収納を見せたバルトは顎が外れんばかりの驚きだった。

 まぁ、こいつの言いたい事は分かる。

 しかし、ルシアの収納には限界があるし、あいつ一人で全てを賄えるわけがない。


「それだとお前の試しにならないし、これから人が増えれば荷運びは絶対必要になるんだ。お前のやっている事は無駄なんかじゃない。立派な仕事なんだぞ?」


「はぁ……。立派すぎて腰が砕けそうだ」


 言いながらも、顔はどこか満足げだった。

 ただ疲れただけじゃない。やることをやった顔だ。


 ロロが水差しを持ってきて、木の杯へ水を注ぐ。


「はい、みんなお疲れさま」


「おぉ、ありがたい……」


 バルドは一気に飲み干し、ようやく人心地ついたように息をついた。


 クレーネは椅子に座ったまま、すでに肉を齧っている。


「今日の肉、悪くない」


「お前は本当にそこしかぶれないな」


「大事」


「それは否定しないけどな」


 ルシアは机の端に座って足を組み、いかにも偉そうに頷いた。


「ふむ。今回の探索も悪くなかったの」


「まだ“悪くなかった”止まりだよ」


 俺はそう返しながら、素材の並ぶ机を見た。


 確かに悪くない。

 むしろ、思った以上に形になっていた。


 バルドは戦えないが運べる。

 モランは軽口が多いが、地形勘は本物だ。

 トマは未熟だが、指示をきちんと聞く。

 そしてガレスは――強い。


 強いが、それだけでは足りない。


 俺は食堂をぐるりと見渡した。


「よし。一回整理するぞ」


 モランが鼻を撫でながら片眉を上げる。


「ほう。反省会か」


「そんな立派なもんじゃない。確認だ」


 俺は机に手をついた。


「まず3日間の探索。全体としては合格点だった」


 トマがぱっと顔を上げる。


「ほ、本当っすか!?」


「ただし、問題点も見えた」


 その一言で、空気が少し締まる。


 俺は順に視線を向けた。


「バルド」


「おう?」


「運搬は文句なしだ。お前がいたから前衛が戦闘に集中できた」


 バルドがきょとんとする。


「お、おお?」


「ただし酒は駄目だ。酒臭いまま来たら次は外す」


「まだ言うのかよ!?」


「そこは毎回言う」


「信用ねぇなぁ!?」


「お前の普段を見てるからな」


 食堂に小さく笑いが起きた。


 俺は次にモランを見る。


「モラン」


「うむ」


「地形勘と気配読みは使える。横道確認も早い」


「ふふん。若造にはまだまだ負けるわけにはいかん」


「ただし話を盛るな」


「それは癖みたいなもんだ」


「現場で癖を出すな。死ぬ」


 モランは「うむぅ」と渋い顔をしたが、反論はしなかった。


「トマ」


「はいっ!」


「声がでかい」


「す、すみません!」


「でも動きは悪くなかった。勝手に前へ出なかったのは偉い」


 トマは一瞬、目を見開く。

 たぶん、もっと怒られると思っていたのだろう。


「見習いとしては合格だ。だが、無断前進したらすぐ後方に下げる」


「はいっ!」


「あと、お前が書いてた記録。あれは続けろ」


「え?」


「字は汚いが、分かれ道と危ない場所はちゃんと残ってた。次は曲がった向きも書け。地図に起こせるようになれば、次の探索が楽になる」


 トマは数秒固まったあと、顔をぱっと明るくした。


「はいっ!」


 ロロが嬉しそうに笑う。


「ちゃんと見てもらえてたんだね」


「使えるものは使う」


 そう返しつつ、最後に視線をガレスへ向ける。


 灰色の外套を椅子に掛けた男は、机の端に立ったまま静かにこちらを見ていた。


「ガレス」


「はい」


「腕は文句なしだ」


「そうでなければ来ていません」


「嫌味がないから腹立たないんだよなぁ、お前は」


「事実を言っただけです」


 そこがこいつの妙なところだった。


 俺は息を吐く。


「腕は十分だ。間合いも上手い。処理も速い。正直、一人で戦わせるなら頭一つ抜けてる」


 ロロがこくこくと頷く。

 クレーネも肉を齧るのを止めて、短く言った。


「強い」


 その評価はかなり重い。


「だが――」


 俺は言葉を切った。


「隊としては、まだ駄目だ」


 ガレスの表情は変わらない。

 ただ、目だけが少し細くなった。


「お前は自分で片付ける癖がある。悪意じゃないのは分かる。自分がやった方が早いって動きだ」


「はい」


「でも、お前が勝手に前へ出すぎたせいで、後ろが判断できなくなった」


 短い沈黙。


「俺たちは一人の無双を見たいんじゃない。全員で生きて戻るために動いてる」


「はい」


 強いだけの人間は、時に魔物より扱いが難しい。

 だが、噛み合わせられるなら、これ以上ない戦力にもなる。


「だからお前を入れるなら、“強い一人”としてじゃなく、“隊の一員”として入れる」


 俺はそこで一度、言葉を区切った。


「ガレス。お前を正式に入れる」


 ロロが目を丸くし、トマが「おお……」と小さく漏らす。

 バルドはにやっと笑い、モラン爺は髭を撫でながら頷いた。


 ガレスだけが、ほんの一拍置いてから口を開いた。


「条件は」


「ある」


 俺は即答した。


「探索中は隊長判断を優先しろ。独断専行は減点だ。連携を潰したら、どれだけ強くても外す」


