表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/28

第17話 紹介状の男

 男は机の前に立ったまま、余計なことは何も言わなかった。


 ただそこに立っている。

 それだけなのに、妙に空気が違った。

 騒がしさの残る屋敷前で、その男の周囲だけ妙に静かに見える。


 俺は差し出された封を受け取り、封蝋を確かめる。


「……本物だな」


「偽物である必要がありません」


 低い声だった。

 淡々としているが、ぶっきらぼうというほどでもない。

 無愛想というより、余計な言葉を削ぎ落とした結果そう見える感じだ。


 ロロが俺の肩越しに封を覗き込む。


「レオさん、なんて書いてあるの?」


「今読む」


 封を切り、中の紙を開く。

 見慣れた癖のある字が目に飛び込んできた。


 嫌な予感しかしない。


「どれどれ?」


 ルシアが机の上へ乗り出してくる。

 お前はどこぞの野次馬か。


 俺は眉をひそめながら、声に出して読んだ。


「『ロシュへ。うちの商会で囲っとる腕利きを送る。こいつは愛想も可愛げもないが、戦いに関しては本物や。親父のお気に入りやさかい背後関係も問題なしや。本人の希望もあり、お前んとこの泥臭い仕事にはちょうどええやろ』……」


「へぇ、あの親父さんのお気に入りか」


 思わず紙から顔を上げる。


 男の表情は変わらない。


「続きがあるよ?」


 ロロに促され、続きを読む。


「『ただし、使うかどうかはお前が決めぇ。俺の紹介やからって甘やかしたらあかんで。あと、こいつは無口で感じ悪いだけで、お前ほどの悪党やない』」


「誰が悪党だ!? あの豚野郎」


 ルシアが吹き出した。


「ずいぶん雑な推薦文じゃの」


「だろうな。あいつらしい」


 だが、逆に信用はできた。

 レオは本当に駄目なものを、ここまでして寄越したりはしない。

 雑に見えて、線を引くところは引く男だ。


 俺は紙を畳み、男を見た。


「名前は?」


「ガレスです」


「武器は槍か」


「一番長く使ってきました」


「なんでうちに来た」


「金です。レオ殿には稼げる場所だと聞いたので」


 実直。

 その返しに無駄な飾りはない。

 自分を大きく見せようという気配もない。


 面接で散々見た、口先だけの連中とはそこが違った。

 欲望を隠していないのに、浅ましく見えない。そこが逆に厄介でもあり、信用の種でもある。


 クレーネが肉を噛むのを止め、じっとガレスを見ている。


「……強い」


 即答だった。


「お、珍しく褒めたな」


「立ち方がいい」


 クレーネはそれだけ言った。


 ロロもガレスを見つめたあと、小さく頷く。


「うん。なんか……ちゃんとしてる感じがする」


「曖昧だな」


「でも大事だよ?」


 それはそうだ。

 案外、そういう感覚の方が当たることもある。


 ルシアは腕を組んだ。


「少なくとも、あのカスどもよりはましじゃな」


「比較対象がひどすぎるんだよ」


 俺は椅子から腰を上げた。


「レオの紹介なら信用もする。だが、採用は別だ」


 ロロが少し目を丸くする。

 クレーネは無言。

 ルシアは面白そうに口元を歪めた。


 ガレスは表情一つ変えなかった。


「構いません」


「即答だな」


「そちらが決めることです」


 落ち着いた声だ。


 俺は机に手をついた。


「うちは傭兵集めじゃない。探索隊だ。強いだけで勝手に動くやつは困る。レオの紹介でも、その辺は自分で見る」


「妥当です」


 俺は顎で庭をしゃくった。


「軽く手合わせしてもらう」


     ◇


 屋敷の庭には、すでに夕方の空気が落ち始めていた。

 日が傾き、長く伸びた影が土の上を斜めに走っている。


 ロロとクレーネ、それにルシアが少し離れた場所から見ている。


 ガレスは背の槍を外し、静かに構えた。


 長すぎず短すぎず、扱い込まれた槍だ。

 装飾はない。実用一点張り。

 柄には細かな擦れがあり、穂先の根元には何度も手入れされた跡が見える。

 見栄えじゃない。使って生き残ってきた武器だ。


 俺も訓練用の剣を手に取る。


「一応言っとくが、本気の殺し合いじゃないからな」


「分かっています」


「怪我させるなよ」


「努力します」


「努力って何だ努力って」


