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祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


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第16話 最初の応募者

 翌朝のヴァーミリオン家は、朝から妙に騒がしかった。




「ロシュ様、机こっちでいい?」




「そこだ。あと椅子も二つ追加で頼む」




「二つで足りる?」




「足りなきゃ床に座ってもらう」




「雑!」




 ロロが呆れながらも、屋敷前へ木の机と椅子を運んでいく。




 俺は昨日の夜に書き上げた紙を、掲示板へ貼り直していた。




 ヴァーミリオン領暫定ハンター組合


 ダンジョン探索人員募集


 身元確認あり


 素材の無断持ち出し禁止


 武具貸与は試験通過者のみ


 報酬は日当、または素材買取制




 ……うむ。


 字面だけ見れば、それっぽい。




 中身は突貫工事もいいところだが、今は速度優先だ。


 一年後に全部吹き飛ぶくらいなら、見切り発車でも走り出すしかない。




「人、来る?」




 クレーネが焼いた肉を齧りながら聞いてきた。




「来ないと困る」




「来なくても肉は食べる」




「お前はまず少し遠慮を覚えろ」




 クレーネは首を傾げた。




「遠慮すると、お腹いっぱいにならない」




「そういうことじゃないんだよ……」




 その横で、ルシアはいつものように椅子の上でふんぞり返っていた。




「ふむ。人間どもがどれほど集まるか、見ものじゃの」




「見世物じゃない。面接だ」




「似たようなものではないか」




「似てねぇよ」




 ロロが面接用の紙を覗き込む。




「名前、住んでる場所、得意なこと……。これ、村の人たちに聞くの?」




「聞く」




「だいたい知ってない?」




「知ってるけど、書類っぽいだろ」




「見栄え重視だった」




 実際、半分くらいはそうだ。


 こういうのは中身と同じくらい、ちゃんとして見えることも大事なのである。


 たぶん。きっと。おそらく。




 だが領主としてそれを認めるのもどうかと思うので、俺は咳払いで誤魔化した。




「と、とにかく始めるぞ」




「うむ」




「ん」




「はいっ」




 こうして、ヴァーミリオン領暫定ハンター組合の、ぐだぐだで慌ただしい初日は幕を開けた。




     ◇




 最初にやってきたのは、村の酒場で毎晩酔いつぶれているおっさんだった。




「よぉ若様! 聞いたぞ、ダンジョン探索の人手が欲しいんだってな!」




「聞いたならまず、その酒臭い息をどうにかしろ」




 革袋を腰にぶら下げた大柄な男――バルドは、がははと笑った。




「朝の一杯は気付けだ!」




「今、朝どころか昼前なんだが?」




「細かいことを気にするから貧乏なんだぞ若様」




「その理屈で酔っ払いを採用するわけないだろ!」




 ロロが控えめに手を挙げる。




「えっと、バルドさんは何ができるんですか?」




「荷運び!」




「戦えないのかよ」




「若い頃は村一番の担ぎ手って言われてたんだぞ。重い荷でも背負って山道を歩ける」




「今は?」




「酒が抜けると体が震えて――」




「アル中じゃねぇか!」




「がはは! 冗談だ!」




 ルシアが呆れたように言う。




「ただの運搬要員ではないか」




「そうとも言う」




 クレーネがじっとバルドを見て、一言。




「足遅い」




「なんで分かる!?」




「腹」




「腹で判断するな!」




 だが、ロロが小さく首を傾げた。




「でもバルドさん、重い荷物を運ぶのは村で一番だよね」




「おう!」




「戦えなくても、素材を持ち帰れる人は必要かも……」




 俺は腕を組んだ。




 たしかに、迷宮探索は戦うだけじゃない。


 素材の回収、運搬、持ち帰り。そういう役も必要だ。


 今まで俺たちだけでやっていたせいで感覚が麻痺していたが、人手が増えるならまずそこが楽になる。




「仮登録だ」




「おっ、本当か!」




「ただし酒抜いてから来い」




「えぇーっ」




「そこが最低条件だ!」




 バルドはぶつぶつ言いながらも、少し嬉しそうに帰っていった。