「了解しました」


「不満は?」


「ありません」


「自信は?」


「あります」


 相変わらず無駄のない男だ。


 ……こういうやつは嫌いじゃない。


 ロロが嬉しそうに笑う。


「じゃあ、今日から本当に仲間だね」


 クレーネがぽつりと呟く。


「使える人、増えた」


「言い方が雑なんだよなぁ」


 ルシアは腕を組んで鼻を鳴らした。


「ようやく、少しは前線らしくなってきたの」


「少しだけな」


 俺は頷く。


「それと、お前ら三人も仮採用は継続だ」


 バルドたちが揃って顔を上げた。


「ただし、これはまだ“お試し”だ。隊のルールを守れないなら切る。役に立つなら残す。それだけだ」


 バルドが珍しく真面目な顔をする。


「……分かった」


 モランも小さく頷いた。


「俺も無茶はせん」


 トマは拳を握る。


「やります!」


「気合いはいい。空回るなよ」


「はいっ!」


 やっぱり声がでかい。


     ◇


 ひと通り話が済んだところで、ロロが首を傾げた。


「そういえば、報酬ってどうするの?」


 その一言で、バルドの顔がぱっと明るくなった。


「そうだそうだ! そこ大事!」


「お前さっきまで死ぬとか言ってたのに、急に元気になったな」


「金と酒は話が別だ!」


「欲望に正直だな……」


 俺は咳払いを一つして、机の上の紙を引き寄せた。


「そこも決める。暫定だが、当面のルールはこうする」


 全員の視線が集まる。


「まず、探索に出た者には日当を出す」


 トマが息を呑み、バルドが「おお」と声を漏らす。


「ただし全員一律じゃない。補助、運搬、斥候、前衛で多少差はつける」


「そりゃそうだわな」


 バルドが何度も頷く。

 モランも「ふむ」と顎に手を当てた。

 トマは思った以上だったのか、少し驚いた顔をしている。


「次に、持ち帰った素材は原則こっちで管理する。その代わり、成果に応じて買取分や上乗せを出す」


 モランが片眉を上げた。


「つまり、勝手に持ち帰るなということじゃな」


「そうだ。無断持ち出しは除名だ」


 少しだけ空気が張る。


 俺は続けた。


「その代わり、命を張らせて手ぶらで帰すつもりもない。働いた分は払う。成果を出した分は上乗せする。そこは約束する」


 ロロが小さく頷いた。

 たぶん、そこを一番気にしていたのだろう。


 トマが恐る恐る聞いてくる。


「えっと……飯は?」


 クレーネがぴくりと反応した。


「大事」


「お前が一番気にするなよ」


 俺はため息をつきつつ答えた。


「探索に出た日は一食支給だ。少なくとも帰ってきてからの飯は面倒見る」


 バルドが笑い、トマが目を輝かせる。

 モランも「それは悪くない」と頷いた。

 クレーネは無言で満足そうに頷いた。


 そして最後に、俺は少し声を低くした。


「武具は別枠だ」


 空気が変わる。


「スキル武具は給金代わりじゃない。あれは信頼と役割に応じて貸す。勝手に持ち出し、売却、隠匿。全部一発で外す」


 ガレスが静かに聞いている。

 バルドたちも、今度ばかりは茶化さなかった。


「つまり、金は払う。飯も出す。成果も見る。だが、武具は報酬じゃない。あれは隊の力だ」


 ルシアが面白そうに目を細めた。


「ほう。領主らしいことを言うようになったの」


「最初から領主だよ」


「あぁ、頭に貧乏が付いとったな」


「うるさい」


 だが、自分でも少しだけそう思った。


 今までは必死に前へ進むだけだった。

 だが今は、人を使い、人に任せ、人に線を引く側になり始めている。


     ◇


 夜も更け、話が一段落した頃。

 机の上には、簡単な役割表と報酬の覚え書きが並んでいた。


 俺はそれを見ながら、最後に全員へ言った。


「次は第二層だ」


 ロロが姿勢を正す。


「すぐ潜るの?」


「明日は準備に回す。その次だ」


 意外そうな顔が並ぶ。


「第二層は第一層の延長じゃない。補給も、持ち物も、隊の動きも見直す」


 バルドが首を捻る。


「そんなに違うもんか?」


「違う。少なくとも、同じ気分で行ったら痛い目を見る」


 ルシアが珍しく真面目に頷いた。


「うむ。第一層はまだ入口にすぎぬ。第二層からは、潜るだけでは足りぬぞ」


 クレーネが肉の皿を見つめながら呟く。


「食料、多めいる」


「そこは当たってる」


 ロロが指を折りながら数え始めた。


「水、袋、予備武具、食料、休める場所……」


 トマが慌てて紙を引き寄せる。


「書きます!」


「おう。そういうのは助かる」


 モランが思案顔で顎を摩った。


「なら俺は横道と帰り道をよく見ておくか」


 バルドも鼻を鳴らす。


「重いもん運ぶ準備なら任せろ」


 ガレスは短く言った。


「必要な形に合わせます」


 強いやつを集めれば終わりじゃない。

 役割を切って、動きを揃え、噛み合わせる。

 それができて初めて、隊になる。


 そして隊になれれば――


 この迷宮のさらに先へ、手が届く。


 俺は机の上の紙へ、新しく一行を書き足した。


 ――第二層突入準備

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