 ロロが不安そうに呟く。


「ロシュ様、大丈夫?」


「大丈夫……だと思いたい」


 俺は息を吐き、剣を構えた。


 対するガレスは半身。

 穂先がぶれない。

 肩にも肘にも余計な力みがなく、立ち姿だけで間合いを押し返してくる。


 見ただけで分かる。昨日までの村人たちとは別物だ。


「いくぞ」


「どうぞ」


 どっしりとした構え。強者特有の圧を感じる。

 この男、マジで強い。


 俺は胸を借りるつもりで少し強めに踏み込んだ。


 槍の穂先がふっと跳ねる。


「――っ」


 思わず足を止めた。


 気づけば、喉元へ届く最短を先に取られていた。

 あと半歩でも踏み込んでいたら、そこで終わっていた距離だ。


「今のは?」


 ロロが目を瞬く。


「牽制だな」


 俺は剣を下げずに答えた。


「けど、ただの牽制じゃない。踏み込んでたら刺されてた」


 ガレスは表情を変えない。


「止まったので刺しませんでした」


「そういうとこだよ。怖えぇな」


 ルシアが感心したように言う。


「間合いの取り方が上手いのぉ」


 もう一度、今度は角度を変えて入る。

 左から踏み込み、剣を流すように振るう。


 槍の柄が当たる。


 軽い。

 軽いが、芯がぶれない。

 こちらが押し込んだはずなのに、気づけば剣筋そのものをずらされている。


 剣が逸らされると同時に、ガレスの足が半歩だけ動いた。

 次の瞬間、また穂先が俺の腹に届く位置にある。


「うわ、速い……」


 ロロが感嘆の声を漏らす。


 クレーネは短く言った。


「無駄がない」


 そう。そこだ。


 速いだけじゃない。

 動きに無駄がない。

 “こう来たらこう返す”が体に染みついている。

 しかも返しが一つじゃない。いつでも二手先にいられる感じがする。


「もう一回だ」


 俺は剣を握り直した。


 今度は少し本気でいく。


(踏破、解放)


 地を蹴る。


 加速を得た体は、一気に間合いを潰す。

 ガレスの目が、初めてわずかに見開かれた。

 ――入った。


 そう思った次の瞬間、柄尻が腹へめり込んだ。


「ぐえっ!?」


 鈍い衝撃に息が詰まる。

 肺の空気がまとめて押し出され、情けない声が漏れた。


 ちくしょう。

 スキル在りでも簡単に潰された。


「そこまでじゃな」


 ルシアが面白そうに笑った。


「決まったの」


「……決まったな」


 俺は腹を押さえながら苦笑する。


「やるな」


「そうでなければ、ここへ来ません」


「言うねぇ」


 ロロがぱちぱちと拍手した。


「すごい……」


 クレーネも頷く。


「強い」


 その評価は、かなり重い。


 俺は剣を肩に担ぎ、ガレスを見る。


「腕は分かった。だが、それだけじゃ足りない」


 ガレスは無言で続きを待った。


「うちで見るのは、探索で指示が聞けるか、周りが見えるか、組めるかだ」


 これはレオの紹介でも変わらない。

 どれだけ強くても、一人で勝つことしか考えていないなら迷宮では死人が出る。


「次の探索に同行してくれ」


 俺は言った。


「そこで本当に使えるかを見せてもらう」


 ガレスは一拍置いて、短く答えた。


「了解しました」


「不満は?」


「ありません」


「自信はあると」


「あります」


 その言い方に嫌味はなかった。

 ただ事実を言っているだけの声音だった。


 ……嫌いじゃない。


 ロロが俺のところへ駆け寄ってくる。


「ロシュ様、大丈夫?」


「腹がちょっと痛いくらいだ」


「ちょっと?」


「たぶん明日には紫色になってる」


「やっぱり痛いやつじゃない!」


 クレーネがガレスを見たまま言う。


「使える。でも、一人で勝つ動きしてる」


 なるほど。

 やっぱりそこか。


 強い。

 だが、それで全部済むなら苦労しない。

 探索隊の中で噛み合うかは、まだ別の話だ。


 ルシアがにやりと笑う。


「あの豚さんも、たまには役に立つの」


 俺はルシアの軽口に苦笑いで返すしかなかった。


 だが、この男が本物なのは分かった。

 問題は、俺たちの中で本当に使えるかどうかだ。


 それを確かめるのは、次の探索になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