 ロロが小声で言う。




「一人目、決まっちゃった」




「戦力じゃなくて運搬要員だけどな」




「でも前進だよ」




 それはそうだ。


 ……たぶん。




     ◇




 次に来たのは、自称“昔はすごかった元ハンター”のモランだった。




 背が低く、鼻が特徴的な男だ。


 腰には古びた短剣。


 そして口だけは無駄に達者である。




「若様、安心しろ。俺がいればダンジョンなど庭みたいなもんだ」




「その台詞、昨日も酒場で聞いたぞ」




「昨日の俺と今日の俺は違う」




「はいはい」




 俺が流すと、モランは胸を張った。




「俺は若い頃、ワイバーンの爪を三本へし折った事がある」




「嘘」




 クレーネが即答した。




 モランが固まる。




「な、何故そう思う」




「匂い」




「匂い!?」




「ワイバーンの匂いしない」




「いやいやいや、何年前の話だと思っとる!?」




 クレーネは真顔だった。




「じゃあコボルト」




「急に格が落ちたな!?」




 ロロが吹き出す。


 ルシアも肩を揺らしている。




 モランは悔しそうに特徴的な鼻を撫でた。




「……まあ、少し盛った」




「どれくらいだ」




「森犬を追い払ったくらいだな」




「盛りすぎだろ!」




 だが、話を聞いてみると、モランは確かに森の地形に詳しかった。


 若い頃、行商人の護衛や魔物の追い払いをしていたのも本当らしい。


 足は遅いが、地形の見方と風向きの読み方は年季を感じさせた。




 戦闘は厳しい。


 しかし、道案内や森の知識という意味では斥候として使い道がある。




「仮登録二号」




「おおっ!」




「ただし、話を盛るたび減点な」




「世知辛い」




「お前が軽口で死地に案内しそうだからだよ」




 クレーネがぽつりと言う。




「弱い」




「事実だが、容赦がないな」




「でも、森の匂いは知ってる」




 それは、クレーネなりの合格点なのかもしれない。




     ◇




 三人目は、村の若い兄ちゃん――トマだった。




「若様! 俺、やるっす!」




「声がでかい」




「気合いっす!」




「耳が痛い」




 元気はある。


 体格も悪くない。


 ただ、剣を持つ手は明らかにぎこちない。




 しかも腰には剣のほかに、小さな革手帳と木炭の束が差してあった。


 畑仕事用の覚え書きにでも使っているのだろうか。




「戦ったことは?」




「ゴブリン一匹なら!」




「一匹かぁ……」




 ロロが微妙な顔をする。




 トマは慌てて付け足した。




「で、でも足は速いっす! 畑もやってるから体力あるっす! 荷運びだってできるっす!」




 そこは悪くない。




「なんで応募した」




 俺が聞くと、トマは一瞬だけ黙った。




「……このまま何もできないの、嫌なんっす」




「何も?」




「魔物が増えるかもしれないって聞きました。だったら、誰かがやってくれるのを待つんじゃなくて、自分で動きたいっす」




 さっきまでの勢いとは少し違う、真っ直ぐな目だった。


 怖くないわけじゃない。けど、それでも前に出ようとしている目だ。




 俺は一拍置いた。




「戦闘班はまだ無理だ」




 トマの顔が曇る。




「で、でも!」




「最後まで聞け」




 俺は机の端にあった紙を一枚引き寄せた。




「お前、字は書けるか」




「え?」




「読めるか書けるかって聞いてる」




「一応、村の帳面つける手伝いをしたことはあるっすけど……下手っすよ?」




 その返答に、少しだけ考えが変わった。




 ダンジョン探索で本当に厄介なのは、戦うことだけじゃない。


 どこに何があったか。どの道が安全か。袋小路はどこか。


 人数が増えるなら、そういう情報を残す役が要る。




「補助班候補だ」




「……!」




「回収補助と運搬もやってもらうが、もう一つ仕事を覚えろ」




「仕事、っすか?」




「地図作りだ」




 トマが目を丸くする。




「ち、地図?」




「歩いた道、分かれ道、危ない場所、魔物が出やすい場所。見たものをちゃんと残せる人間が欲しい」




「俺にできるっすかね……」




「最初から上手くやれとは言わん。だが、足が動いて、言われたことを覚える気があるなら育てようはある」




 トマは何度も頷いた。




「やるっす!」




「返事だけはいいな」




「はいっ!」




 ロロが小さく微笑む。




「センバスさんが見たら、喜んで鍛えそうな子だね」




「あぁ、分かる」




「地図も描けるようになったら、すごく助かるかも」




「だな。戦えなくても、道を残せるやつは無駄にならん」




 センバスは教え魔だし、嬉々として鍛えてくれるだろう。




     ◇




 その翌日も応募者は何人か来たが、なかなか決め手に欠けた。




 武具だけ欲しがるやつ。


 規約も読まずに文句を言うやつ。


 やたら威張り、目が我欲に濁ったやつ。


 だいたいそういうことを言い出すのは、余所者ばかりなのだが。




「で、その武具とやらは今すぐもらえるんだろ?」




「試験通過者のみだ」




「はぁ? 面倒だな。先に実物だけでも見せろよ」




 なんだこいつの偉そうな物言い……。


 こんなんでも一応、俺は爵位持ちの貴族なんだが。




「帰れ。不敬を重ねるなら、さすがに見逃さんぞ」




「けっ! 何が不敬だ。こんなカスみたいな糞田舎の貴族なんて怖かねぇよ」




 カスみたいな糞田舎。




 その言葉に殺意が湧くが、理性で蓋をする。


 こんな与太者にバカにされるのは業腹だ。


 だが、うちはのどかで平和だけが取り柄の貧乏領地。刀傷沙汰は領民を不安にさせてしまう。




 俺はもう一度、目に力を込めて言った。




「失せろ。二度は言わんぞ」




「ちっ……」




 男は不満そうに舌打ちし、すぐに退散した。




 ロロがほっと息をつく。




「あの人、怖かったね……」




 俺や領地をバカにされた時、震える拳を握るロロの方が怖かったけどな。


 ……キレるんじゃないかと、ひやひやしたぞ。




 そうして半日が過ぎた頃には、俺は机に突っ伏していた。




「……疲れた」




 ロロが木の杯を差し出してくる。




「はい、お水」




「ありがたい……」




「どう? 収穫あった?」




「ゼロではない」




「でも大当たりもない?」




「そうだな……」




 バルドは運搬要員。


 モラン爺は斥候役。


 トマは見習い兼雑務補助、回収補助――それに地図作製候補。




 悪くはない。


 悪くはないが、今欲しいのは即戦力だ。




 とはいえ、トマに地図を覚えさせる価値はある。


 ダンジョンは潜るたび景色が変わるわけじゃない。積み上げた情報は、そのまま生存率になる。




 クレーネが肉をかじりながら言った。




「今日の収穫、少ない」




「狩りみたいに言うな」




「似てる」




「どこが」




「弱いの混ざる」




「お前なぁ……」




 しかし、その言葉自体は否定できなかった。




 人手は欲しい。


 でも、誰でもいいわけじゃない。




 ロロがぽつりと呟く。




「強い人でも、勝手なことする人は嫌だな」




「だよな」




「なんか……ダンジョンより、そっちの方が怖いかも」




 俺は思わず苦笑した。




「それはある」




 組織を作るってことは、魔物だけじゃなく、人間の面倒も見るってことだ。


 難儀な話である。




     ◇




 日が傾き始めた。




 今日の募集も、そろそろ終わりだろう。




「……今日はこんなもんか」




 俺がそう呟いた、その時だった。




 門の向こうから、一人の男が歩いてきた。




 灰色の外套。


 背には槍。


 年の頃は二十代後半ほど。


 やたら胸を張りもしないし、周りをきょろきょろ見回しもしない。




 ただ真っ直ぐ、こちらへ歩いてくる。




 妙に、空気が違った。




 歩幅は一定。


 力みも隙もない。


 無駄に威圧してくるわけでもないのに、自然と目が引かれる。




 俺は顔を上げる。




 男は机の前まで来ると、一通の封を差し出した。




「ダフィー商会のレオナルド殿より紹介されました」




 レオ?




 俺は身を起こした。




 封に押されているのは、見慣れたダフィー商会の印。




 俺は男の顔を見る。




 その男は、修羅場を幾つも潜ってきた戦う者の目をしていた。


 酒場で見てきた“強いふり”の連中とは、根本から空気が違う。

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